[P1-A-0241] 短下肢装具の初期角度が脳血管障害片麻痺者の歩行に与える影響
キーワード:短下肢装具, 初期角度, 床反力
【はじめに,目的】
短下肢装具(以下,AFO)の初期角度は変形が生じたときに矯正モーメントを発生しはじめる角度と定義され,脳血管障害片麻痺者(以下,片麻痺者)の歩行に影響を与えることが知られている。しかし,AFOの初期角度が歩行に与える影響についての詳細な知見は少ない。本研究の目的は,片麻痺者を対象にAFOの初期角度による違いを反映する歩行分析項目として重要なものを検討し,AFOの初期角度が片麻痺者の歩行に与える影響を明らかにすることである。
【方法】
被検者はAFOを使用し,屋内歩行が自立している維持期の男性片麻痺者9名(年齢47.0±5.9歳,身長164.8±8.3cm,体重60.6±7.6kg,右片麻痺5名/左片麻痺4名,下肢Br.stageIII6名/IV3名)である。歩行計測時の条件はAFOの初期角度を背屈方向に0°,5°及び10°(以下,d0,d5,d10)とした3条件である。AFOはモジュラーレッグブレース(トクダオルソテック社,ただし足底の差高なし)を使用し,底屈のみを制限した。初期角度は鉛直線とAFOの支柱とがなす角により定義した。被検者は約8mの平坦な直線歩行路にて支持物を使用せず自由歩行し,その様子を三次元動作解析装置(Motion Analysis社)と床反力計(Kistler社)2基を用いて計測した。なお,3条件において測定を行う順序は無作為に決定し,各条件で2歩行周期のデータを算出した。歩行分析項目は,①非麻痺側制動期平均力積値(Breaking Mean Amplitude;以下,BA),②非麻痺側駆動期平均力積値(Propulsive Mean Amplitude;以下,PA),③麻痺側BA,④麻痺側PA,⑤麻痺側膝関節屈曲角度,⑥非麻痺側歩幅,⑦麻痺側歩幅,⑧歩行速度の8項目とした。BA及びPAは,床反力前後成分の正負が変わる立脚中期の点で2つに分け,初期接地(以下,IC)から立脚中期を制動期,立脚中期から前遊脚期を駆動期とし,前後成分波形内の各面積を制動期,及び駆動期の時間と体重で除して算出した。麻痺側膝屈曲角度は麻痺側荷重応答期(以下,LR)における膝関節最大屈曲角度とした。また,歩幅は身長で除して算出し,歩行速度は歩行路の中央にある床反力計1.2m間の平均歩行速度とした。麻痺側膝屈曲角度,歩幅,歩行速度はいずれもマーカーより求めた。算出したBA,PA,膝関節屈曲角度,歩幅,歩行速度について各被検者内で3条件間における差の検定を,対応のあるt検定を用いて行った。有意水準は0.05とし,Bonferroni法により各項目の名義的有意水準は0.017とした。解析にはExcelを使用した。
【結果】
麻痺側BAは,d0よりd10(p=0.0059),d5よりd10(p=0.0062)で有意に小さくなった。麻痺側膝関節屈曲角度は,d0よりd10(p=0.011),d5よりd10(p=0.0025)で有意に大きくなった。麻痺側歩幅は,d10でd0よりも有意に大きかった(p=0.012)。その他の歩行分析項目では3条件間における有意差を認めなかった。
【考察】
本研究ではAFOの初期角度を3条件に設定し,8つの歩行分析項目においてAFOの初期角度による違いをより反映するものが何であるかを検討した。その結果,麻痺側のBA,膝関節屈曲角度,歩幅では3条件間において差がみられた。
麻痺側BAはd10でd0,d5よりも小さかった。d10では足関節背屈位で底屈制動モーメントが加わることでICからLRでの下腿の前傾,及び前方への重心移動が生じやすくなると考えられる。そのため後方への床反力は生じにくくなり,麻痺側BAが小さくなったと考えられた。麻痺側膝関節屈曲角度はd10でd0,d5よりも大きかった。AFOの底屈制動モーメントは足関節のみでなく膝関節にも影響を与えるとされており(山本,1990),ICからLRでの下腿の前傾が大きくなることで膝関節屈曲角度も大きくなったと考えられた。麻痺側歩幅はd10でd0よりも大きかった。AFOの底屈制動モーメントの大きさが非麻痺側歩幅に影響を与えるとの報告がある(櫻井,2006)が,AFOの初期角度は麻痺側歩幅に影響を与える可能性が示唆された。
以上より,AFOの初期角度を決定する際の歩行分析項目として麻痺側BAや麻痺側膝関節屈曲角度,麻痺側歩幅が有用であると考えられる。今後は身体機能や歩行パターン,常用しているAFOの種類との関係を考慮した上でAFOの初期角度の違いを反映する歩行分析項目として重要なものを明らかにするため,被検者数を増やし,検討していきたい。
【理学療法研究としての意義】
本研究は,AFOの初期角度の違いを反映する歩行分析項目として重要なものが何であるかを検討した。今後は本研究を発展させていくことでAFOの初期角度を決定する際の一助となると考える。
短下肢装具(以下,AFO)の初期角度は変形が生じたときに矯正モーメントを発生しはじめる角度と定義され,脳血管障害片麻痺者(以下,片麻痺者)の歩行に影響を与えることが知られている。しかし,AFOの初期角度が歩行に与える影響についての詳細な知見は少ない。本研究の目的は,片麻痺者を対象にAFOの初期角度による違いを反映する歩行分析項目として重要なものを検討し,AFOの初期角度が片麻痺者の歩行に与える影響を明らかにすることである。
【方法】
被検者はAFOを使用し,屋内歩行が自立している維持期の男性片麻痺者9名(年齢47.0±5.9歳,身長164.8±8.3cm,体重60.6±7.6kg,右片麻痺5名/左片麻痺4名,下肢Br.stageIII6名/IV3名)である。歩行計測時の条件はAFOの初期角度を背屈方向に0°,5°及び10°(以下,d0,d5,d10)とした3条件である。AFOはモジュラーレッグブレース(トクダオルソテック社,ただし足底の差高なし)を使用し,底屈のみを制限した。初期角度は鉛直線とAFOの支柱とがなす角により定義した。被検者は約8mの平坦な直線歩行路にて支持物を使用せず自由歩行し,その様子を三次元動作解析装置(Motion Analysis社)と床反力計(Kistler社)2基を用いて計測した。なお,3条件において測定を行う順序は無作為に決定し,各条件で2歩行周期のデータを算出した。歩行分析項目は,①非麻痺側制動期平均力積値(Breaking Mean Amplitude;以下,BA),②非麻痺側駆動期平均力積値(Propulsive Mean Amplitude;以下,PA),③麻痺側BA,④麻痺側PA,⑤麻痺側膝関節屈曲角度,⑥非麻痺側歩幅,⑦麻痺側歩幅,⑧歩行速度の8項目とした。BA及びPAは,床反力前後成分の正負が変わる立脚中期の点で2つに分け,初期接地(以下,IC)から立脚中期を制動期,立脚中期から前遊脚期を駆動期とし,前後成分波形内の各面積を制動期,及び駆動期の時間と体重で除して算出した。麻痺側膝屈曲角度は麻痺側荷重応答期(以下,LR)における膝関節最大屈曲角度とした。また,歩幅は身長で除して算出し,歩行速度は歩行路の中央にある床反力計1.2m間の平均歩行速度とした。麻痺側膝屈曲角度,歩幅,歩行速度はいずれもマーカーより求めた。算出したBA,PA,膝関節屈曲角度,歩幅,歩行速度について各被検者内で3条件間における差の検定を,対応のあるt検定を用いて行った。有意水準は0.05とし,Bonferroni法により各項目の名義的有意水準は0.017とした。解析にはExcelを使用した。
【結果】
麻痺側BAは,d0よりd10(p=0.0059),d5よりd10(p=0.0062)で有意に小さくなった。麻痺側膝関節屈曲角度は,d0よりd10(p=0.011),d5よりd10(p=0.0025)で有意に大きくなった。麻痺側歩幅は,d10でd0よりも有意に大きかった(p=0.012)。その他の歩行分析項目では3条件間における有意差を認めなかった。
【考察】
本研究ではAFOの初期角度を3条件に設定し,8つの歩行分析項目においてAFOの初期角度による違いをより反映するものが何であるかを検討した。その結果,麻痺側のBA,膝関節屈曲角度,歩幅では3条件間において差がみられた。
麻痺側BAはd10でd0,d5よりも小さかった。d10では足関節背屈位で底屈制動モーメントが加わることでICからLRでの下腿の前傾,及び前方への重心移動が生じやすくなると考えられる。そのため後方への床反力は生じにくくなり,麻痺側BAが小さくなったと考えられた。麻痺側膝関節屈曲角度はd10でd0,d5よりも大きかった。AFOの底屈制動モーメントは足関節のみでなく膝関節にも影響を与えるとされており(山本,1990),ICからLRでの下腿の前傾が大きくなることで膝関節屈曲角度も大きくなったと考えられた。麻痺側歩幅はd10でd0よりも大きかった。AFOの底屈制動モーメントの大きさが非麻痺側歩幅に影響を与えるとの報告がある(櫻井,2006)が,AFOの初期角度は麻痺側歩幅に影響を与える可能性が示唆された。
以上より,AFOの初期角度を決定する際の歩行分析項目として麻痺側BAや麻痺側膝関節屈曲角度,麻痺側歩幅が有用であると考えられる。今後は身体機能や歩行パターン,常用しているAFOの種類との関係を考慮した上でAFOの初期角度の違いを反映する歩行分析項目として重要なものを明らかにするため,被検者数を増やし,検討していきたい。
【理学療法研究としての意義】
本研究は,AFOの初期角度の違いを反映する歩行分析項目として重要なものが何であるかを検討した。今後は本研究を発展させていくことでAFOの初期角度を決定する際の一助となると考える。