[P1-A-0244] 脳卒中片麻痺者における座面高が歩き始め動作の足圧中心に与える影響について
キーワード:片麻痺, 座面高, 歩き始め動作
【はじめに,目的】
脳卒中片麻痺者における学習された不使用とは,主に非麻痺側を優位にした動作が行われ,この動作の習慣化が麻痺側使用を無意識に避けた状態を生み出し効率の悪い動作を生じると言われている。立ち上がり動作(sit to stand:以下STS)については非麻痺側伸展筋を中心に利用した非対称的な姿勢による代償戦略を用いると報告されている。このようなSTSは,次に行われる行動への阻害因子となる事を臨床において経験する。また,行動を実行するためには随意運動がバランスを崩す潜在的な要因を最小限にするための先行随伴性姿勢調節(以下APA’s)が働くと言われている。しかし,脳卒中片麻痺者においてはAPA’sが十分に働かず足圧中心(以下COP)移動量が小さくなると報告されている。近年,座位からの歩行開始動作は,立位からの歩き始めと異なる動作パターンを行うと報告されているが,脳卒中片麻痺者においてSTSが及ぼす立位の姿勢制御がその後の歩行に与える影響を明らかにする事は効果的な治療アプローチを行う上で重要であると考えられる。しかし,STSが歩き始め動作のAPA’sに及ぼす影響についての報告は少ない。今回,座面高が歩き始め動作のCOPに影響を認めたため報告する。
【方法】
対象は,脳血管疾患による初発の片麻痺者12名(脳梗塞9名,脳出血3名,平均年齢57.5±12.1歳,身長159.6±9.9cm),発症からの日数は119±35日,下肢のBrunnstrom StageIII-IVであった。歩行は自立または見守りで病棟歩行を開始している者とし,明らかな高次脳機能障害,指示動作が行えない者,歩行に介助を有する者は除外した。使用機器はインターリハ社製ゼブリス高機能型圧分布測定システム(以下WinFDM)を使用しサンプリング周波数は100Hzに設定した。対象者にはWinFDM上でSTSを行い,歩き始め動作の合成COP移動量を抽出した。座面の高さは,座位で膝関節が屈曲90度で足底が全接地するように調整し膝関節裂隙から足底まで下ろした垂線を基準として80%(Low群)・100%(Normal群)・120%(High群)の高さに設定した。STS前の座位姿勢は,課題を実施する前に立位から着座を行った姿勢とし膝関節が屈曲100から105度,両足は平行に置き両足間が10から15cmになるように設定した。動作開始は任意のタイミングでSTSを行い立位完了後,振り出す下肢は麻痺側からとして至適速度で歩き始めるように指示した。各条件を3回実施,1回目は練習とし2回目と3回目の平均値を算出,COP移動量は身長で正規化した。課題の高さを開始する順番はランダムに設定した。統計処理は,一元配置分散分析を実施後,多重比較検定(Tukey)にて各群における有意差を求めた。有意水準は5%未満とした。
【結果】
歩き始め動作の合成COPにおける後方への移動量は,High群がNormal群間(p<0.05)・Low群間(p<0.01)に対してそれぞれ有意に増加していた。振り出し側への合成COP移動量においては,Low群がHigh群間(p<0.05)に対して有意に減少していたが,その他の群間では有意差を認められなかった。
【考察】
歩行開始の前方運動量は下腿三頭筋の活動が抑制されCOPが後方移動することで身体重心との位置関係にずれが生じることで形成される。今回,High群が他の群と比較して後方へのCOP移動量が有意に増加した。座面高が高くなり離臀から伸展相にかけて重心の上方移動が容易に可能となり,効率の良いSTSとなった事から歩き始め動作に必要な下腿三頭筋の抑制が行いやすくなったと示唆される。また,脳卒中片麻痺者は,麻痺側・非麻痺側ともに筋の同時活動が増大するほど歩行開始の前方運動量が低下したと報告されている事から,Low群では麻痺側下肢筋が同時活動の増大した事によって後方へのCOP移動量が減少したと示唆される。また,振り出し側へのCOPの移動は,支持足の外転モーメント減少と降り出し側の外転モーメント増加によって行われる。今回,Low群は,非麻痺側優位のSTSであった事が予想されるため非麻痺側の外転モーメントが増加し,振り出し側へのCOP移動量がHigh群に比べて減少傾向であったと考えられる。本研究はCOP移動量のみの評価であるため,今後,関節モーメントや筋電図による解析を検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中片麻痺者において,座面高は歩き始め動作のCOPに影響を及ぼす事が示唆された。よって本研究結果は,歩行治療アプローチに役立てる基礎的知見となり運動学習を促進することが期待される。
脳卒中片麻痺者における学習された不使用とは,主に非麻痺側を優位にした動作が行われ,この動作の習慣化が麻痺側使用を無意識に避けた状態を生み出し効率の悪い動作を生じると言われている。立ち上がり動作(sit to stand:以下STS)については非麻痺側伸展筋を中心に利用した非対称的な姿勢による代償戦略を用いると報告されている。このようなSTSは,次に行われる行動への阻害因子となる事を臨床において経験する。また,行動を実行するためには随意運動がバランスを崩す潜在的な要因を最小限にするための先行随伴性姿勢調節(以下APA’s)が働くと言われている。しかし,脳卒中片麻痺者においてはAPA’sが十分に働かず足圧中心(以下COP)移動量が小さくなると報告されている。近年,座位からの歩行開始動作は,立位からの歩き始めと異なる動作パターンを行うと報告されているが,脳卒中片麻痺者においてSTSが及ぼす立位の姿勢制御がその後の歩行に与える影響を明らかにする事は効果的な治療アプローチを行う上で重要であると考えられる。しかし,STSが歩き始め動作のAPA’sに及ぼす影響についての報告は少ない。今回,座面高が歩き始め動作のCOPに影響を認めたため報告する。
【方法】
対象は,脳血管疾患による初発の片麻痺者12名(脳梗塞9名,脳出血3名,平均年齢57.5±12.1歳,身長159.6±9.9cm),発症からの日数は119±35日,下肢のBrunnstrom StageIII-IVであった。歩行は自立または見守りで病棟歩行を開始している者とし,明らかな高次脳機能障害,指示動作が行えない者,歩行に介助を有する者は除外した。使用機器はインターリハ社製ゼブリス高機能型圧分布測定システム(以下WinFDM)を使用しサンプリング周波数は100Hzに設定した。対象者にはWinFDM上でSTSを行い,歩き始め動作の合成COP移動量を抽出した。座面の高さは,座位で膝関節が屈曲90度で足底が全接地するように調整し膝関節裂隙から足底まで下ろした垂線を基準として80%(Low群)・100%(Normal群)・120%(High群)の高さに設定した。STS前の座位姿勢は,課題を実施する前に立位から着座を行った姿勢とし膝関節が屈曲100から105度,両足は平行に置き両足間が10から15cmになるように設定した。動作開始は任意のタイミングでSTSを行い立位完了後,振り出す下肢は麻痺側からとして至適速度で歩き始めるように指示した。各条件を3回実施,1回目は練習とし2回目と3回目の平均値を算出,COP移動量は身長で正規化した。課題の高さを開始する順番はランダムに設定した。統計処理は,一元配置分散分析を実施後,多重比較検定(Tukey)にて各群における有意差を求めた。有意水準は5%未満とした。
【結果】
歩き始め動作の合成COPにおける後方への移動量は,High群がNormal群間(p<0.05)・Low群間(p<0.01)に対してそれぞれ有意に増加していた。振り出し側への合成COP移動量においては,Low群がHigh群間(p<0.05)に対して有意に減少していたが,その他の群間では有意差を認められなかった。
【考察】
歩行開始の前方運動量は下腿三頭筋の活動が抑制されCOPが後方移動することで身体重心との位置関係にずれが生じることで形成される。今回,High群が他の群と比較して後方へのCOP移動量が有意に増加した。座面高が高くなり離臀から伸展相にかけて重心の上方移動が容易に可能となり,効率の良いSTSとなった事から歩き始め動作に必要な下腿三頭筋の抑制が行いやすくなったと示唆される。また,脳卒中片麻痺者は,麻痺側・非麻痺側ともに筋の同時活動が増大するほど歩行開始の前方運動量が低下したと報告されている事から,Low群では麻痺側下肢筋が同時活動の増大した事によって後方へのCOP移動量が減少したと示唆される。また,振り出し側へのCOPの移動は,支持足の外転モーメント減少と降り出し側の外転モーメント増加によって行われる。今回,Low群は,非麻痺側優位のSTSであった事が予想されるため非麻痺側の外転モーメントが増加し,振り出し側へのCOP移動量がHigh群に比べて減少傾向であったと考えられる。本研究はCOP移動量のみの評価であるため,今後,関節モーメントや筋電図による解析を検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中片麻痺者において,座面高は歩き始め動作のCOPに影響を及ぼす事が示唆された。よって本研究結果は,歩行治療アプローチに役立てる基礎的知見となり運動学習を促進することが期待される。