[P1-A-0247] 脳卒中後の重度上肢片麻痺例に対する上肢肢位の相違が歩行時の麻痺肢遊脚相に及ぼす影響
Keywords:脳卒中, 重度上肢麻痺, 歩行
【はじめに,目的】
我々は先行研究において上肢懸垂用肩装具Omo Neurexa(以下ON)を脳卒中後の重度上肢片麻痺例に使用することで,前傾姿勢を軽減し歩行時の底屈制動トルクに変化が及ぶこと,さらに固定することにより推進力の向上が得られることを明らかにした。重度上肢片麻痺例では正常歩行より遅れた麻痺側上肢運動が出現し,麻痺側遊脚初期から遊脚中期に体幹や下肢に衝突する現象が推進力の妨げとなっていると推察した。今回は一症例に対しArm Sling(以下AS)着用時とON着用時およびON着用且つ上肢体側固定時(以下固定時)の3条件で,麻痺側上肢が衝突する麻痺側下肢遊脚相中期の足関節背屈角度と下肢振り出しの加速度(以下振り出し加速度)の違いをGait Judge System(以下GJS)を用いて調査したので報告する。
【方法】
対象は40代男性。右上下肢の脱力(上下肢手指共にBr,StageV)と呂律不全により発症。左放線冠のアテローム血栓性脳梗塞と診断される。第3病日に麻痺増悪(Br,Stage上肢I,下肢III,手指I),左基底核,内包後脚へ梗塞巣が拡大した。現在,歩行はGait Solution Designとロフストランド杖を使用し自立している(Br,Stage上肢I,下肢IV,手指II)。歩行条件はAS着用時とON着用時および固定時の3条件とした。固定時はON着用且つ麻痺手を下衣のポケットに入れ,上肢のふらつきを抑制した。10m歩行を快適速度で各歩行条件2回実施し,歩行速度の早いものを採用した。測定にはGJSを用いた。GJSより得られたデータから10m歩行中の9歩行周期波形より,麻痺側下肢遊脚期中期の足関節背屈角度および下肢振り出しの加速度を抽出した。統計処理は,足関節背屈角度は反復測定分散分析,振り出し加速度はFriedman検定を実施し,効果が認めた場合,多重比較法(Shaffer法,Wilcoxon検定)を併用することとした。有意水準は5%未満とした。統計ソフトはR ver. 2.8.1.を使用した。
【結果】
足関節背屈角度はAS着用時0.94±0.66度,ON着用時1.26±0.52度,固定時1.07±0.78度で有意差を認めなかった(p=0.57),振り出し加速度はAS着用時-0.19±0.42m/s2,ON着用時-0.17±0.33m/s2,固定時0.48±0.38m/s2で有意差を認め(p=0.016),多重比較の結果,AS着用時と固定時(p=0.039),ON着用時と固定時(p=0.039)で有意差を認めた。
【考察】
今回はAS着用時とON着用時および固定時における麻痺側下肢遊脚相中期の足関節背屈角度と振り出し加速度についてGJSを用いて調査した。足関節背屈角度は3条件で有意差を認めなかった。また,振り出し加速度は固定時にAS着用時・ON着用時より有意に増加した。これらは先行研究により推察された,麻痺側上肢の遊脚初期から遊脚中期に振り戻されてきた麻痺側上肢が,体幹・下肢に衝突する現象が足部の運動は損なわれないにも関わらず,推進力の妨げになっていることを表していると考えられる。Perryらは,歩行中の上肢の振りの果たす役割は,骨盤の回旋の反作用として働き,歩行中の身体の回旋を最小限にするとしている。つまり,下肢への荷重開始時に上肢を後方へ保持することで,二次的な安定性を得るための手段であると述べられている。さらにOrtegaは,歩行中の上肢の作用は,水平面だけでなく,前額面の安定性に寄与すると述べている。これらのことより,脳卒中後の重度上肢片麻痺例の歩行は,通常歩行に比べ,遅れた上肢の動きにより身体の回旋抑制や安定性の低下,前額面での安定性低下に加え,振り戻された上肢が体幹・下肢に衝突し,推進力を妨げられていると考えられる。よって,脳卒中後の重度上肢片麻痺例の歩行では上肢を懸垂したうえで固定も併用することがよいと思われる。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中後の重度上肢片麻痺例への歩行介入として有用であると思われる。
我々は先行研究において上肢懸垂用肩装具Omo Neurexa(以下ON)を脳卒中後の重度上肢片麻痺例に使用することで,前傾姿勢を軽減し歩行時の底屈制動トルクに変化が及ぶこと,さらに固定することにより推進力の向上が得られることを明らかにした。重度上肢片麻痺例では正常歩行より遅れた麻痺側上肢運動が出現し,麻痺側遊脚初期から遊脚中期に体幹や下肢に衝突する現象が推進力の妨げとなっていると推察した。今回は一症例に対しArm Sling(以下AS)着用時とON着用時およびON着用且つ上肢体側固定時(以下固定時)の3条件で,麻痺側上肢が衝突する麻痺側下肢遊脚相中期の足関節背屈角度と下肢振り出しの加速度(以下振り出し加速度)の違いをGait Judge System(以下GJS)を用いて調査したので報告する。
【方法】
対象は40代男性。右上下肢の脱力(上下肢手指共にBr,StageV)と呂律不全により発症。左放線冠のアテローム血栓性脳梗塞と診断される。第3病日に麻痺増悪(Br,Stage上肢I,下肢III,手指I),左基底核,内包後脚へ梗塞巣が拡大した。現在,歩行はGait Solution Designとロフストランド杖を使用し自立している(Br,Stage上肢I,下肢IV,手指II)。歩行条件はAS着用時とON着用時および固定時の3条件とした。固定時はON着用且つ麻痺手を下衣のポケットに入れ,上肢のふらつきを抑制した。10m歩行を快適速度で各歩行条件2回実施し,歩行速度の早いものを採用した。測定にはGJSを用いた。GJSより得られたデータから10m歩行中の9歩行周期波形より,麻痺側下肢遊脚期中期の足関節背屈角度および下肢振り出しの加速度を抽出した。統計処理は,足関節背屈角度は反復測定分散分析,振り出し加速度はFriedman検定を実施し,効果が認めた場合,多重比較法(Shaffer法,Wilcoxon検定)を併用することとした。有意水準は5%未満とした。統計ソフトはR ver. 2.8.1.を使用した。
【結果】
足関節背屈角度はAS着用時0.94±0.66度,ON着用時1.26±0.52度,固定時1.07±0.78度で有意差を認めなかった(p=0.57),振り出し加速度はAS着用時-0.19±0.42m/s2,ON着用時-0.17±0.33m/s2,固定時0.48±0.38m/s2で有意差を認め(p=0.016),多重比較の結果,AS着用時と固定時(p=0.039),ON着用時と固定時(p=0.039)で有意差を認めた。
【考察】
今回はAS着用時とON着用時および固定時における麻痺側下肢遊脚相中期の足関節背屈角度と振り出し加速度についてGJSを用いて調査した。足関節背屈角度は3条件で有意差を認めなかった。また,振り出し加速度は固定時にAS着用時・ON着用時より有意に増加した。これらは先行研究により推察された,麻痺側上肢の遊脚初期から遊脚中期に振り戻されてきた麻痺側上肢が,体幹・下肢に衝突する現象が足部の運動は損なわれないにも関わらず,推進力の妨げになっていることを表していると考えられる。Perryらは,歩行中の上肢の振りの果たす役割は,骨盤の回旋の反作用として働き,歩行中の身体の回旋を最小限にするとしている。つまり,下肢への荷重開始時に上肢を後方へ保持することで,二次的な安定性を得るための手段であると述べられている。さらにOrtegaは,歩行中の上肢の作用は,水平面だけでなく,前額面の安定性に寄与すると述べている。これらのことより,脳卒中後の重度上肢片麻痺例の歩行は,通常歩行に比べ,遅れた上肢の動きにより身体の回旋抑制や安定性の低下,前額面での安定性低下に加え,振り戻された上肢が体幹・下肢に衝突し,推進力を妨げられていると考えられる。よって,脳卒中後の重度上肢片麻痺例の歩行では上肢を懸垂したうえで固定も併用することがよいと思われる。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中後の重度上肢片麻痺例への歩行介入として有用であると思われる。