第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

脳損傷理学療法5

Fri. Jun 5, 2015 11:20 AM - 12:20 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-A-0268] 脳卒中後片麻痺患者に対する低頻度反復性経頭蓋磁気刺激と集中的リハビリテーションの併用療法における理学療法の効果

松下信郎, 田中直次郎, 山岡まこと, 福江亮, 丸田佳克, 可部健司, 岡本隆嗣 (西広島リハビリテーション病院)

Keywords:脳卒中, 経頭蓋磁気刺激, 理学療法

【はじめに】
当院では慢性期脳卒中後片麻痺患者を対象に,健側大脳運動野手指領域への低頻度反復性経頭蓋磁気刺激(以下低頻度rTMS)と集中的作業療法(以下集中的OT)を15日間併用するNEURO-15を行い,上肢機能が有意に改善することを確認している。吉田らはNEURO-15を集中的OTに理学療法(以下PT)も加えた集中的リハビリテーション(以下集中的リハ)を行うプロトコルに一部変更し,歩行およびバランス機能の改善の可能性を報告している。しかし,低頻度rTMSと集中的リハの併用療法におけるPTの効果に関する報告は少なく,明らかではない。本研究の目的は,低頻度rTMSと集中的リハの併用療法におけるPTの効果を明らかにすることとした。
【方法】
対象は2010年12月25日から2014年9月30日までに当院でNEURO-15を実施した脳卒中後片麻痺患者72名(平均年齢63±12歳,男性53名,女性19名,発症後経過月数13~201ヵ月)であった。対象を低頻度rTMSと集中的OTのみを実施した群をPT非実施群(50名),集中的OTに加えPTを実施した群をPT実施群(22名)と分類した。PT非実施群には,1Hz,20分間(1200発)の健側大脳への低頻度rTMS,上肢に対する60分間の個別リハビリテーション(以下個別リハ),60分間の自主トレーニング(以下自主トレ)からなるセッションを15日間の入院期間中に計21セッション行った。PT非実施群では上肢練習のみ実施し,下肢や歩行に対する練習は実施しなかった。PT実施群は非実施群でのプログラムに加え,下肢や歩行に対する60分間の個別リハを2回行った。PTでの個別リハでは麻痺側下肢への荷重練習や歩行練習等の運動療法に加え,自主トレ指導を実施した。評価項目は,上肢・下肢機能評価としてFugl-meyer Assessment(以下FMA),Wolf Motor Function Test(以下WMFT),Stroke Impairment assessment Set(以下SIAS),改訂Ashworthスケール(以下MAS)を用いた。歩行・バランスの評価として,10m歩行テスト,Wisconsin Gait Scale(以下WGS),Timed up and go test(以下TUG)を用いた。入院および退院時にPT非実施群と実施群の2群間を比較するためにMann-Whitney検定を使用した。両群における入院時と退院時の比較にはWilcoxonの符号付き順位検定を使用した。また,全評価項目について入院時と退院時の変化量を算出し,PT非実施群と実施群の2群間における変化量の差異を検討した。有意水準は5%とした。
【結果】
入院および退院時の2群比較では,すべての項目に有意差を認めなかった。それぞれの群内の入院時と退院時の比較では,両群ともにFMA,WMFT,MAS,SIAS合計点と下位項目の下肢関節可動域,10m歩行テスト,TUG,WGSにおいて有意差が認められた(p<0.05)。2群間における変化量の比較では,PT実施群においてSIAS下肢運動機能合計,WGSに有意な改善が認められた(p<0.05)。その他の評価項目においては有意な差は認められなかった。
【考察】
低頻度rTMSと集中的リハの併用療法におけるPTは下肢機能や歩行の改善に影響している可能性が示唆された。下肢や歩行に対して直接的なアプローチを実施していないPT非実施群においても下肢機能や歩行の改善が認められたことから,手指領域の低頻度rTMSが下肢に対しても影響していることが考えられる。変化量の検討において,PT実施群のみにSIAS下肢運動機能合計の改善が認められたことから,低頻度rTMSにPTを加えることでさらなる下肢運運動機能の改善に影響したと考える。また,その下肢運動機能の改善がWGSの有意な改善にみられる歩容の改善に寄与したと考えられる。本研究により,健側大脳から病側大脳にかかる大脳半球間抑制を目的とした健側大脳手指領域に対する低頻度rTMSは,下肢の運動機能にも影響し,低頻度rTMS後にPTを行うことで下肢運動機能の改善をより促進する可能性があることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果から,NEURO-15のプログラムにPTを併用することで下肢機能や歩行にも有益な効果を発揮することが示唆された。rTMSとの併用により適したPTプログラムの検討が今後の課題といえる。