第50回日本理学療法学術大会

Presentation information

ポスター

ポスター1

脳損傷理学療法6

Fri. Jun 5, 2015 11:20 AM - 12:20 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-A-0278] 脳卒中後片麻痺者において二重課題が予測性姿勢制御に与える影響

前田絢香1, 大畑光司2, 北谷亮輔2,3, 橋口優2,3, 脇田正徳2,4, 阿河由巳2, 真嶋優希1, 門田栞1, 大迫小百合2 (1.京都大学医学部人間健康科学科理学療法専攻, 2.京都大学大学院医学研究科人間健康科学専攻, 3.日本学術振興会特別研究員, 4.関西医科大学附属枚方病院)

Keywords:脳卒中, 姿勢制御, 二重課題

【はじめに,目的】
脳卒中後片麻痺者ではバランス機能が日常生活動作に与える影響が大きく,バランス機能の改善は理学療法の重要な目標となる。バランス動作を行う際に姿勢の変化に対して先行して生じる姿勢制御戦略を予測性姿勢制御(Anticipatory postural adjustments:APAs)という。脳卒中後片麻痺者ではAPAsの障害が報告されており,バランス機能を阻害している可能性がある。
また脳卒中後片麻痺者では二重課題条件下での立位や歩行中のバランスが障害されるという報告もある。しかし,二重課題条件下でのAPAsに関する報告は少ない。先行研究では二重課題条件下における姿勢制御を調べる際に集中性注意を要するストループ課題を用いたものが多く報告されており,この課題が姿勢制御への注意に影響を与えると考えられている。本研究の目的は,ストループ課題を応用した二重課題の難易度が脳卒中後片麻痺者のAPAsに与える影響について検討することとした。
【方法】
対象は地域在住の脳卒中後片麻痺者9名(年齢60.6±9.9歳,男性4名,女性5名,右麻痺5名,左片麻痺4名,下肢Brunnstrom Recovery Stage III3名,IV3名,V3名,Mini-Mental State Examination27.3±2.9)とした。各対象者には2枚の床反力計に片脚ずつのせた静止立位をとらせ,これを開始肢位とした。その後,目線の高さに置いたパソコンに提示した課題に応じて左右の下肢を前方にステップさせる動作を行わせた。提示する条件は2種類の難易度の異なる課題からなり,条件1は「赤」「黄」「緑」「青」の文字が表示されるが,赤色か青色の二色で描かれており,赤色であれば右側,青色であれば左側をステップさせた。条件2はストループ課題を応用し,「赤」「黄」「緑」「青」の文字が赤色,黄色,緑色,青色のいずれかで描かれており,文字とその文字の色が一致していれば右側,異なれば左側を出すように指示した。測定前にステップを左右5回ずつ練習させ,被験者には画面の文字が表示されればできるだけ早くステップ動作を行うように指示した。条件提示時には左右5回ずつステップさせ,安定したステップ動作のデータのみ解析を行った。
床反力計(Kistler社製)を用いて足圧中心(以下COP)と床反力を測定し,得られたデータは6Hzをカットオフとしバターワースフィルターで処理を行った。条件を提示した時点をOnsetとし,解析区間はOnsetからステップする側の足部の離地までとした。足圧中心(以下COP)が開始前の平均値から2SDを越えた時点を算出し,Onsetからこの時点までの時間をリアクションタイム(以下RT)とした。またCOPが後方に最大変位した時間を算出した。筋電計(Noraxon社製)を用いて,麻痺側・非麻痺側の前脛骨筋,外側腓腹筋,ヒラメ筋の表面筋電図測定を行った。得られた筋電図はバターワースフィルターで処理した後に整流化を行った。その後,前脛骨筋においてOnset前の静止立位の平均値より2SDを越えた時点を算出し,前脛骨筋のリアクションタイム(以下TART)を調べた。統計解析はOnsetからCOPのRT,TART,COP後方最大変位時間,離地までの時間の四つの指標の条件間の違いを対応のあるt検定を用いて検討した。統計学的有意水準は5%とした。
【結果】
麻痺側をステップさせた場合はRTとTARTが有意に延長し(p<0.05),非麻痺側のステップでは有意な差はなかった。麻痺側,非麻痺側のどちらをステップさせた時もOnsetから離地までの時間,COPの後方最大変位時間に条件間で有意な差は得られなかった。
【考察】
非麻痺側をステップさせた場合,条件間でどのような差も認めなかったのに対して,麻痺側をステップさせた場合,COPで算出したリアクションタイムと非麻痺側の前脛骨筋で算出したリアクションタイムが条件2において有意に延長した。リアクションタイムが遅れた条件2はより大きな注意を払う必要がある認知課題である。APAsが影響を受けた理由は,この課題を遂行するために麻痺側のステップへの注意が向けられなくなったためであると考える。つまり,麻痺側を運動させる時は非麻痺側に比較して認知負荷が多大に要求されることが推察される。二重課題条件下で麻痺側を運動させる時には姿勢制御が阻害され,非麻痺側で支持していたとしてもバランス機能の低下が生じる可能性があることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果,二重課題条件により脳卒中後片麻痺者のAPAsが障害されることから,バランス機能向上にむけた理学療法における考案が得られた。