[P1-A-0281] 訪問リハビリテーション利用者の居宅における熱中症リスクについて
Keywords:地域理学療法, 訪問リハビリテーション, リスク管理
【はじめに,目的】
近年,気候の温暖化に伴い,熱中症になる人が増加している。総務省のデータによると全国で6月から9月の期間に,熱中症で救急搬送された人は,暑い夏となった2010年は56,119人,2013年は58,729人で,年齢層別では65歳以上の高齢者が最も多く,2013年は27,828人で全体の47%を占めている。熱中症は,気温,湿度,輻射熱の3つを取り入れた温度の指標として暑さ指数(以下WBGT)が28℃以上になると厳重警戒とされ,急激に発生件数が増加するといわれている。しかし過去において,訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)利用者の居宅におけるWBGTに関する報告はほとんどみられない。そこで今回,居宅における熱中症へのリスクを把握することを目的に,居宅高齢者の住環境のWBGTを調査した。
【方法】
平成26年8月1日~8月29日の期間に訪問リハを実施した61件(利用者数56名,平均年齢77.1±9.4歳)を対象とした。訪問リハ中ベッドサイドにおけるWBGT,室温,湿度の計測には黒球式熱中症指数計(タニタ社製TT-560-WH)を使用し,10分以上室内に設置し安定化させた後に表示された数値を採用した。統計処理は,クーラー使用群とクーラー使用無し群での室内WBGTの比較を対応のないT検定とし,また外気温と室内WBGTとの相関関係も検証し,統計学的有意差判定基準は5%未満とした。
【結果】
本期間中の訪問リハ実施中に外気温が30℃以上のいわゆる真夏日であった件数は41件(67.2%)であった。また室内WBGTが28℃以上の厳重警戒ラインに達していた件数は,7件(11.5%),25~27℃までの警戒領域であった件数は,17件(25.4%)であった。さらにクーラーの設置率は全体の96.7%で,厳重警戒ラインに達していた7件では全てでクーラーが設置されていたが,全利用者がクーラーを使用していなかった。クーラーを使用していない理由としては,「寒いから使用しない」や「窓を開けているから大丈夫」という回答が得られた。また,誤って暖房を使用している事例もみられた。そしてクーラー使用群の平均室内WBGTは23.2℃(±1.6),クーラー使用無し群の平均室内WBGTは26.8℃(±1.7)となり,クーラー使用無し群での室内WBGTの方が有意に高い結果となった(p<0.01)。さらに外気温と室内WBGTの相関関係を検証したところ,クーラー使用無し群では,有意に正の相関がみられた(p<0.01)が,クーラー使用群では相関がみられなかった。
【考察】
1年間の真夏日の日数が多くなると,熱中症死亡数も多くなるとされている。真夏日は最高気温が30℃以上の日をさすが,本研究期間においても,訪問リハ実施中の外気温が30℃以上であった割合は67.2%であった。また近年,家庭で発生する高齢者の熱中症が増えており,高齢者では半数を超えている。2010年の厚生労働省人口動態統計では,熱中症で死亡した人においても家庭で発生した割合が45.8%を占めており,家庭で発生する高齢者の熱中症に対する対策の必要性が高まっている。WBGTは日最高気温の場合以上に,熱中症死亡率との関係がはっきりしており,WBGTが28℃を超えるあたりから熱中症による死亡が増え始め,高くなるに従って死亡率が急激に上昇するといわれている。今回検証した居宅では,11.5%で室内WBGTが厳重警戒ラインであった。その厳重警戒ラインのすべての家庭において,クーラーを設置しているのにも関わらず使用していなかった。クーラー使用無し群はクーラー使用群よりも室内WBGTが高く,外気温と室内WBGTも正の相関関係であることが明らかとなったが,クーラーを使用している場合は相関せず,外気温の影響が少ないことが明らかとなった。クーラーを使用していない理由としては,「寒いから」という意見が多く,これは高齢者における体温調節能力の低下が影響していると考えられるが,設定温度や,クーラーの配置場所なども影響している可能性があるため,今後検証が必要である。また今回,熱中症症状の精査は実施していないが,簡易所見として,足部を始めとした浮腫の増加や認知機能の低下,さらに脱水で入院となった事例もみられ,夏場の訪問リハにおいて熱中症症状をリスク管理の一つとして留意し,今後そのような所見も検証する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,8月の期間中において居宅高齢者の熱中症リスクが明らかとなった。特にクーラーを使用していない場合は,日中室内であっても熱中症リスクにさらされていることになる。訪問リハの利用者には,8月の暑い時期にクーラーを使用するように指導し,使用していない場合は,熱中症症状について十分注意する必要がある。
近年,気候の温暖化に伴い,熱中症になる人が増加している。総務省のデータによると全国で6月から9月の期間に,熱中症で救急搬送された人は,暑い夏となった2010年は56,119人,2013年は58,729人で,年齢層別では65歳以上の高齢者が最も多く,2013年は27,828人で全体の47%を占めている。熱中症は,気温,湿度,輻射熱の3つを取り入れた温度の指標として暑さ指数(以下WBGT)が28℃以上になると厳重警戒とされ,急激に発生件数が増加するといわれている。しかし過去において,訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)利用者の居宅におけるWBGTに関する報告はほとんどみられない。そこで今回,居宅における熱中症へのリスクを把握することを目的に,居宅高齢者の住環境のWBGTを調査した。
【方法】
平成26年8月1日~8月29日の期間に訪問リハを実施した61件(利用者数56名,平均年齢77.1±9.4歳)を対象とした。訪問リハ中ベッドサイドにおけるWBGT,室温,湿度の計測には黒球式熱中症指数計(タニタ社製TT-560-WH)を使用し,10分以上室内に設置し安定化させた後に表示された数値を採用した。統計処理は,クーラー使用群とクーラー使用無し群での室内WBGTの比較を対応のないT検定とし,また外気温と室内WBGTとの相関関係も検証し,統計学的有意差判定基準は5%未満とした。
【結果】
本期間中の訪問リハ実施中に外気温が30℃以上のいわゆる真夏日であった件数は41件(67.2%)であった。また室内WBGTが28℃以上の厳重警戒ラインに達していた件数は,7件(11.5%),25~27℃までの警戒領域であった件数は,17件(25.4%)であった。さらにクーラーの設置率は全体の96.7%で,厳重警戒ラインに達していた7件では全てでクーラーが設置されていたが,全利用者がクーラーを使用していなかった。クーラーを使用していない理由としては,「寒いから使用しない」や「窓を開けているから大丈夫」という回答が得られた。また,誤って暖房を使用している事例もみられた。そしてクーラー使用群の平均室内WBGTは23.2℃(±1.6),クーラー使用無し群の平均室内WBGTは26.8℃(±1.7)となり,クーラー使用無し群での室内WBGTの方が有意に高い結果となった(p<0.01)。さらに外気温と室内WBGTの相関関係を検証したところ,クーラー使用無し群では,有意に正の相関がみられた(p<0.01)が,クーラー使用群では相関がみられなかった。
【考察】
1年間の真夏日の日数が多くなると,熱中症死亡数も多くなるとされている。真夏日は最高気温が30℃以上の日をさすが,本研究期間においても,訪問リハ実施中の外気温が30℃以上であった割合は67.2%であった。また近年,家庭で発生する高齢者の熱中症が増えており,高齢者では半数を超えている。2010年の厚生労働省人口動態統計では,熱中症で死亡した人においても家庭で発生した割合が45.8%を占めており,家庭で発生する高齢者の熱中症に対する対策の必要性が高まっている。WBGTは日最高気温の場合以上に,熱中症死亡率との関係がはっきりしており,WBGTが28℃を超えるあたりから熱中症による死亡が増え始め,高くなるに従って死亡率が急激に上昇するといわれている。今回検証した居宅では,11.5%で室内WBGTが厳重警戒ラインであった。その厳重警戒ラインのすべての家庭において,クーラーを設置しているのにも関わらず使用していなかった。クーラー使用無し群はクーラー使用群よりも室内WBGTが高く,外気温と室内WBGTも正の相関関係であることが明らかとなったが,クーラーを使用している場合は相関せず,外気温の影響が少ないことが明らかとなった。クーラーを使用していない理由としては,「寒いから」という意見が多く,これは高齢者における体温調節能力の低下が影響していると考えられるが,設定温度や,クーラーの配置場所なども影響している可能性があるため,今後検証が必要である。また今回,熱中症症状の精査は実施していないが,簡易所見として,足部を始めとした浮腫の増加や認知機能の低下,さらに脱水で入院となった事例もみられ,夏場の訪問リハにおいて熱中症症状をリスク管理の一つとして留意し,今後そのような所見も検証する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,8月の期間中において居宅高齢者の熱中症リスクが明らかとなった。特にクーラーを使用していない場合は,日中室内であっても熱中症リスクにさらされていることになる。訪問リハの利用者には,8月の暑い時期にクーラーを使用するように指導し,使用していない場合は,熱中症症状について十分注意する必要がある。