[P1-A-0296] 通所リハビリテーションを利用する虚弱高齢者におけるDynamic Gait Indexの転倒リスク判別の検討
キーワード:転倒予測, 虚弱高齢者, 課題歩行評価
【はじめに,目的】
高齢者の転倒は年間10~20%発生しており,介護の主要な要因として問題となっている。高齢者の中でも特に虚弱高齢者は転倒リスクが高く,自宅での転倒発生リスク比が健常高齢者の2倍あるとの報告もある(Northridge,1995)。このことから虚弱高齢者の転倒リスクを予測し,早期支援・介入することが重要である。転倒は地域生活の中で特に歩行中に生じており,歩行における転倒リスクの判別が必要となる。Shumway-Cook(2013)は従来の時間距離変数を用いた歩行評価は簡便で有力な転倒リスク評価指標だが,施設内の整えられた環境下であることから実際の地域生活での能力を反映しているかは明確ではないと述べている。そこで歩行中に認知課題負荷を行い生活場面に近い環境下での歩行を評価することで,より地域生活における歩行能力と転倒リスクの判別が可能になると考える。課題歩行を行う尺度としてDynamic Gait Index(以下,DGI)がある。DGIは8項目の課題歩行を実施し,その課題に対する認知応答やバランス制御反応により歩行を修正する能力を点数化する。地域高齢者においてDGIの妥当性,信頼性を有しているとされるがその報告は少なく,加えて地域高齢者の中でも高い転倒リスクを有している虚弱高齢者に対してDGIの検討はなされていない。また虚弱高齢者は歩行能力が低いと言われており,地域高齢者を対象とした先行研究で報告されているカットオフ値19点では虚弱高齢者の転倒リスクを過大評価すると考えられる。そのことから,虚弱高齢者の転倒リスクをより高精度に判別するためにカットオフ値の再検討が必要である。本研究の目的は,地域在住の虚弱高齢者におけるDGIの転倒リスクの判別力を検討することである。
【方法】
対象は通所リハビリテーションを利用する65歳以上の高齢者である。除外基準として1)歩行不可能な者,2)認知症スケールであるCDR-Sの得点から認知機能低下が著名とされる者,3)Friedらの虚弱指標に基づくCHS基準が0点の非虚弱者の3つを設ける。DGIの課題は6mの歩行路を使用し,口頭指示にて通常歩行,速度変更,頭部の上下・左右回旋,方向転換を歩行中に行うもの,歩行中の障害物のまたぎ動作,8の字歩行,そして階段昇降の8つがある。各課題における歩行中の不安定さおよび課題への応答を1項目0から3点で点数化し,24点満点中得点が低いほど課題への歩行修正能力が低いといえる。本研究では転倒リスク判別の妥当性を有するModified Gait Abnormality Raiting Scaleをアウトカムとして用いる。統計解析はDGI得点が転倒リスクに寄与するかをロジスティック回帰分析にて解析を行う。またROC分析により曲線下面積(AUC)を求め,カットオフ値の検討を行い,感度・特異度の算出を行う。解析ソフトはSPSS ver. 16.0 Regressionとver. 22 Statisticsを使用する。
【結果】
対象者は44名であり,平均年齢は78.1±7.1歳であった。転倒リスク者は21名でDGI平均得点は13.9点,非転倒リスク者は23名でDGI平均得点は17.8点と有意に転倒リスク者の得点が低かった(p<0.01)。ロジスティック回帰分析の結果,DGIのオッズ比は0.42(p<0.01,95%信頼区間0.25~0.72)であった。カットオフ値を19点としたとき,感度100%,特異度34.8%であった。ROC曲線の結果,AUCは0.885,16.5点をカットオフ値としたとき感度69.6%,特異度91.5%であり,陽性尤度比は8.2,陰性尤度比は0.2となった。
【考察】
ロジスティック回帰分析より,DGI得点の減少は転倒リスクの増加に有意に寄与し,DGIの得点が転倒リスクを判別可能であることが示された。この結果を受け,虚弱高齢者においてカットオフ値を算出した結果,地域高齢者を対象とした19点に比較し,16点以下が転倒リスクをより高い精度で判別することが明らかとなった。また陽性尤度比から高い転倒リスク判別力を有することが明示された。DGIにおける課題は口頭指示に対する応答,頭部の操作やまたぎなど地域生活の中で想定される内容と考えられ,DGIによる歩行評価を行うことにより地域高齢者に加えて虚弱高齢者においても地域生活での転倒リスク判別が可能となることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
DGIを用いた歩行評価により歩行中の転倒リスクを有する虚弱高齢者を早期特定し,重点的な介入を行うことが可能になる。また,DGIの減点された項目に対して理学療法介入や環境調整を行うことでより効果的な転倒予防が可能になると考える。
高齢者の転倒は年間10~20%発生しており,介護の主要な要因として問題となっている。高齢者の中でも特に虚弱高齢者は転倒リスクが高く,自宅での転倒発生リスク比が健常高齢者の2倍あるとの報告もある(Northridge,1995)。このことから虚弱高齢者の転倒リスクを予測し,早期支援・介入することが重要である。転倒は地域生活の中で特に歩行中に生じており,歩行における転倒リスクの判別が必要となる。Shumway-Cook(2013)は従来の時間距離変数を用いた歩行評価は簡便で有力な転倒リスク評価指標だが,施設内の整えられた環境下であることから実際の地域生活での能力を反映しているかは明確ではないと述べている。そこで歩行中に認知課題負荷を行い生活場面に近い環境下での歩行を評価することで,より地域生活における歩行能力と転倒リスクの判別が可能になると考える。課題歩行を行う尺度としてDynamic Gait Index(以下,DGI)がある。DGIは8項目の課題歩行を実施し,その課題に対する認知応答やバランス制御反応により歩行を修正する能力を点数化する。地域高齢者においてDGIの妥当性,信頼性を有しているとされるがその報告は少なく,加えて地域高齢者の中でも高い転倒リスクを有している虚弱高齢者に対してDGIの検討はなされていない。また虚弱高齢者は歩行能力が低いと言われており,地域高齢者を対象とした先行研究で報告されているカットオフ値19点では虚弱高齢者の転倒リスクを過大評価すると考えられる。そのことから,虚弱高齢者の転倒リスクをより高精度に判別するためにカットオフ値の再検討が必要である。本研究の目的は,地域在住の虚弱高齢者におけるDGIの転倒リスクの判別力を検討することである。
【方法】
対象は通所リハビリテーションを利用する65歳以上の高齢者である。除外基準として1)歩行不可能な者,2)認知症スケールであるCDR-Sの得点から認知機能低下が著名とされる者,3)Friedらの虚弱指標に基づくCHS基準が0点の非虚弱者の3つを設ける。DGIの課題は6mの歩行路を使用し,口頭指示にて通常歩行,速度変更,頭部の上下・左右回旋,方向転換を歩行中に行うもの,歩行中の障害物のまたぎ動作,8の字歩行,そして階段昇降の8つがある。各課題における歩行中の不安定さおよび課題への応答を1項目0から3点で点数化し,24点満点中得点が低いほど課題への歩行修正能力が低いといえる。本研究では転倒リスク判別の妥当性を有するModified Gait Abnormality Raiting Scaleをアウトカムとして用いる。統計解析はDGI得点が転倒リスクに寄与するかをロジスティック回帰分析にて解析を行う。またROC分析により曲線下面積(AUC)を求め,カットオフ値の検討を行い,感度・特異度の算出を行う。解析ソフトはSPSS ver. 16.0 Regressionとver. 22 Statisticsを使用する。
【結果】
対象者は44名であり,平均年齢は78.1±7.1歳であった。転倒リスク者は21名でDGI平均得点は13.9点,非転倒リスク者は23名でDGI平均得点は17.8点と有意に転倒リスク者の得点が低かった(p<0.01)。ロジスティック回帰分析の結果,DGIのオッズ比は0.42(p<0.01,95%信頼区間0.25~0.72)であった。カットオフ値を19点としたとき,感度100%,特異度34.8%であった。ROC曲線の結果,AUCは0.885,16.5点をカットオフ値としたとき感度69.6%,特異度91.5%であり,陽性尤度比は8.2,陰性尤度比は0.2となった。
【考察】
ロジスティック回帰分析より,DGI得点の減少は転倒リスクの増加に有意に寄与し,DGIの得点が転倒リスクを判別可能であることが示された。この結果を受け,虚弱高齢者においてカットオフ値を算出した結果,地域高齢者を対象とした19点に比較し,16点以下が転倒リスクをより高い精度で判別することが明らかとなった。また陽性尤度比から高い転倒リスク判別力を有することが明示された。DGIにおける課題は口頭指示に対する応答,頭部の操作やまたぎなど地域生活の中で想定される内容と考えられ,DGIによる歩行評価を行うことにより地域高齢者に加えて虚弱高齢者においても地域生活での転倒リスク判別が可能となることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
DGIを用いた歩行評価により歩行中の転倒リスクを有する虚弱高齢者を早期特定し,重点的な介入を行うことが可能になる。また,DGIの減点された項目に対して理学療法介入や環境調整を行うことでより効果的な転倒予防が可能になると考える。