[P1-A-0302] ADLに高い自己効力感を有する高齢入院患者の傾向
~主観的ADL評価と客観的ADL評価を用いて~
Keywords:入院患者, ADL, 自己効力感
【はじめに】
自己効力感は主観的統制感に関する認知的な概念として,特定の活動に対する自信の程度の自己知覚である。近年,自己効力感が低く自身の能力を過小評価し,転倒恐怖感に繋がる,という報告を散見する。しかしながら,臨床現場においては自身の身体能力よりも高い自己効力感を有し,無理な行動にいたるケースを経験する事がある。我々は実際の身体能力以上の高い自己効力感は,対象者に不利益をもたらす要素があると考え,その要因と対象者の傾向を知ることは理学療法介入の一助になると考えた。
そこで今回,そのような対象者の傾向を明確にすることを目的に,セラピストが評価した運動FIM(客観的ADL)よりも,対象者自身が評価した運動FIM(主観的ADL)の合計点が高い高齢入院患者に対して,評価項目ごとに主観的評価と客観的評価を比較検討したので報告する。
【方法】
対象はH26.6.19~H26.10.3に当院でリハビリテーションを処方された65歳以上の入院患者で,改訂 長谷川式簡易知能評価スケール21点以上・歩行が10m以上自力で可能(補助具の使用は問わない)なもの15名とした。主観的ADL評価は我々が作成した質問紙法にて,運動FIMの13項目(食事,整容,清拭,更衣上衣,更衣下衣,トイレ,排尿管理,排便管理,ベッド移乗,トイレ移乗,浴槽移乗,移動,階段)に対する自己効力感を7段階(1全く自信がない,7完全に1人で出来る)で,対象者に回答させた。客観的ADL評価は担当セラピストが評価した運動FIMを使用した。各評価の合計点数(91点満点)にて主観的評価が客観的評価よりも高値の対象者を抽出し,自己効力感の高い対象者とした。そして,抽出した対象者の主観的ADL評価の各項目の点数とセラピストが評価した客観的ADL評価の各項目の点数を比較した。統計学的手法としてWillcoxonの符号付順位和検定を用いた。なお有意水準は5%未満とし,解析にはR2.8.1を使用した。
【結果】
対象者15名のうち,主観的評価が客観的評価よりも高値の対象者は10名(主観的評価88.5±2.5点,客観的評価78.1±15.1点)であった。抽出された対象者における,主観的ADL評価の各項目の点数とセラピストが評価した客観的ADL評価の各項目の点数を比較した結果は,トイレ,浴槽移乗,移動,階段,(p<0.05)で客観的評価に比し有意に主観的評価が高かった。食事,整容,清拭,更衣上衣,更衣下衣,排尿管理,排便管理,ベッド移乗,トイレ移乗には有意な差は認められなかった。(n.s)
【考察】
主観的評価が客観的評価よりも高値を示した対象者は,15名中10名であった。このことから,約67%の高齢入院患者が実際のADL能力より高い自己効力感を有している結果となった。加藤らの介護老人保健施設での女性高齢者を対象とした報告では72名中25名がADLに乖離した高い転倒自己効力感を持つとされており,先行研究に比べ高い割合となった。自己効力感に影響を及ぼす情報源として,遂行行動の達成・言語的説得があり入院患者においてはリハビリを通して,課題の成功体験や正のフィードバックを受けることで高い自己効力感を有しやすい環境にあったのではないかと考える。また,主観的ADL評価の各項目の点数と客観的ADL評価の各項目の点数を比較した結果は,トイレ,浴槽移乗,移動,階段で有意に主観的評価が高かった。入院生活において移動,浴槽移乗,階段においては転倒や急変のリスクから自立して行う機会が少ない。そのため課題の習熟度を対象者自身が把握しにくく,実際の身体能力よりも過大評価しやすい傾向があり高い自己効力感を有すると推察される。本調査の結果から,ADLに高い自己効力感を有する高齢入院患者の割合と関連するFIMの運動項目が示唆された。ADL評価においては主観的評価と客観的評価の差違に着目し,実際の遂行能力より高い自己効力感の把握をすることは理学療法介入の一助になると考える。しかしながら,基本属性や疾患,運動機能に関連する評価指標等,より詳細な要因を検討することが今後の課題とされた。
【理学療法学研究としての意義】
高齢入院患者における高い自己効力感に着目した報告は少なく,高い自己効力感に関連する要因を検討することは,退院後の転倒や二次障害の予防に貢献できる可能性があり,理学療法学研究として意義があると考えられる。
自己効力感は主観的統制感に関する認知的な概念として,特定の活動に対する自信の程度の自己知覚である。近年,自己効力感が低く自身の能力を過小評価し,転倒恐怖感に繋がる,という報告を散見する。しかしながら,臨床現場においては自身の身体能力よりも高い自己効力感を有し,無理な行動にいたるケースを経験する事がある。我々は実際の身体能力以上の高い自己効力感は,対象者に不利益をもたらす要素があると考え,その要因と対象者の傾向を知ることは理学療法介入の一助になると考えた。
そこで今回,そのような対象者の傾向を明確にすることを目的に,セラピストが評価した運動FIM(客観的ADL)よりも,対象者自身が評価した運動FIM(主観的ADL)の合計点が高い高齢入院患者に対して,評価項目ごとに主観的評価と客観的評価を比較検討したので報告する。
【方法】
対象はH26.6.19~H26.10.3に当院でリハビリテーションを処方された65歳以上の入院患者で,改訂 長谷川式簡易知能評価スケール21点以上・歩行が10m以上自力で可能(補助具の使用は問わない)なもの15名とした。主観的ADL評価は我々が作成した質問紙法にて,運動FIMの13項目(食事,整容,清拭,更衣上衣,更衣下衣,トイレ,排尿管理,排便管理,ベッド移乗,トイレ移乗,浴槽移乗,移動,階段)に対する自己効力感を7段階(1全く自信がない,7完全に1人で出来る)で,対象者に回答させた。客観的ADL評価は担当セラピストが評価した運動FIMを使用した。各評価の合計点数(91点満点)にて主観的評価が客観的評価よりも高値の対象者を抽出し,自己効力感の高い対象者とした。そして,抽出した対象者の主観的ADL評価の各項目の点数とセラピストが評価した客観的ADL評価の各項目の点数を比較した。統計学的手法としてWillcoxonの符号付順位和検定を用いた。なお有意水準は5%未満とし,解析にはR2.8.1を使用した。
【結果】
対象者15名のうち,主観的評価が客観的評価よりも高値の対象者は10名(主観的評価88.5±2.5点,客観的評価78.1±15.1点)であった。抽出された対象者における,主観的ADL評価の各項目の点数とセラピストが評価した客観的ADL評価の各項目の点数を比較した結果は,トイレ,浴槽移乗,移動,階段,(p<0.05)で客観的評価に比し有意に主観的評価が高かった。食事,整容,清拭,更衣上衣,更衣下衣,排尿管理,排便管理,ベッド移乗,トイレ移乗には有意な差は認められなかった。(n.s)
【考察】
主観的評価が客観的評価よりも高値を示した対象者は,15名中10名であった。このことから,約67%の高齢入院患者が実際のADL能力より高い自己効力感を有している結果となった。加藤らの介護老人保健施設での女性高齢者を対象とした報告では72名中25名がADLに乖離した高い転倒自己効力感を持つとされており,先行研究に比べ高い割合となった。自己効力感に影響を及ぼす情報源として,遂行行動の達成・言語的説得があり入院患者においてはリハビリを通して,課題の成功体験や正のフィードバックを受けることで高い自己効力感を有しやすい環境にあったのではないかと考える。また,主観的ADL評価の各項目の点数と客観的ADL評価の各項目の点数を比較した結果は,トイレ,浴槽移乗,移動,階段で有意に主観的評価が高かった。入院生活において移動,浴槽移乗,階段においては転倒や急変のリスクから自立して行う機会が少ない。そのため課題の習熟度を対象者自身が把握しにくく,実際の身体能力よりも過大評価しやすい傾向があり高い自己効力感を有すると推察される。本調査の結果から,ADLに高い自己効力感を有する高齢入院患者の割合と関連するFIMの運動項目が示唆された。ADL評価においては主観的評価と客観的評価の差違に着目し,実際の遂行能力より高い自己効力感の把握をすることは理学療法介入の一助になると考える。しかしながら,基本属性や疾患,運動機能に関連する評価指標等,より詳細な要因を検討することが今後の課題とされた。
【理学療法学研究としての意義】
高齢入院患者における高い自己効力感に着目した報告は少なく,高い自己効力感に関連する要因を検討することは,退院後の転倒や二次障害の予防に貢献できる可能性があり,理学療法学研究として意義があると考えられる。