第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター1

地域理学療法4

2015年6月5日(金) 11:20 〜 12:20 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-A-0314] 要支援認定者の運動機能は変化しているか

介護予防特化型デイサービス利用者を対象とした横断研究

安原健太1,3, 矢野秀典2,3 (1.日本化薬メディカルケア株式会社デイサービス部, 2.目白大学保健医療学部理学療法学科, 3.デイサービスセンター万年青静華庵)

キーワード:介護予防, 要支援, 運動機能

【はじめに,目的】介護保険制度の改正により,2015年度以降は要支援認定者に対するサービスが大きく見直されるようになった。訪問介護と通所介護については予防給付の対象から除外され,これらのサービスは,地域支援事業へ順次移行される予定である。本来,要支援認定者は基本的な日常生活動作はほぼ自立しているとされていたが,要支援者に対し運動プログラムを提供する現場の職員からは「以前よりも移動の介助・見守りが必要な利用者が増えた」という声が多く聞かれるようになった。同一の事業所内でも,年月の経過に伴いサービス利用者の運動能力が変化していけば,身体状況を考慮した職員配置の調整が必要である。今後,介護予防のための運動プログラムの実施が地域へ移行されていく中でも,身体機能の低下が顕著な対象者が増えていく可能性があるが,これまで過去のサービス利用者との横断的な運動機能の変化の有無を明らかにした報告は少ない。そこで,本研究では介護予防特化型のデイサービスにおける2009年度と2014年度の利用者の運動機能を比較し,その変化を検討することを目的とした。

【方法】2009年9月時に介護予防特化型デイサービスを利用していた要支援認定者72名(平均80.9±6.1歳)と,2014年9月時の利用者95名(平均82.8±6.7歳)を対象とし,それぞれの時期に直近で行なった身体機能評価の数値を比較した。評価項目はBody Mass Index(BMI),左右の握力,最大歩行速度,Functional Reach Test(FR),Timed Up & Go Test(TUG)であり,全体での比較の他,要支援度別での比較も併せて行なった。両群の比較には独立2群のt検定を用い,有意水準を5%未満とした。
【結果】カイ2乗検定を用いたところ,2009年度と2014年度の対象者において,男女比率と要支援度の比率に有意差は見られなかった。身体機能評価では,利用者全体と要支援2の利用者において,2014年度の最大歩行速度(全体:p<0.05,要支援2:p<0.01)とFR(全体・要支援ともにp<0.05)に有意な低下がみられた。

【考察】最大歩行速度は,高齢者の運動能力を代表する指標であり,FRは筋力や感覚などを統合して発現されるバランス機能の指標である。これらの検査項目において,2014年度に有意な低下が見られたことから,年月の経過により同一事業所におけるサービス利用者の運動機能が低下していることが示唆された。特に歩行速度,FRともに要支援2における低下が目立っており,支え無しでは立位の保持が困難であるなど,運動機能が大きく損なわれた利用者が数人いた。2015年度以降は,予防給付によって通所介護が担っていた機能を自治体やNPO,ボランティアなど地域のサービスが引き継いでいく方針であるが,提供する側の人員配置によっては,対応が困難な事例が増えてくることが予想される。また,本研究において,統計的な有意差は無かったものの,2014年度はサービス利用者が高齢になっている傾向が見られた(p=0.0751)。加齢による運動機能の低下を完全に防ぐことは困難であるが,筋力,バランス保持力などの体力要素の低下を最小限に抑えつつ,基本的日常生活動作や手段的日常生活動作などの生活機能を長期的に保てるよう支援していくことが,今後の介護予防事業に求められる。その事業において対象者個々の身体状況に応じたプログラムの選択,提供を適切に行う為,理学療法士など専門職が担う役割の重要性が増すと思われる。

【理学療法学研究としての意義】要支援認定者の運動機能が以前に比べ低下していることが明らかになった。2015年度以降に介護予防事業が地域へ移行していく中で,運動機能の低下が目立つ事例に対しては,自治体やボランティアによるプログラムだけでなく,理学療法士など専門職による生活機能への介入が求められる。