[P1-A-0320] ストレッチ運動による動脈機能の改善効果
Keywords:ストレッチング, スティフネス, 血圧
【はじめに,目的】
動脈機能の低下は,冠動脈疾患や脳血管疾患,末梢動脈疾患などの循環器疾患の独立した危険因子である。身体活動量の低下は動脈機能を低下させるが,習慣的な有酸素性運動は動脈機能を改善させることが知られている(Circulation, 2000)。近年,低強度運動であるストレッチ運動が動脈機能に及ぼす影響について報告されており,ストレッチ運動が動脈機能を改善するという報告や(J Cardiovasc Prev Rehabil, 2008)改善しないという報告(J Hum Hypertens, 2013)があり,その影響については一致した見解が得られていない。本研究では,ストレッチ運動による動脈機能への影響を明らかにするために,単回の全身ストレッチ運動が動脈機能(動脈硬化度)に及ぼす影響について明らかにすることを目的とした。
【方法】
健常成人男性26名(年齢:20.8±1.7歳,身長:171.5±5.9 cm,体重:63.5±6.3 kg)を対象とした。ストレッチ運動は,全身(上腕二頭筋,上腕三頭筋,前腕屈筋群,前腕伸筋群,体幹屈筋群,体幹伸筋群,体幹回旋筋群,大腿四頭筋,ハムストリングス,下腿三頭筋)に対して約40分間のストレッチ運動を実施した。ストレッチ運動の種類はセルフでのスタティックストレッチ運動とし,ストレッチ運動の強度は疼痛のない範囲で全可動域を実施させた。また,コントロール施行としてストレッチ運動と同じ体位変換のみを同時間実施させた。ストレッチ運動とコントロール施行は1週間の間隔をあけてランダムに実施した。全身の動脈硬化度の指標として上腕-足首間(baPWV),中心および末梢の動脈硬化度の指標として頸動脈-大腿動脈間(cfPWV)および大腿動脈-足首間(faPWV)の脈波伝播速度を施行前と施行直後,15分後,30分後,60分後に測定した。また,収縮期血圧,拡張期血圧,心拍数も同時に測定した。統計処理は反復測定の二元配置分散分析を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
baPWVおよびfaPWVは,ストレッチ運動施行前に比較して15分後と30分後で有意に低値を示した(p<0.01)が,60分後には施行前まで値が戻った。また,施行前に対するそれぞれの変化率(%)をみたところ,baPWVとfaPWVは,ストレッチ運動施行前に比較して15分後と30分後で有意に低値を示し(p<0.01),どちらも30分後が最も低値を示した。cfPWVではストレッチ運動施行による有意な変化は認められなかった。収縮期血圧,拡張期血圧,心拍数はストレッチ運動施行とコントロール施行間での有意な差はいずれも認められなかった。
【考察】
健常な若年男性における一過性の全身ストレッチ運動は,全身の動脈硬化度を改善させる可能性が示唆された。このストレッチ運動の効果には,中心よりも末梢の動脈硬化度の低下が関与している可能性が考えられる。これらの結果から,ストレッチ運動による動脈硬化度に及ぼす影響の機序として,ストレッチ部位の筋や動脈血管に対する伸張刺激が局所的に動脈機能を改善させたのかもしれない。
【理学療法学研究としての意義】
動脈機能を改善させる運動としてよく用いられるのは有酸素性運動トレーニングである。しかしながら,心血管疾患や脳血管疾患患者に対する急性期の理学療法では,早期から有酸素性運動を取り入れることは困難な場合がほとんどである。ストレッチ運動のような低強度の運動を早期の理学療法の運動プログラムに取り入れることで,有酸素性運動ができないような患者に対して動脈機能改善を目的としたアプローチが行える可能性がある。本研究は,臨床で動脈機能改善を目的とした運動プログラムとして活用するための一助になり得る結果であると考えられる。
動脈機能の低下は,冠動脈疾患や脳血管疾患,末梢動脈疾患などの循環器疾患の独立した危険因子である。身体活動量の低下は動脈機能を低下させるが,習慣的な有酸素性運動は動脈機能を改善させることが知られている(Circulation, 2000)。近年,低強度運動であるストレッチ運動が動脈機能に及ぼす影響について報告されており,ストレッチ運動が動脈機能を改善するという報告や(J Cardiovasc Prev Rehabil, 2008)改善しないという報告(J Hum Hypertens, 2013)があり,その影響については一致した見解が得られていない。本研究では,ストレッチ運動による動脈機能への影響を明らかにするために,単回の全身ストレッチ運動が動脈機能(動脈硬化度)に及ぼす影響について明らかにすることを目的とした。
【方法】
健常成人男性26名(年齢:20.8±1.7歳,身長:171.5±5.9 cm,体重:63.5±6.3 kg)を対象とした。ストレッチ運動は,全身(上腕二頭筋,上腕三頭筋,前腕屈筋群,前腕伸筋群,体幹屈筋群,体幹伸筋群,体幹回旋筋群,大腿四頭筋,ハムストリングス,下腿三頭筋)に対して約40分間のストレッチ運動を実施した。ストレッチ運動の種類はセルフでのスタティックストレッチ運動とし,ストレッチ運動の強度は疼痛のない範囲で全可動域を実施させた。また,コントロール施行としてストレッチ運動と同じ体位変換のみを同時間実施させた。ストレッチ運動とコントロール施行は1週間の間隔をあけてランダムに実施した。全身の動脈硬化度の指標として上腕-足首間(baPWV),中心および末梢の動脈硬化度の指標として頸動脈-大腿動脈間(cfPWV)および大腿動脈-足首間(faPWV)の脈波伝播速度を施行前と施行直後,15分後,30分後,60分後に測定した。また,収縮期血圧,拡張期血圧,心拍数も同時に測定した。統計処理は反復測定の二元配置分散分析を用い,有意水準は5%とした。
【結果】
baPWVおよびfaPWVは,ストレッチ運動施行前に比較して15分後と30分後で有意に低値を示した(p<0.01)が,60分後には施行前まで値が戻った。また,施行前に対するそれぞれの変化率(%)をみたところ,baPWVとfaPWVは,ストレッチ運動施行前に比較して15分後と30分後で有意に低値を示し(p<0.01),どちらも30分後が最も低値を示した。cfPWVではストレッチ運動施行による有意な変化は認められなかった。収縮期血圧,拡張期血圧,心拍数はストレッチ運動施行とコントロール施行間での有意な差はいずれも認められなかった。
【考察】
健常な若年男性における一過性の全身ストレッチ運動は,全身の動脈硬化度を改善させる可能性が示唆された。このストレッチ運動の効果には,中心よりも末梢の動脈硬化度の低下が関与している可能性が考えられる。これらの結果から,ストレッチ運動による動脈硬化度に及ぼす影響の機序として,ストレッチ部位の筋や動脈血管に対する伸張刺激が局所的に動脈機能を改善させたのかもしれない。
【理学療法学研究としての意義】
動脈機能を改善させる運動としてよく用いられるのは有酸素性運動トレーニングである。しかしながら,心血管疾患や脳血管疾患患者に対する急性期の理学療法では,早期から有酸素性運動を取り入れることは困難な場合がほとんどである。ストレッチ運動のような低強度の運動を早期の理学療法の運動プログラムに取り入れることで,有酸素性運動ができないような患者に対して動脈機能改善を目的としたアプローチが行える可能性がある。本研究は,臨床で動脈機能改善を目的とした運動プログラムとして活用するための一助になり得る結果であると考えられる。