第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター1

呼吸1

2015年6月5日(金) 11:20 〜 12:20 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-A-0329] 大腿四頭筋に対する遠心性収縮ペダリングトレーニングについて

―最高酸素摂取量時点の仕事量で規定した運動強度での求心性との比較検討―

三島淳一1,2, 玉木彰1, 児玉典彦2, 道免和久3 (1.兵庫医療大学大学院医療科学研究科, 2.兵庫医科大学病院リハビリテーション部, 3.兵庫医科大学リハビリテーション医学教室)

キーワード:遠心性収縮, 自主トレーニング, 運動強度

【はじめに,目的】
ペダルが一定の仕事率(以下,WR)で機械的に逆回転するようにプログラムされた自転車エルゴメータを用いて,逆回転しているペダルにブレーキをかけるように抵抗運動を行うと,大腿四頭筋の収縮様式は遠心性収縮となる。この遠心性収縮ペダリングを用いた運動については,先行研究で多数報告されている。しかし,同一の運動強度で遠心性収縮ペダリング運動(以下,ECC.ex)と求心性収縮ペダリング運動(以下,CON.ex)のトレーニング効果を比較した研究は少ない。そこで,本研究では,同一の仕事率となるように設定したエルゴメータを使い,同一運動強度でのECC.exと一般的なペダリング方法であるCON.exにおいて,トレーニング効果にどのような違いがあるかを検証することを目的とした。
【方法】
呼吸・循環系疾患のない健常な男女17名(男5名・女12名,年齢:20.4±0.5歳)を対象とした。対象者は,ランダムに遠心性収縮ペダリングを用いたトレーニング群(Eccentric group;以下,ECC群),従来の求心性収縮ペダリングを用いたトレーニング群(Concentric group;以下,CON群)の2群に振り分けた。まず本計測の実施前に自転車エルゴメータ(75XLIIコンビ社製)を用いたRamp負荷による心肺運動負荷試験(以下,CPX)を実施し,peakVO2を算出した。各群のトレーニングは,CPXから算出したpeakVO2時点のpeakWattの40%負荷で15-30分間,運動の頻度は1週間に3回とし,トレーニング期間は6週間とした。ECC群のトレーニングには,換算式によりECC.exにおいてもCON.exと同一のWattとなるように設定したストレングスエルゴ8マイナスワット拡張仕様(三菱エンジニアリング)を用い,CON群には,通常の自転車エルゴメータを用いて行った。トレーニング前後における測定項目は,等尺性膝伸展筋力,大腿四頭筋筋厚,peakVO2,修正Borg Scaleとした。統計学的分析は群内比較を対応のあるt検定,群間の測定項目を対応のないt検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
ECC群では,トレーニング前後で等尺性膝伸展筋力,大腿四頭筋筋厚において有意な増加を認めた(P<0.05)。しかし,peakVO2においては有意な変化を認めなかった(P>0.05)。CON群では,トレーニング前後でどの項目に関しても有意な変化を認めなかった(P>0.05)。ECC群とCON群の群間比較では,ECC群において等尺性膝伸展筋力,大腿四頭筋筋厚,修正Borg Scaleに有意な差を認めた(P<0.05)。しかし,peakVO2においては有意な差を認めなかった(P>0.05)。
【考察】
本研究の結果,ECC.exではpeakVO2時点のpeakWattにより規定した中等度運動強度において従来のCON.exよりも等尺性膝伸展筋力,大腿四頭筋筋厚が有意に増大することが明らかとなった。遠心性収縮では求心性収縮よりも収縮要素以外に筋の弾性要素や粘性要素が出力として加わるため,発揮パワーが求心性収縮と比べ大きくなることは多くの先行研究で報告されている。本研究においてもCON.exに比べ,ECC.exで運動時の発揮パワーが大きいためにトレーニング効果としてECC群で有意に等尺性膝伸展筋力と大腿四頭筋筋厚が増大したということが考えられた。ECC群においてpeakVO2が有意に増大しなかった理由としては,ECC.exでは筋酸素動態の悪化が緩徐であることから低いVO2で運動を実施できることで,必要とされる換気需要が低かったものだと考えられる。そのためECC.exは,CON.exと比べ持久力トレーニングよりも筋力トレーニングとしての要素が大きいと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
ECC.exでは,peakVO2の40%程度の中等度運動強度において従来のCON.exと比べ,心肺機能にかかる負担が少なく,また低い代謝量で同等以上の筋力トレーニング効果が期待できるものと考えられる。そのため呼吸器系や心臓血管系の疾患を持つ高齢者など,低体力者に対するリハビリテーションへの応用を考えるとECC.exについて明らかにすることの臨床的意義は大きいと思われる。