[P1-A-0338] 特発性肺線維症患者における咳嗽と身体活動量
―日常的な咳嗽の有無により身体活動量に影響する要因は異なる―
キーワード:特発性肺線維症, 咳嗽, 身体活動量
【はじめに,目的】
乾性咳嗽は,特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)の主症状の1つであり,身体的・社会的に患者の生活に影響を与えると言われている(Swigris et al., 2005)。一方,呼吸リハビリテーションの評価項目として,身体活動量(physical activity:PA)が近年注目されている。COPDと比べ,IPFにおけるPAの報告は非常に少ない。先行研究において,PAは,6分間歩行距離(6-minute walk distance:6MWD)とcarbon monoxide diffusing capacity(DLCO)の影響を受けると報告されている(Wallaert et al., 2013)。しかしながら,日常的な咳嗽(daily cough:DC)の有無に着目し,PAに影響を与える要因を検討した報告はほとんどない。そこで本研究は,IPF患者においてDCの有無でPAに差を認め,またPAに影響を与える要因が異なるという仮説を立て,検証した。
【方法】
対象は,2011年10月から2012年9月の間に札幌医科大学附属病院外来通院中の安定したIPF患者とした。認知機能の低下があるもの,運動を制限しうる整形疾患,心疾患および神経疾患を有するもの,葉切除以上の肺切除術の既往のあるものは除外した。評価項目は,患者背景,Base Dyspnea index(BDI),血清マーカー値,動脈血ガス分析値,呼吸機能検査値,大腿四頭筋筋力(quadriceps force:QF),6分間歩行試験(6-minute walk test:6MWT),PAとした。PAは,ライフコーダ(スズケン社製,愛知)を用い,連続14日間の平均歩数をPAとして採用した。DCの有無については,St. George’s Respiratory Questionnaireで,「咳が出たのは,1週間のうちほとんど毎日」と答えたものをDC群,それ以外のものをnon-DC(NDC)群とした。各評価指標について両群間で差の検定を行い,またそれぞれの群における各評価指標とPAとの関連をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。中等度以上の相関を認めた評価指標より,多重共線性を考慮し独立変数を選択し,PAを従属変数とした重回帰分析を行った。統計処理にはSPSS ver.19を用い,いずれも有意水準は5%とした。
【結果】
対象は38名,DC群は18名,NDC群は20名であった。DC群とNDC群の各指標には,年齢(72.2±8.5 vs. 70.4±8.3,p=0.511),BDI(7.5[5.0-9.25]vs. 8.4[7.0-11.5],p=0.336),%VC(91.9±21.7 vs. 87.3±18.1,p=0.489),%DLCO(46.8±14.5 vs. 48.6±19.4,p=0.763),QF(49.8±12.4 vs. 53.7±14.4,p=0.383),6MWD(436.1±89.8 vs. 450.8±107.6,p=0.649),PA(4863.6±3556.6 vs. 5404.8±3112.5,p=0.623)と,有意な差を認めなかった。DC群において,PAは年齢,KL-6,6MWT終了時のSpO2と関連し,PAに影響を与える要因として,年齢(β=-0.872)のみ抽出された(調整済みR2=0.745,p<0.001)。NDC群においては,PAはBDI,QF,6MWD,6MWT時の下肢疲労と関連し,PAに影響を与える要因として,6MWD(β=0.619),QF(β=0.342)が抽出された(調整済みR2=0.698,p<0.001)。
【考察】
DCの有無でPAに差を認めなかった。IPF患者では,咳嗽やPAは重症度と関連するといわれているが,本研究の対象は,%VCが良値の比較的軽症者が対象となっている。そのため両群間のPAに差を認めなかった可能性がある。今後重症者を含めた更なる検討が必要であると考える。またそれぞれの群において,PAに影響を与える要因は異なるという結果であった。DC群では,年齢のみがPAに影響を与える要因であった。先行研究では,IPF患者のPAは6MWDの影響を受けると報告しているが,その報告は咳嗽について評価していない。一方,6MWDは末梢骨格筋機能を反映していると考えられている。咳嗽を有するIPF患者では,6MWT時,咳嗽のため末梢骨格筋の機能を十分反映するだけの負荷をかけられていない可能性あると考える。IPF患者とCOPD患者で呼吸リハビリテーションの効果を比較した論文においても,IPF患者では咳嗽のために,COPD患者と比べ十分な強度の負荷をかけることが困難であったと述べている。
本研究には,2つの限界がある。対象が少なく軽症者が中心となっている点,咳嗽を客観的に評価することが困難であるため自己報告にて咳嗽の状況を評価している点である。
【理学療法学研究としての意義】
IPF患者のPAの研究はわずかであるが,今後IPF患者おけるPAを改善させるための呼吸リハビリテーションの必要性がより高まってくることが予想される。本研究結果は,IPF患者のPAを評価する際,呼吸機能や運動機能だけでなく嗽咳について評価する必要性を示唆しており,IPF患者の呼吸リハビリテーションプログラムを検討する際の一助となりうる。
乾性咳嗽は,特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)の主症状の1つであり,身体的・社会的に患者の生活に影響を与えると言われている(Swigris et al., 2005)。一方,呼吸リハビリテーションの評価項目として,身体活動量(physical activity:PA)が近年注目されている。COPDと比べ,IPFにおけるPAの報告は非常に少ない。先行研究において,PAは,6分間歩行距離(6-minute walk distance:6MWD)とcarbon monoxide diffusing capacity(DLCO)の影響を受けると報告されている(Wallaert et al., 2013)。しかしながら,日常的な咳嗽(daily cough:DC)の有無に着目し,PAに影響を与える要因を検討した報告はほとんどない。そこで本研究は,IPF患者においてDCの有無でPAに差を認め,またPAに影響を与える要因が異なるという仮説を立て,検証した。
【方法】
対象は,2011年10月から2012年9月の間に札幌医科大学附属病院外来通院中の安定したIPF患者とした。認知機能の低下があるもの,運動を制限しうる整形疾患,心疾患および神経疾患を有するもの,葉切除以上の肺切除術の既往のあるものは除外した。評価項目は,患者背景,Base Dyspnea index(BDI),血清マーカー値,動脈血ガス分析値,呼吸機能検査値,大腿四頭筋筋力(quadriceps force:QF),6分間歩行試験(6-minute walk test:6MWT),PAとした。PAは,ライフコーダ(スズケン社製,愛知)を用い,連続14日間の平均歩数をPAとして採用した。DCの有無については,St. George’s Respiratory Questionnaireで,「咳が出たのは,1週間のうちほとんど毎日」と答えたものをDC群,それ以外のものをnon-DC(NDC)群とした。各評価指標について両群間で差の検定を行い,またそれぞれの群における各評価指標とPAとの関連をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した。中等度以上の相関を認めた評価指標より,多重共線性を考慮し独立変数を選択し,PAを従属変数とした重回帰分析を行った。統計処理にはSPSS ver.19を用い,いずれも有意水準は5%とした。
【結果】
対象は38名,DC群は18名,NDC群は20名であった。DC群とNDC群の各指標には,年齢(72.2±8.5 vs. 70.4±8.3,p=0.511),BDI(7.5[5.0-9.25]vs. 8.4[7.0-11.5],p=0.336),%VC(91.9±21.7 vs. 87.3±18.1,p=0.489),%DLCO(46.8±14.5 vs. 48.6±19.4,p=0.763),QF(49.8±12.4 vs. 53.7±14.4,p=0.383),6MWD(436.1±89.8 vs. 450.8±107.6,p=0.649),PA(4863.6±3556.6 vs. 5404.8±3112.5,p=0.623)と,有意な差を認めなかった。DC群において,PAは年齢,KL-6,6MWT終了時のSpO2と関連し,PAに影響を与える要因として,年齢(β=-0.872)のみ抽出された(調整済みR2=0.745,p<0.001)。NDC群においては,PAはBDI,QF,6MWD,6MWT時の下肢疲労と関連し,PAに影響を与える要因として,6MWD(β=0.619),QF(β=0.342)が抽出された(調整済みR2=0.698,p<0.001)。
【考察】
DCの有無でPAに差を認めなかった。IPF患者では,咳嗽やPAは重症度と関連するといわれているが,本研究の対象は,%VCが良値の比較的軽症者が対象となっている。そのため両群間のPAに差を認めなかった可能性がある。今後重症者を含めた更なる検討が必要であると考える。またそれぞれの群において,PAに影響を与える要因は異なるという結果であった。DC群では,年齢のみがPAに影響を与える要因であった。先行研究では,IPF患者のPAは6MWDの影響を受けると報告しているが,その報告は咳嗽について評価していない。一方,6MWDは末梢骨格筋機能を反映していると考えられている。咳嗽を有するIPF患者では,6MWT時,咳嗽のため末梢骨格筋の機能を十分反映するだけの負荷をかけられていない可能性あると考える。IPF患者とCOPD患者で呼吸リハビリテーションの効果を比較した論文においても,IPF患者では咳嗽のために,COPD患者と比べ十分な強度の負荷をかけることが困難であったと述べている。
本研究には,2つの限界がある。対象が少なく軽症者が中心となっている点,咳嗽を客観的に評価することが困難であるため自己報告にて咳嗽の状況を評価している点である。
【理学療法学研究としての意義】
IPF患者のPAの研究はわずかであるが,今後IPF患者おけるPAを改善させるための呼吸リハビリテーションの必要性がより高まってくることが予想される。本研究結果は,IPF患者のPAを評価する際,呼吸機能や運動機能だけでなく嗽咳について評価する必要性を示唆しており,IPF患者の呼吸リハビリテーションプログラムを検討する際の一助となりうる。