第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター1

卒前教育・臨床実習1

2015年6月5日(金) 11:20 〜 12:20 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-A-0350] アクティブ・ラーニング型技術実習おける自己効力感と成績の関係

反町拓1,2, 丸山仁司2 (1.関東リハビリテーション専門学校理学療法学科, 2.国際医療福祉大学保健医療学専攻)

キーワード:アクティブ・ラーニング, 自己効力感, 養成校教育

【はじめに】
アクティブ・ラーニング(Active Learning 以下AL)とは,教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり,学習者の能動的な参加を取り入れた教授・学習法の総称であり,学習者が能動的に学習することによって,認知的,倫理的,社会的能力,教養,知識,経験を含めた汎用的能力の育成を図るものであると位置付けられている。本研究では,理学療法士養成校の学生に対し,技術実習おいて協同学習などのAL形式を取り入れた授業形態を短期間実施し,学生の自己効力感(Self-Efficacy 以下SE)及び成績への影響を調査した。

【方法】
四年制専門学校理学療法学科2年生12名(男性6名・女性6名 21.2±1.8才)に対し,運動療法実習におけるスタティック・ストレッチングの実施方法について,全3回のAL形式の授業を行い,各セッション終了後に記名式質問紙法にて技術実習用に独自に作成したSE尺度(リッカート尺度・7件法)を使用してアンケート聴取し,すべてのセッション終了後に技術・知識の到達度・理解度テストを実施した。質問紙におけるBandura理論の4カテゴリー(遂行行動の達成・代理体験・生理的高揚・言語的説得)の当てはまりに関してクロンバックα係数にて検討し,α=0.71~0.85であった。AL形式は担当講師が授業冒頭に構成する概念やルール,技術を実施する上での基礎知識を与えた後,課題とする筋に対してのスタティック・ストレッチ方法についてペアとなった学生とペア同士に解決させ,肢位・方向・強度・注意点などの方法論を発表させる形式とした。発表後に講師より賞賛および修正指導を適宜付与した。各セッションの終了後のSEの合計スコアの平均値についてFriedman順位検定を行い,事後検定としScheffeの多重比較検定を実施した。またすべてのSEスコアの総計と終了後のテスト結果について相関比を求めた。いずれもSPSS12.0 forWindousにて検討を行い,有意水準は5%未満とした。

【結果】
SEスコアについてはAL開始時の第1セッションに比べ,最終の第3セッションにおいて有意な上昇がみられた(χ2=10.48 p=0.005)。また,SEスコアと全セッション終了後の成績について有意な正の相関(r=0.62 p<0.05)をみとめた。

【考察】
本研究では理学療法士養成校の学生らが,技術課題に対して自己学習や協同学習で能動的に試行錯誤を行うこと(AL)が体験となり,自己効力感に影響を与えることが示唆された。また自己効力感と,理解度・到達度を問うその後の試験成績には中等度の正の相関がみとめられた。Banduraは行動の成功体験が重要であり,また学習が他の個体行動を観察することによっても成立すると提唱しており,授業内で他者を観察する機会もまた自己効力感に影響を与えたと考えられる。理学療法士に必要な臨床における問題解決思考や汎用能力は,受動的な授業参加のみで習得することは難しい。短期間介入ではあるが,技術実習において能動的な参加と解決に向けた取り組みを学生が相互に確認・指摘などを協同して行うことに,良好な効果をみとめた。また実施中にはセッション毎に予習を行う学生数の増加をみとめるなどの行動変容が確認できた。ALのインストラクショナル・デザインについては今後も十分な検討が必要である。

【理学療法学研究としての意義】
理学療法士養成校における技術教育・指導には講師による正確なインストラクションが必要ではあるが,構成する概念やルール,技術を実施する上での基礎知識を与えれば,学生は能動的に技術習得に対して取り組み,自己効力感を向上させることができる。その後の講師の適切なフォローアップは必要であるが,学生の能動性や将来的な汎用能力を促す授業デザインの一手段としての可能性を模索するため,関連各因子の影響も含め,今後も検討していく。