第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター1

卒前教育・臨床実習3

2015年6月5日(金) 11:20 〜 12:20 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-A-0369] 理学療法専攻学生が持つ介護保険領域の職場イメージに関する調査研究

藤田大介, 小原謙一, 吉村洋輔, 大坂裕 (川崎医療福祉大学医療技術学部リハビリテーション学科)

キーワード:理学療法専攻学生, 介護保険, 調査

【はじめに,目的】
急速な少子高齢化の進展への対応として,介護分野でのリハビリテーションの充実が期待されており,介護保険領域の理学療法士の求人状況も急激に増大しつつある。こうした現状を踏まえ,我々は先行研究にて理学療法学を学んでいる学生の職業意識を学年ごとに比較し,医療系職場に対して介護保険領域の職場の職業意識が低いことを報告した(藤田ら,2014)。しかし,介護保険領域の職場について,学生達がどのようなイメージを持っているかを把握できてはいなかった。専門職を目指す大学生を対象に職業に関するイメージを検討した研究としては,看護職に対するイメージを検討したもの(鈴木ら,2012)等や福祉専門職のキャリアプランに関する学生のイメージを検討したもの(山田ら,2014)等がみられるが,理学療法士が働く職域に関して,学生が持っているイメージの継時的変化を検討したものはみられない。そこで本研究では,理学療法教育の進行によって,学生達の介護保険領域の職場に対するイメージはどう変化するのかを明らかにし,介護保険領域への就職意欲を高めるための教育の方向性を探ることを目的とした。
【方法】
対象は,演者の所属する大学の理学療法専攻学生84名(1年生41名 4年生43名)を対象とした。方法は,質問紙を用いた横断的調査であり,2013年9月~10月の期間に実施した。介護保険領域の職場イメージの調査はSemantic Differentia法(以下,SD法)を用い,曽根原らの先行研究を参考に16項目の形容詞対を設定した。評定は,肯定的な表現を7点,対となる否定的な表現を1点とする7段階とした。なお,本調査における介護保険領域の職域は,理学療法士が勤務している職場である訪問リハビリテーションや通所リハビリテーション,介護老人保健施設,介護老人福祉施設とした。統計学的解析には,イメージに関するSD法16項目について探索的因子分析を行ない,抽出因子の学年による比較をMann-Whitney検定で実施した。解析には,SPSS Statistics ver.20 for Macを使用した。
【結果】
16項目のSD法の値を主因子法を用いてバリマックス回転をかけ,解釈可能な4因子を抽出した。第1因子は「価値」,第2因子は「科学性」,第3因子は「魅力」,4因子は「雰囲気」であり,累積寄与率は60.6%であった。学年による4因子間の項目平均値の比較では,「価値」と「科学性」の肯定的イメージが1年生に比べて4年生で有意に低かったが,「雰囲気」の肯定的イメージは4年生が有意に高かった。「魅力」について学年間の有意な差は認められなかった。
【考察】
因子分析の結果より,本大学の理学療法専攻学生の介護保険領域の職場についてのイメージには,「価値」,「専門性」,「魅力」,「雰囲気」という4つの次元があることが明らかとなった。そして,1年生に比べて4年生は,「価値」と「科学性」で否定的イメージ,「雰囲気」で肯定的イメージを持っていることがわかった。4年生では,養成過程における知識の増加に伴ってイメージが拡がり,介護保険領域の職場の雰囲気について肯定的イメージを持つようになったと考えられた。しかし,科学性および価値が低いというイメージには,学年が上がり知識が増える中で,介護職に関する労働環境や賃金の問題等のネガティブイメージを,介護保険領域での理学療法士像に重ね合わせて認識するようになっていく可能性が考えられた。介護分野のリハビリテーションの拡充は,国家としての喫緊の課題でもあり,養成校としても,理学療法士の介護保険領域への職域拡大と定着は,今後の学生達の就業を確保していくためにも重要である。そのためには,介護保険領域での理学療法士の仕事に対する就職意欲を失わせずに,仕事に対してポジティブなイメージを持たせるように教育することが大切である。特に,4年生には,就職先を決定する段階でまでに,介護保険領域での理学療法の科学性や価値を認識し,学生達が具体的にキャリアプランを描くことができるような講義や実習場面での取り組みが必要だと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法学を学んでいる学生の介護保険領域の職場について持っているイメージを把握し,教育の方向性を示唆することができた。理学療法教育を実践する上で意義があると考えられる。