第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

症例研究 ポスター2

神経/脳損傷2

2015年6月5日(金) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0048] 放線冠の梗塞により著しい高次脳機能障害と運動麻痺を呈した症例の理学療法経験

運動学習に必要な運動量の再考

前田慶明, 吉尾雅春 (医療法人社団和風会千里リハビリテーション病院)

キーワード:運動学習, 片麻痺, 高次脳機能障害

【目的】
Pusher現象や注意障害を伴う左片麻痺患者のADL改善に難渋したものの,軽介助での階段昇降を獲得し自宅退院に至る経験をしたので報告する。
【症例提示】
79歳女性,右レンズ核線条体動脈の梗塞,24病日当院入院。脳梁体部レベルの放線冠から内包まで低吸収域を認めた。初期評価ではBrunnstrom recovery stage(Brs):上肢II,手指II,下肢II,SIAS:上下肢0,垂直性0,腹筋0,視空間認知1,健側大腿四頭筋2,scale for contraversive pushing(SCP):5点,感覚は深部中等度,表在軽度の鈍麻,FIM:運動21点,認知16点,常に右側を向き多弁で衝動的な行動がみられた。詳細な高次脳機能検査は実施不可能であった。
【経過と考察】
静かな環境で鏡の手掛かりと長下肢装具を使用し実施。83病日までの変化は,SCP3.75,SIAS:垂直性2,腹筋1,健側大腿四頭筋3,FIM運動24点と僅かであった。96病日に100回/日の起立を裸足で開始。短下肢装具での歩行は50m/日が限度で移行困難,そこで壁に持たれた介助下での横歩きを追加した。114病日にはside-caneで歩行可能,目標距離を300m/日以上とした。131病日には裸足での立位保持20秒となり,144病日には目標を600m/日以上にし,階段練習も追加した。また運動量が増えた時期から課題へ集中でき積極的になった。結果,Brs:上肢III,手指II,下肢III,SCP:1.75,SIAS:下肢近位2,遠位0,垂直性3,腹筋3,視空間認知3,健側大腿四頭筋3,FIM:運動46点,認知17点,階段昇降軽介助となり201病日に自宅退院した。起立は非麻痺側と体幹筋の強化を図り,姿勢制御を促進し,横歩きは床反力ベクトルが関節近位を通る動作であり,解剖学的特性からも歩行より難易度が低く学習に優位である。そして歩行量の確保は感覚入力を増大し,ニューラルネットワークを促進したと考える。難渋するADLの改善には,運動学習理論とHebb則を考慮した運動量が重要であったと考える。また運動量は,注意などの高次脳機能障害に対しても学習を促進させる可能性を示唆する。