[P1-B-0097] 脚長差歩行時のstrategyに関する一考察
男女差に着目して
キーワード:脚長差, strategy, 男女差
【はじめに,目的】脚長差のある症例では,歩行時,短下肢側立脚相で長下肢側のtoe clearanceが保ちにくいため,代償として短下肢立脚相で伸び上がり,即ち足関節の過度な底屈が生じるとされる。このことから健常人に補高を行い,人為的な脚長差歩行を実施し,予測された伸び上がりに関与する腓腹筋活動量及び活動のpeak出現タイミング,また立脚・遊脚時間を測定し,正常歩行と比較することを目的とした。本研究では体格や筋力など男女の一般的差異が影響する可能性に着目した。
【方法】脚長差のない健常人16名(男子10名:平均年齢20.7±2.4歳,平均BMI22.8±3.4,女子6名:平均年齢21.7±6.1歳,平均BMI20.1±0.9)を対象とした。被検者の足底部に1,2,3,4cmの4段階で補高を行い,正常歩行(以下0cm)時と併せた5条件で自由歩行を実施し,短下肢(非補高)側立脚相における腓腹筋活動量及び活動のpeak値出現タイミングを測定した。補高は,補高材として実用されているウレタン系EVAゴムの底材を被検者が日常履いている靴底に貼付することで行った。ボールを蹴る方,一歩目を踏み出す方の足を利き足,対側を軸足(被検者の軸足は全員が左側)とし,補高はすべて軸足に行った。機器は,EMGマスターWireless Km-818MTメディエリアサポート社を使用した。センサー位置は,腓腹筋外側頭(膝の末梢で下腿中央線より2cm外側部)とした。歩行は,慣れの要素を考慮して補高直後の実施とし,速度指定による不自然さを考慮して自由歩行とした。また補高による歩行リズムの変化に伴う床反力の増加・減少の可能性を考慮して立脚・遊脚時間を測定した。足圧センサーを爪先・踵部に装着し,立脚・遊脚相を特定した。3回試行し,ノイズやセンサー不良のない最初の試行回の3番目の歩行周期を分析対象とした。5条件の筋活動量について,全波整流化後1/8秒ごとの筋電図積分値(Integrated Electromyogram:IEMG;単位μV)を用い,peak値を測定値とした。被検者個々の0cm歩行時を100%とし,1~4cm補高時それぞれの筋活動量を%IEMGとして正規化し,補高別の活動量を男女それぞれで比較(Steel-Dwass法)した。peak値出現タイミングについて,立脚相100%を25%ごとに階級分けし,peak値出現の頻度(人数)を算出し,男女それぞれで検討した(Steel-Dwass法)。立脚・遊脚時間を1/1000秒単位で計測し,合計して1歩行周期時間を算出した。被検者個々の0cm歩行時を100%として正規化し,補高別の%1歩行周期時間を算出した。更に各補高別に立脚・遊脚時間をそれぞれの1歩行周期時間で除し,立脚・遊脚相割合を算出し,補高別の変化を男女それぞれで検討した(Steel-Dwass法)。有意水準は5%とした。
【結果】補高別の腓腹筋活動量(%IEMG)の変化について,0cmの場合と比較し,男子で1cm及び4cm補高時に有意な増加がみられた。女子で2cm及び4cm補高時に有意な増加がみられた。男女ともその他の補高間で変化はみられなかった。peak値出現タイミングについて,男女とも立脚相75~100%の時期に有意に頻度が高かった。%1歩行周期時間及び立脚・遊脚相割合について,男女とも補高による変化はみられなかった。
【考察】腓腹筋活動量について,1cmないし2cmで有意差がみられたことは,補高直後の違和感による反応が考えられ,2cmないし3cmで差がみられなかったことは,予測や慣れによる影響が考えられたが,男女差による影響を考察するには至らなかった。その後,男女に共通して4cmの脚長差で有意差を認めたことから4cmをcut off値として,伸び上がりに伴う過活動が生じた可能性が考えられた。peak値出現タイミングについて,正常歩行の筋活動,即ち底屈筋の大きな活動は踵離地付近で発生し足趾離地時に急に低下するという点において,本研究でも男女ともにpeak値が立脚相の後半(75%~100%)に出現したことから妥当なものと考えた。これらのことから脚長差歩行によって立脚期後半に伸び上がりが生じることで,足関節の負担が増大し,変形などの変化に関連する可能性が示唆され,更に%1歩行周期時間,立脚・遊脚期割合は,4cmまでの脚長差によっては影響を受けない可能性が考えられたが,いずれについても男女差を見出すことはできなかった。
【理学療法学研究としての意義】脚長差歩行時の伸び上がりに関与すると考えられる筋活動の一端について,定量的な評価を試み,男女差を踏まえた,それぞれの歩容変化並びに機能障害の可能性を推察することは,脚長差に対する理学療法介入やその効果判定に重要な要素と考えた。
【方法】脚長差のない健常人16名(男子10名:平均年齢20.7±2.4歳,平均BMI22.8±3.4,女子6名:平均年齢21.7±6.1歳,平均BMI20.1±0.9)を対象とした。被検者の足底部に1,2,3,4cmの4段階で補高を行い,正常歩行(以下0cm)時と併せた5条件で自由歩行を実施し,短下肢(非補高)側立脚相における腓腹筋活動量及び活動のpeak値出現タイミングを測定した。補高は,補高材として実用されているウレタン系EVAゴムの底材を被検者が日常履いている靴底に貼付することで行った。ボールを蹴る方,一歩目を踏み出す方の足を利き足,対側を軸足(被検者の軸足は全員が左側)とし,補高はすべて軸足に行った。機器は,EMGマスターWireless Km-818MTメディエリアサポート社を使用した。センサー位置は,腓腹筋外側頭(膝の末梢で下腿中央線より2cm外側部)とした。歩行は,慣れの要素を考慮して補高直後の実施とし,速度指定による不自然さを考慮して自由歩行とした。また補高による歩行リズムの変化に伴う床反力の増加・減少の可能性を考慮して立脚・遊脚時間を測定した。足圧センサーを爪先・踵部に装着し,立脚・遊脚相を特定した。3回試行し,ノイズやセンサー不良のない最初の試行回の3番目の歩行周期を分析対象とした。5条件の筋活動量について,全波整流化後1/8秒ごとの筋電図積分値(Integrated Electromyogram:IEMG;単位μV)を用い,peak値を測定値とした。被検者個々の0cm歩行時を100%とし,1~4cm補高時それぞれの筋活動量を%IEMGとして正規化し,補高別の活動量を男女それぞれで比較(Steel-Dwass法)した。peak値出現タイミングについて,立脚相100%を25%ごとに階級分けし,peak値出現の頻度(人数)を算出し,男女それぞれで検討した(Steel-Dwass法)。立脚・遊脚時間を1/1000秒単位で計測し,合計して1歩行周期時間を算出した。被検者個々の0cm歩行時を100%として正規化し,補高別の%1歩行周期時間を算出した。更に各補高別に立脚・遊脚時間をそれぞれの1歩行周期時間で除し,立脚・遊脚相割合を算出し,補高別の変化を男女それぞれで検討した(Steel-Dwass法)。有意水準は5%とした。
【結果】補高別の腓腹筋活動量(%IEMG)の変化について,0cmの場合と比較し,男子で1cm及び4cm補高時に有意な増加がみられた。女子で2cm及び4cm補高時に有意な増加がみられた。男女ともその他の補高間で変化はみられなかった。peak値出現タイミングについて,男女とも立脚相75~100%の時期に有意に頻度が高かった。%1歩行周期時間及び立脚・遊脚相割合について,男女とも補高による変化はみられなかった。
【考察】腓腹筋活動量について,1cmないし2cmで有意差がみられたことは,補高直後の違和感による反応が考えられ,2cmないし3cmで差がみられなかったことは,予測や慣れによる影響が考えられたが,男女差による影響を考察するには至らなかった。その後,男女に共通して4cmの脚長差で有意差を認めたことから4cmをcut off値として,伸び上がりに伴う過活動が生じた可能性が考えられた。peak値出現タイミングについて,正常歩行の筋活動,即ち底屈筋の大きな活動は踵離地付近で発生し足趾離地時に急に低下するという点において,本研究でも男女ともにpeak値が立脚相の後半(75%~100%)に出現したことから妥当なものと考えた。これらのことから脚長差歩行によって立脚期後半に伸び上がりが生じることで,足関節の負担が増大し,変形などの変化に関連する可能性が示唆され,更に%1歩行周期時間,立脚・遊脚期割合は,4cmまでの脚長差によっては影響を受けない可能性が考えられたが,いずれについても男女差を見出すことはできなかった。
【理学療法学研究としての意義】脚長差歩行時の伸び上がりに関与すると考えられる筋活動の一端について,定量的な評価を試み,男女差を踏まえた,それぞれの歩容変化並びに機能障害の可能性を推察することは,脚長差に対する理学療法介入やその効果判定に重要な要素と考えた。