第50回日本理学療法学術大会

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ポスター1

身体運動学1

2015年6月5日(金) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0103] 虚弱高齢者における反重力トレッドミル(ALTER-G)の歩行分析

楠正和1,4, 宮原洋八2, 深堀辰彦3,5 (1.嶋田病院リハビリテーション科, 2.西九州大学リハビリテーション学部, 3.高良台リハビリテーション病院リハケア部, 4.西九州大学生活支援研究科, 5.西九州大学健康福祉学研究科)

キーワード:部分免荷トレッドミル, 虚弱高齢者, 加速度計

【はじめに,目的】
本研究の目的は,加速度計による反重力トレッドミル(以下ALTER-G)の歩行分析の信頼性を検討し,虚弱高齢者に対するALTER-Gが,免荷量の違いにより体幹加速度や歩行パラメーター(1歩行周期・歩行率・重複歩距離)に与える影響を明確にすることである。

【方法】
対象は,通所リハビリを利用している,屋内歩行が自立した要支援者・軽度要介護者20名(男性8名,女性12名,年齢77.7±7.3歳)であった。部分免荷トレッドミルは,Anti-Gravity Treadmill®(Alter G社製)を用いた。免荷量は,全荷重歩行(Full Body Weight:以下FBW)および体重免荷歩行(Body Weight Support:以下BWS)を20%BWS・40%BWSの3条件に設定し,歩行速度は一律2km/hとした。
各歩行条件下にて30秒間の歩行を2回試行し,歩行が定常状態になった際に,体幹に装着した加速度計にて計測をおこなった。各免荷量での歩行と1試行目から2試行目の計測の間には30秒の休憩をおこなった。体幹加速度信号から,側方・垂直・前後方向の最大振幅値(最大値と最小値の差)と歩行パラメーター(1歩行周期・歩行率・重複歩距離)を算出した。
歩行分析の信頼性の検討は,2試行のALTER-Gで,各免荷量(FWB・20%BWS・40%BWS)における,最大振幅値と歩行パラメーター(1歩行周期・歩行率・重複歩距離)を級内相関係数1,1(以下ICC)にて比較した。
各免荷量におけるALTER-Gの歩行分析は,第1試行のデータを使用し,最大振幅値と歩行パラメーターにてFriedman検定をおこない多重比較にて検討した。
各免荷量における歩行パラメーターと最大振幅値の関連性は,第1試行のデータを使用し,Spearmanの相関係数にて検討した。
統計解析にはSPSS16.0を用い有意水準は5%未満とした。

【結果】
ALTER-Gにおける最大振幅値と歩行パラメーターの被験者内信頼性は,20%BWS群の側方・垂直・前後方向とFWB群・40%BWS群の垂直・前後方向の最大振幅値において,ICC 0.64~0.92と高い再現性が認められた。1歩行周期・歩行率・重複歩距離は,各免荷量において,ICC 0.91~0.93を呈し,優秀な再現性を認めた。
ALTER-Gの各免荷量における測定値の比較は,FWB群と20%BWS群,FWB群と40%BWS群の最大振幅値において,側方・前後方向に有意な減少がみられた(P<0.01)。垂直方向は,FWB群と20%BWS群,FWB群と40%BWS群,20%BWS群と40%BWS群において,免荷量の増加に伴い有意な減少がみられた(P<0.01)。歩行パラメーター(1歩行周期・歩行率・重複歩距離)は,FWB群と20%BWS群,FWB群と40%BWS群にて有意な差(1歩行周期は延長,歩行率は減少,重複歩距離は拡大)がみられた。20%BWS群と40%BWS群は,有意な差はみられなかった。(1歩行周期sec:FWB 1.23±0.13,20%PWB 1.31±0.15,40%PWB 1.35±0.13,歩行率steps/min:FWB 98.8±9.9,20%PWB 92.9±10.3,40%PWB 89.6±9.2,重複歩距離m:FWB 0.68±0.07,20%PWB 0.73±0.09,40%PWB 0.75±0.07)
歩行パラメーターと最大振幅値との相関は,歩行パラメーターと各BWS群(20%BWS群・40%BWS群)の側方・前後方向において,相関関係(r=0.508~0.675)が認められた。

【考察】
本研究において,加速度計によるALTER-G歩行分析は,体幹加速度の最大振幅値と歩行パラメーターにて高い再現性を認めた。虚弱高齢者に対するALTER-Gは,免荷歩行(20%BWS・40%BWS)をおこなうことで,体幹加速度の最大振幅値が有意に減少した。体重免荷歩行時に重心が安定することで,重複歩距離が拡大,歩行率が低下する歩行パターンに改善できる可能性が示唆された。
虚弱高齢者は特に下肢の筋機能の低下や姿勢保持能力の低下,柔軟性の低下などにより歩行が不安定なことが多い。転倒回避のためや下肢筋力低下に対してエネルギー消費を最小に保つための適応動作として,重複歩距離が短縮し,歩行率が低下,立脚期や両脚支持期が延長するなどの特徴が顕著にあらわれる。ALTER-Gによる体重免荷によって,立脚期や特に両脚支持期の延長が改善され下肢の筋活動の負担が減ること,体重免荷歩行中の重心が安定することで,適応動作としての高齢者特有の歩行パターンが改善されたと推察する。

【理学療法学研究としての意義】
虚弱高齢者に対するALTER-Gが,歩行に与える影響の詳細を明確にすることは,プロトコルの作成や評価を行う上で重要な基礎的知見となると考える。