第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター1

身体運動学2

2015年6月5日(金) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0106] ステップ動作における単純反応時間と選択反応時間の分析

秋山裕樹1,2, 朝倉智之2, 臼田滋2 (1.日高病院リハビリテーションセンター急性期リハビリ室, 2.群馬大学大学院保健学研究科)

キーワード:反応時間, ステップ動作, 二重課題

【はじめに,目的】
躓き等,転倒のきっかけの後,下肢を踏み出すこと(以下ステップ)によって転倒を回避することが可能である。しかし,高齢者ではステップが出ない,あるいは出ても体重を支持しきれずに実際の転倒へ発展してしまうケースが多い。原因の一つとして,高齢者は若年者と比べステップを開始するまでの反応時間(reaction time:RT)が遅延することが先行研究で指摘されている。反応時間はDondersらにより,あらかじめ定まっている応答信号と応答運動の組み合わせである単純反応時間(simple reaction time:SRT)と,呈示された応答信号に合致する応答運動を選択して行う選択反応時間(choice reaction time:CRT)の分類が提唱されている。これらは応答入力から運動に至るまでの情報処理過程に違いがあると考えられるが,ステップ動作におけるSRT,CRTについては十分に検討がされていない。本研究の目的は健常者を対象にステップ課題におけるSRTとCRT,さらに認知課題の付加による影響を分析することである。
【方法】
健常若年者16名(男性11名,女性5名,年齢22.9±3.5歳:平均±標準偏差)を対象に,マルチタイムカウンタと小型センサーマット,多色刺激呈示装置(ディケイエイチ社製)を用いて反応時間の測定を行った。運動課題は静止立位後,発光機器による光刺激に対し素早くステップする課題とした。ステップ課題は左右脚×前方・側方・後方の計6方向とした。ステップ動作のみを行なう条件(single task:ST)として1色の光刺激に対し定められたステップ脚・方向へステップするSRT-ST条件,2色の光刺激に対し,定められた方向へステップ脚の左右を判断して行なう2CRT-ST条件,6色の光刺激に対し,方向・ステップ脚を判断して行なう6CRT-ST条件を設定した。さらに上記3条件それぞれに検者が提示した数字から7を減じていく認知課題(dual task:DT)を付加した計6条件とした。ステップは各条件で6方向へそれぞれ3回成功するまで行なった。また,注意分配性の指標として,Trail Making Test-partB(TMT-B)を測定した。分析には各方向の最速値を代表値として採用し,ステップ脚はどちらか一方のみを用いた。統計処理はIMB SPSS statistics version22を用いて,各方向におけるST,DTの2条件とSRT,2CRT,6CRTの3条件で反復測定二元配置分散分析を行った。またTMT-Bと各方向・条件間の関係についてPearsonの相関係数を算出した。なお,有意水準は5%とした。
【結果】
RTの平均(標準偏差)は,前方ステップのSRT-STで0.327±0.080s,SRT-DTで0.516±0.143s,2CRT-STで0.455±0.116s,2CRT-DTで0.578±0.136s,6CRT-STで0.627±0.135s,6CRT-DTで0.750±0.124sであった。側方ステップでは,それぞれ0.276±0.035s,0.454±0.119s,0.411±0.195s,0.577±0.134s,0.616±0.164s,0.714±-0.246sであり,後方ステップで0.356±0.049s,0.539±0.101s,0.467±0.131s,0.616±0.151s,0.662±0.188s,0.851±0.216sであった。TMT-Bの平均(標準偏差)は55.8±11.9sであった。DTの有無と条件間に交互作用は有意ではなかった。全方向とも,DTの有無と条件の主効果が有意であり,STに比べてDTの反応時間は有意に大きく,SRT,2CRT,6CRTの順に有意に反応時間は大きくなった。TMT-Bと各方向・条件間のRTには有意な相関を認めなかった。
【考察】
RTはSTよりもDT,またSRTよりもCRTで延長する結果となった。これは情報処理量の違いを反映した結果と考えられる。注意分配性は注意の制御機能と関連しており,複数の刺激・情報に同時に注意を配分する能力,またはその容量と言われている。2CRT,6CRTではSRTと比べ処理・判断する情報量が増加し,またDT付加によりさらに情報量が増すことでステップ動作への注意量が減少し,RTの遅延へ繋がったと考えられる。今回の研究では注意分配性については,各方向・条件間で有意な相関を認めなかったが,これは対象が若年健常者であることが原因と考えられる。今後対象者数を増やし,また足圧中心軌跡などの解析も加えて多面的にステップ動作時の分析を行なっていく必要がある。日常生活において多数の情報を同時に処理する能力は必要不可欠であり,理学療法介入時においても多数の情報処理を伴った運動課題の提示が必要と考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
若年者でも情報処理量に比例し反応時間が遅延することが明らかとなった。今後多面的に分析を加え動作特性を明らかにできれば,反応時間短縮を目的とした介入方法開発のための一助となり得る。