[P1-B-0109] 高齢者の立ち上がり能力はTUGに影響を及ぼすのか
キーワード:高齢者, TUG, 立ち上がり
【はじめに,目的】立ち上がり動作は,日常生活において移動開始に欠かせない重要な動作である。臨床において疾患を問わず,立ち上がり動作の改善を目標に理学療法は行われることが多い。近年高齢者の転倒問題が注目されており,予防の視点からスクリーニングは重要視されている。中でもTUG(Time Up &Go Test)は,動的バランスを評価する目的で多用されているが,立ち上がり能力,歩行能力などが複合的に組み合わさっており,バランス能力のみを反映しているとは言い難い。本研究の目的は,高齢者の立ち上がり能力が高いほどTUG値は小さいと仮説をし,高齢者の立ち上がり動作能力が,TUGに及ぼす影響を明らかにすることである。
【方法】対象者は,本研究に同意が得られた健常高齢者16名(男性4名,女性12名),年齢71.2±3.7歳(65~78歳)であった。対象者全員に,検査に影響を及ぼす筋骨格系疾患や認知能力に異常が無いことを確認した。検査方法は,①三次元動作解析装置を用いた立ち上がり評価と②TUGの測定を行った。動作計測は三次元動作解析装置(VICON-MX)を用いた。反射マーカーは全身の15箇所に貼付した。測定手順は,開始の合図で,椅子座位より立ち上がり,静止立位までの動作を3回計測した。動作の速度は任意とした。測定条件において,椅子の高さ,開始肢位の膝関節屈曲角度,動作時の目線の高さは同じように統一し,立ち上がり時は両上肢で膝や椅子を支持しないように指示した。分析方法は,得られた測定値より,2回目のデータを代表値として用い,股関節・膝関節・足関節の屈曲・伸展の最大モーメントを算出した。TUGは最大努力歩行速度を測定した。回り方は被験者の自由とした。1回の練習後に2回測定し,平均値を採用した。統計学的分析は,TUGの測定時間と下肢関節のモーメント値を,スピアマンの相関係数を用いて,関連性を明らかにした。
【結果】TUGの平均値は,6.0±0.8秒であった。三次元動作解析の結果は,股関節屈曲モーメントが36.4±12.5Nm,股関節伸展モーメントが36.8±14.1Nm,膝関節屈曲モーメントが37.1±15.6Nm,膝関節伸展モーメントが37.4±17.1Nm,足関節底屈モーメントは18.1±13.8Nm,足関節背屈モーメントは23.2±14.9Nmであった。TUG値と股関節・膝関節・足関節のモーメントにスピアマンの相関係数の検定を行ったところ,股関節屈曲モーメントの係数r=0.35でわずかな相関が認められた。その他の項目は認められなかった。
【考察】本研究の結果,TUG値と股関節屈曲モーメントではやや相関が認められたが,その他の股関節伸展,膝関節屈曲・伸展,足関節底屈・背屈は相関が認められなかった。仮説では,高齢者の立ち上がり能力が高値であるほど,TUG値は小さいと考えたが,両群の相関認められなかった。TUG comとTUG maxを比較した関根ら(2010)の報告では,高齢者では起立以外(直線歩行・方向転換・直線歩行と着座)の運動要素とTUG値に有意差が認められ,この結果により高齢者においては歩行速度を上げることによってTUG値が短縮されることが明らかになったと述べている。このことから,高齢者の立ち上がり動作は,TUG値には影響しないことが考えられ,本研究結果と同じ傾向が確認された。一般的に,下肢筋力が低下している高齢者では,体幹の前傾角度を大きくしてから立ち上がる傾向にあると考えられている。中谷ら(2008)の報告によると,大きな体幹の前傾は,膝関節の慣性モーメントが増大し,立ち上がるまでの時間を延伸させて,TUG値を延長させると述べている。このように,下肢筋力が低下している高齢者では,TUG値に影響する可能性は少なくないと考えられる。本研究の問題点は,詳細な歩行分析を行っておらず,TUGにおいて立ちが上がり能力がどの程度影響を及ぼすのかが不明であった事と立ち上がり時の体幹前傾角度を統一しなかった事が挙げられる。今後は,歩行とTUGの関連性を検討することにより,下肢筋力の低下の程度がTUG値に影響を及ぼすのかを検討する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,理学療法で広く用いられているTUG検査を精査し,立ち上がり能力の影響を明らかにしたことで,臨床的解釈に貢献出来るものと考えられる。
【方法】対象者は,本研究に同意が得られた健常高齢者16名(男性4名,女性12名),年齢71.2±3.7歳(65~78歳)であった。対象者全員に,検査に影響を及ぼす筋骨格系疾患や認知能力に異常が無いことを確認した。検査方法は,①三次元動作解析装置を用いた立ち上がり評価と②TUGの測定を行った。動作計測は三次元動作解析装置(VICON-MX)を用いた。反射マーカーは全身の15箇所に貼付した。測定手順は,開始の合図で,椅子座位より立ち上がり,静止立位までの動作を3回計測した。動作の速度は任意とした。測定条件において,椅子の高さ,開始肢位の膝関節屈曲角度,動作時の目線の高さは同じように統一し,立ち上がり時は両上肢で膝や椅子を支持しないように指示した。分析方法は,得られた測定値より,2回目のデータを代表値として用い,股関節・膝関節・足関節の屈曲・伸展の最大モーメントを算出した。TUGは最大努力歩行速度を測定した。回り方は被験者の自由とした。1回の練習後に2回測定し,平均値を採用した。統計学的分析は,TUGの測定時間と下肢関節のモーメント値を,スピアマンの相関係数を用いて,関連性を明らかにした。
【結果】TUGの平均値は,6.0±0.8秒であった。三次元動作解析の結果は,股関節屈曲モーメントが36.4±12.5Nm,股関節伸展モーメントが36.8±14.1Nm,膝関節屈曲モーメントが37.1±15.6Nm,膝関節伸展モーメントが37.4±17.1Nm,足関節底屈モーメントは18.1±13.8Nm,足関節背屈モーメントは23.2±14.9Nmであった。TUG値と股関節・膝関節・足関節のモーメントにスピアマンの相関係数の検定を行ったところ,股関節屈曲モーメントの係数r=0.35でわずかな相関が認められた。その他の項目は認められなかった。
【考察】本研究の結果,TUG値と股関節屈曲モーメントではやや相関が認められたが,その他の股関節伸展,膝関節屈曲・伸展,足関節底屈・背屈は相関が認められなかった。仮説では,高齢者の立ち上がり能力が高値であるほど,TUG値は小さいと考えたが,両群の相関認められなかった。TUG comとTUG maxを比較した関根ら(2010)の報告では,高齢者では起立以外(直線歩行・方向転換・直線歩行と着座)の運動要素とTUG値に有意差が認められ,この結果により高齢者においては歩行速度を上げることによってTUG値が短縮されることが明らかになったと述べている。このことから,高齢者の立ち上がり動作は,TUG値には影響しないことが考えられ,本研究結果と同じ傾向が確認された。一般的に,下肢筋力が低下している高齢者では,体幹の前傾角度を大きくしてから立ち上がる傾向にあると考えられている。中谷ら(2008)の報告によると,大きな体幹の前傾は,膝関節の慣性モーメントが増大し,立ち上がるまでの時間を延伸させて,TUG値を延長させると述べている。このように,下肢筋力が低下している高齢者では,TUG値に影響する可能性は少なくないと考えられる。本研究の問題点は,詳細な歩行分析を行っておらず,TUGにおいて立ちが上がり能力がどの程度影響を及ぼすのかが不明であった事と立ち上がり時の体幹前傾角度を統一しなかった事が挙げられる。今後は,歩行とTUGの関連性を検討することにより,下肢筋力の低下の程度がTUG値に影響を及ぼすのかを検討する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,理学療法で広く用いられているTUG検査を精査し,立ち上がり能力の影響を明らかにしたことで,臨床的解釈に貢献出来るものと考えられる。