[P1-B-0133] 頭部前方突出姿勢が舌筋力に与える影響
Keywords:舌筋, 頭蓋脊椎角, 嚥下障害
【はじめに,目的】
頭部前方突出姿勢(forward head posture)は臨床において頻繁に観察される姿勢であり,このような頭頸部の不良姿勢は顎関節の異常や換気能力の低下など様々な弊害を招くとされている。特に頭頸部は嚥下機能と強く関係しているとされており,頭部前方突出姿勢は嚥下機能に影響を与えると考える。また,嚥下時の食塊移送には舌の運動が重要であり,舌筋力の低下は嚥下障害の問題点となると言われている。そこで,本研究は頭部前方突出姿勢が舌筋力に与える影響について検討した。
【方法】
対象は,口腔機能に異常のない男子大学生18名(平均年齢20.6±0.9歳)とした。使用機器は舌筋力計(竹井機器工業株式会社製)と舌圧子(メディポートホック有限会社製)を用いた。測定は安静座位および頭部前方突出座位での舌突出筋力と舌挙上筋力の4項目とし,各2回ずつ測定した。舌突出筋力の測定は口唇に舌圧子を当て,舌圧子に向かって舌を最大の力で突き出させた。舌挙上筋力の測定はまず被験者に開口させ,検者は口腔内で舌圧子を固定した。そして,被験者に最大の力で舌を押し上げさせた。また,被験者の第7頸椎棘突起に解剖学的マーカーを貼り付け,舌筋力測定中の頭頸部姿勢をデジタルカメラ(Nikon社製)により撮影した。その後,画像解析ソフト(Image J)にて第7頸椎棘突起を通る床との水平線と耳珠中央のなす角を計測し,頭蓋脊椎角(以下CV角)を算出した。測定肢位はすべて椅座位とし,頭部をアゴ台(竹井機器工業株式会社製)に固定した。分析は各々の1回目と2回目の平均値を代表値とし,安静座位と頭部前方突出座位での舌筋力およびCV角の差を明らかにするために対応のあるt-検定を行った。
【結果】
舌突出筋力は安静座位で平均値0.44±0.10kg,前方突出座位で平均値0.37±0.12kgとなり,安静座位で有意に強かった(p<0.01)。また,CV角は安静座位で平均値38.95±7.73°,前方突出座位で平均値23.64±7.85°となり,安静座位で有意に大きかった(p<0.01)。一方,舌挙上筋力は安静座位で平均値0.46±0.14kg,前方突出座位で平均値0.36±0.12kgとなり,こちらも安静座位で有意に強かった(p<0.01)。また,CV角は安静座位で平均値38.29±7.94°,前方突出座位で平均値23.50±8.20°となり,こちらも安静座位で有意に大きかった(p<0.01)。
【考察】
今回の研究で安静座位での舌筋力と頭部前方突出座位での舌筋力の間には有意な差が認められた。また,安静座位でのCV角と頭部前方突出座位でのCV角の間にも有意な差が認められたことから,頭部前方突出座位ではCV角が有意に小さくなり,舌筋力に影響を与えていることが明らかになった。一般に舌筋力の低下は嚥下障害における問題点の一つであるとされており,吉田らは舌筋力の低下は嚥下時の食物残留やむせと関係していると報告されている。そのため,臨床においても嚥下障害患者に対して舌負荷運動が実施されており,Robbinsらは嚥下障害患者に舌負荷運動を行い,舌筋力と嚥下能力の改善を認めている。また,舌と姿勢の関係について頸部の屈伸や回旋が舌運動や舌圧に与える影響などについては報告されてきた。しかし,今回のように頭部前方突出姿勢と舌筋力の関係については報告されていなかった。CV角は頭部前方突出の程度を表現するとされており,加齢とともに小さくなると報告されている。また,頭部前方突出は下顎周辺に大きな影響を与えており,頭部が前方に位置することで,胸骨舌骨筋や肩甲舌骨筋などの舌骨下筋群が他動的に伸張され,舌骨を下方に引くと言われている。舌骨には外舌筋群の一つである舌骨舌筋が付着しており,舌骨の下方偏位は舌の運動を阻害すると考える。そのため,安静座位と頭部前方突出座位での舌筋力の間に有意な差が認められたと考える。
【理学療法学研究としての意義】
嚥下障害は誤嚥性肺炎やQOLの低下につながることから,近年,摂食・嚥下リハビリテーションの重要性が高まっている。一般に,理学療法士は,摂食・嚥下リハビリテーションにおいて姿勢保持や呼吸機能に関与している。本研究により,頭部前方突出姿勢が舌筋力に影響を与えていることが明らかになった。そのため,舌筋力の向上には姿勢の改善が必要であり,摂食・嚥下リハビリテーションにおいて姿勢保持に関与している理学療法士の役割は大きいと考える。
頭部前方突出姿勢(forward head posture)は臨床において頻繁に観察される姿勢であり,このような頭頸部の不良姿勢は顎関節の異常や換気能力の低下など様々な弊害を招くとされている。特に頭頸部は嚥下機能と強く関係しているとされており,頭部前方突出姿勢は嚥下機能に影響を与えると考える。また,嚥下時の食塊移送には舌の運動が重要であり,舌筋力の低下は嚥下障害の問題点となると言われている。そこで,本研究は頭部前方突出姿勢が舌筋力に与える影響について検討した。
【方法】
対象は,口腔機能に異常のない男子大学生18名(平均年齢20.6±0.9歳)とした。使用機器は舌筋力計(竹井機器工業株式会社製)と舌圧子(メディポートホック有限会社製)を用いた。測定は安静座位および頭部前方突出座位での舌突出筋力と舌挙上筋力の4項目とし,各2回ずつ測定した。舌突出筋力の測定は口唇に舌圧子を当て,舌圧子に向かって舌を最大の力で突き出させた。舌挙上筋力の測定はまず被験者に開口させ,検者は口腔内で舌圧子を固定した。そして,被験者に最大の力で舌を押し上げさせた。また,被験者の第7頸椎棘突起に解剖学的マーカーを貼り付け,舌筋力測定中の頭頸部姿勢をデジタルカメラ(Nikon社製)により撮影した。その後,画像解析ソフト(Image J)にて第7頸椎棘突起を通る床との水平線と耳珠中央のなす角を計測し,頭蓋脊椎角(以下CV角)を算出した。測定肢位はすべて椅座位とし,頭部をアゴ台(竹井機器工業株式会社製)に固定した。分析は各々の1回目と2回目の平均値を代表値とし,安静座位と頭部前方突出座位での舌筋力およびCV角の差を明らかにするために対応のあるt-検定を行った。
【結果】
舌突出筋力は安静座位で平均値0.44±0.10kg,前方突出座位で平均値0.37±0.12kgとなり,安静座位で有意に強かった(p<0.01)。また,CV角は安静座位で平均値38.95±7.73°,前方突出座位で平均値23.64±7.85°となり,安静座位で有意に大きかった(p<0.01)。一方,舌挙上筋力は安静座位で平均値0.46±0.14kg,前方突出座位で平均値0.36±0.12kgとなり,こちらも安静座位で有意に強かった(p<0.01)。また,CV角は安静座位で平均値38.29±7.94°,前方突出座位で平均値23.50±8.20°となり,こちらも安静座位で有意に大きかった(p<0.01)。
【考察】
今回の研究で安静座位での舌筋力と頭部前方突出座位での舌筋力の間には有意な差が認められた。また,安静座位でのCV角と頭部前方突出座位でのCV角の間にも有意な差が認められたことから,頭部前方突出座位ではCV角が有意に小さくなり,舌筋力に影響を与えていることが明らかになった。一般に舌筋力の低下は嚥下障害における問題点の一つであるとされており,吉田らは舌筋力の低下は嚥下時の食物残留やむせと関係していると報告されている。そのため,臨床においても嚥下障害患者に対して舌負荷運動が実施されており,Robbinsらは嚥下障害患者に舌負荷運動を行い,舌筋力と嚥下能力の改善を認めている。また,舌と姿勢の関係について頸部の屈伸や回旋が舌運動や舌圧に与える影響などについては報告されてきた。しかし,今回のように頭部前方突出姿勢と舌筋力の関係については報告されていなかった。CV角は頭部前方突出の程度を表現するとされており,加齢とともに小さくなると報告されている。また,頭部前方突出は下顎周辺に大きな影響を与えており,頭部が前方に位置することで,胸骨舌骨筋や肩甲舌骨筋などの舌骨下筋群が他動的に伸張され,舌骨を下方に引くと言われている。舌骨には外舌筋群の一つである舌骨舌筋が付着しており,舌骨の下方偏位は舌の運動を阻害すると考える。そのため,安静座位と頭部前方突出座位での舌筋力の間に有意な差が認められたと考える。
【理学療法学研究としての意義】
嚥下障害は誤嚥性肺炎やQOLの低下につながることから,近年,摂食・嚥下リハビリテーションの重要性が高まっている。一般に,理学療法士は,摂食・嚥下リハビリテーションにおいて姿勢保持や呼吸機能に関与している。本研究により,頭部前方突出姿勢が舌筋力に影響を与えていることが明らかになった。そのため,舌筋力の向上には姿勢の改善が必要であり,摂食・嚥下リハビリテーションにおいて姿勢保持に関与している理学療法士の役割は大きいと考える。