[P1-B-0142] 人工股関節全置換術後1年間の下肢筋力推移の年代間比較
Keywords:変形性股関節症, 人工股関節全置換術, 筋力
【はじめに,目的】
健常者では加齢に伴い,下肢筋力は低下することが知られている。しかし,人工股関節全置換術(THA)後患者の下肢筋力の回復過程について,年代別に比較した報告はなく,明らかではない。THA後患者の年代別による下肢筋力の推移は,術後の筋力や運動能力の予後予測をする上で有用な情報となると考える。そこで本研究の目的は,THA術後1年間の股関節外転(股外転)筋力と膝関節伸展(膝伸展)筋力の推移の年代別の特徴の違いを明らかにすることとした。
【方法】
対象は当クリニックにて初回THAを施行した片側末期変形性股関節症(股OA)の女性患者109名とし,年齢により50代群,60代群,70代群の3群に分けた。手術は全て同一医師により後側方アプローチにて施行した。術後2日目より歩行開始し,リハビリテーションは1日2回計2~3時間程度週6日実施した。入院期間は4週間であり,退院後は術後2か月,3か月,6か月,1年時に回復状況の評価とホームエクササイズの指導を行った。
筋力の測定にはHand-Held Dynamometer(アニマ社製μTas F-1)を使用して,手術側の股外転と膝伸展の最大等尺性筋力を測定した。測定時期は,術前,術後3週,3か月,6か月,1年時とした。測定方法は,股外転筋力は背臥位にて股外転0度で大腿遠位外側部にて測定,膝伸展筋力は端座位にて膝関節屈曲約80度で下腿遠位前面にて測定した。測定には固定バンドを使用し全て同一検者にて行い,約3秒間の最大等尺性筋力をそれぞれ2回測定し,その最大値からトルク体重比(Nm/kg)を算出した。また両筋力の回復率を検討するために術前比(各測定時期のトルク体重比/術前のトルク体重比×100)を算出した。術前時の股関節機能評価としてHarris hip score(HHS)を用い,罹病期間として股関節に疼痛や違和感が出始めてからの経過年数を聴取した。
統計学的分析としては,3群間の年齢,HHS,罹病期間,トルク体重比と術前比の各測定時期での比較には,Kruskal-Wallis検定と多重比較検定を用い,トルク体重比と術前比の推移の群内比較をFriedman検定と多重比較検定を用いて行った。有意水準は5%とした。
【結果】
対象者は50代群が37名,60代群が36名,70代群が36名であった。平均年齢は,50代群が55.5±2.6歳,60代群が64.0±2.4歳,70代群が73.6±3.0歳であり,3群間に有意な差がみられた(p<0.01)。HHSは50代群が60.4±10.2点,60代群が67.1±10.8点,70代群が60.0±10.0点であり,3群間に有意な差がみられた(p<0.01)。罹病期間は,50代群が9.9±5.3年,60代群が6.5±5.7年,70代群が4.7±5.4年であり,3群間に有意な差がみられた(p<0.01)。
股外転筋力と膝伸展筋力の推移の群内比較の結果,各群においてトルク体重比と術前比ともに有意な改善がみられた(p<0.01)。両筋力のトルク体重比の各測定時期での3群間の比較の結果,股外転は全ての測定時期において有意な差はみられなかったが,膝伸展は術前,術後3か月,6か月,1年時において70代群が有意に低下していた(p<0.05)。両筋力の術前比の各測定時期での3群間の比較の結果,両筋力ともに全ての測定時期において有意な差はみられなかった。
【考察】
本研究の結果より,THA術後1年間の股外転筋力は50代,60代,70代の各年代によるトルク体重比,筋力回復率の差はみられないことが明らかになった。膝伸展筋力においても各年代による筋力回復率の差はないものの,トルク体重比は70代患者において術前や術後3か月以降で他の年代に比べて低下していることが明らかになった。一般的に下肢筋力は加齢に伴い低下することが知られている。また,筋力トレーニングの効果についても若年者に比べて高齢者のほうが筋肥大反応は弱まると考えられている。しかし,股OA患者は加齢による影響に加えて,罹病期間や股関節機能障害による影響が大きく,THA術後の下肢筋力の回復に年代間の差がみられなかったと考えられる。特に50代の股OA患者の下肢筋力や筋力回復率は,他の年代に比べて同年代の健常者との差が大きい可能性があり,THA術前後のリハビリテーションを進める上で,筋力回復の予測に注意が必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,THA術後の股外転筋力と膝伸展筋力の回復率は年代による差がないことが明らかになり,THA術後の筋力回復を予測する上で有用な情報となり,THA術前後のリハビリテーションの一助となると考える。
健常者では加齢に伴い,下肢筋力は低下することが知られている。しかし,人工股関節全置換術(THA)後患者の下肢筋力の回復過程について,年代別に比較した報告はなく,明らかではない。THA後患者の年代別による下肢筋力の推移は,術後の筋力や運動能力の予後予測をする上で有用な情報となると考える。そこで本研究の目的は,THA術後1年間の股関節外転(股外転)筋力と膝関節伸展(膝伸展)筋力の推移の年代別の特徴の違いを明らかにすることとした。
【方法】
対象は当クリニックにて初回THAを施行した片側末期変形性股関節症(股OA)の女性患者109名とし,年齢により50代群,60代群,70代群の3群に分けた。手術は全て同一医師により後側方アプローチにて施行した。術後2日目より歩行開始し,リハビリテーションは1日2回計2~3時間程度週6日実施した。入院期間は4週間であり,退院後は術後2か月,3か月,6か月,1年時に回復状況の評価とホームエクササイズの指導を行った。
筋力の測定にはHand-Held Dynamometer(アニマ社製μTas F-1)を使用して,手術側の股外転と膝伸展の最大等尺性筋力を測定した。測定時期は,術前,術後3週,3か月,6か月,1年時とした。測定方法は,股外転筋力は背臥位にて股外転0度で大腿遠位外側部にて測定,膝伸展筋力は端座位にて膝関節屈曲約80度で下腿遠位前面にて測定した。測定には固定バンドを使用し全て同一検者にて行い,約3秒間の最大等尺性筋力をそれぞれ2回測定し,その最大値からトルク体重比(Nm/kg)を算出した。また両筋力の回復率を検討するために術前比(各測定時期のトルク体重比/術前のトルク体重比×100)を算出した。術前時の股関節機能評価としてHarris hip score(HHS)を用い,罹病期間として股関節に疼痛や違和感が出始めてからの経過年数を聴取した。
統計学的分析としては,3群間の年齢,HHS,罹病期間,トルク体重比と術前比の各測定時期での比較には,Kruskal-Wallis検定と多重比較検定を用い,トルク体重比と術前比の推移の群内比較をFriedman検定と多重比較検定を用いて行った。有意水準は5%とした。
【結果】
対象者は50代群が37名,60代群が36名,70代群が36名であった。平均年齢は,50代群が55.5±2.6歳,60代群が64.0±2.4歳,70代群が73.6±3.0歳であり,3群間に有意な差がみられた(p<0.01)。HHSは50代群が60.4±10.2点,60代群が67.1±10.8点,70代群が60.0±10.0点であり,3群間に有意な差がみられた(p<0.01)。罹病期間は,50代群が9.9±5.3年,60代群が6.5±5.7年,70代群が4.7±5.4年であり,3群間に有意な差がみられた(p<0.01)。
股外転筋力と膝伸展筋力の推移の群内比較の結果,各群においてトルク体重比と術前比ともに有意な改善がみられた(p<0.01)。両筋力のトルク体重比の各測定時期での3群間の比較の結果,股外転は全ての測定時期において有意な差はみられなかったが,膝伸展は術前,術後3か月,6か月,1年時において70代群が有意に低下していた(p<0.05)。両筋力の術前比の各測定時期での3群間の比較の結果,両筋力ともに全ての測定時期において有意な差はみられなかった。
【考察】
本研究の結果より,THA術後1年間の股外転筋力は50代,60代,70代の各年代によるトルク体重比,筋力回復率の差はみられないことが明らかになった。膝伸展筋力においても各年代による筋力回復率の差はないものの,トルク体重比は70代患者において術前や術後3か月以降で他の年代に比べて低下していることが明らかになった。一般的に下肢筋力は加齢に伴い低下することが知られている。また,筋力トレーニングの効果についても若年者に比べて高齢者のほうが筋肥大反応は弱まると考えられている。しかし,股OA患者は加齢による影響に加えて,罹病期間や股関節機能障害による影響が大きく,THA術後の下肢筋力の回復に年代間の差がみられなかったと考えられる。特に50代の股OA患者の下肢筋力や筋力回復率は,他の年代に比べて同年代の健常者との差が大きい可能性があり,THA術前後のリハビリテーションを進める上で,筋力回復の予測に注意が必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,THA術後の股外転筋力と膝伸展筋力の回復率は年代による差がないことが明らかになり,THA術後の筋力回復を予測する上で有用な情報となり,THA術前後のリハビリテーションの一助となると考える。