第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

身体運動学6

Fri. Jun 5, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0148] 呼吸様式の違いが骨盤底筋に与える影響

田舎中真由美1, 山本泰三2, 菅野洋平3 (1.インターリハ株式会社フィジオセンター, 2.株式会社スターティングアゲイン, 3.インターリハ株式会社)

Keywords:骨盤底筋, 呼吸, 超音波画像

【はじめに,目的】
骨盤底筋群,腹横筋,横隔膜,多裂筋はインナーユニットと総称され,腰痛症や尿失禁に対する運動療法の際に呼吸法と併用してトレーニングされている。臨床上,尿失禁や臓器下垂の症例や経産婦の呼吸は胸式呼吸が多い。骨盤底筋群に機能低下がある場合,吸気に骨盤底筋群を下方に押し下げることを避けるために胸式で呼吸すると考えられる。昨年の本学会で我々は意図的な腹圧上昇課題により腹壁が膨隆すると骨盤底部は下降し,腹横筋は伸張されることを報告した。しかし,呼吸時の腹壁の動きが骨盤底筋に与える報告はまだない。本研究の目的は,超音波画像診断装置及び3次元動作解析装置を用い,呼吸様式の違いが骨盤底筋に与える影響を評価することである。
【方法】
対象は胸腹部及び骨盤内臓器の手術歴の既往がない健常成人男性7名(平均年齢36.3±9.1歳)とした。呼吸様式は上部肋骨を上下させる上部胸式呼吸(以下,上部胸式),下部肋骨を広げる下部胸式呼吸(以下,下部胸式),腹式呼吸(以下,腹式)とし,それぞれの様式で安静呼吸と最大深呼吸させた。各呼吸課題は事前に練習した。胸郭と腹壁の動きは3次元動作解析装置(VICON社製)を用い,マーカーは第2肋骨,両肋骨下端,臍にマーカーを設置し測定した。各呼吸様式における胸郭及び腹壁の動きは安静呼気終末を基準として吸気時の各マーカーの変化量を算出した。骨盤底筋群の測定には超音波画像診断装置(Sono Site社製MicroMaxx)を用いた。骨盤底筋の変化はWhittakerらの手技に準じ,背臥位で恥骨結合の上部にプローブを当て,膀胱後面の動きを骨盤底筋の動きとし,安静呼気終末と吸気終末,最大呼気終末と最大吸気終末に測定した。安静及び最大呼気終末時の腹壁から膀胱後下面までの距離を基準として,各呼吸様式における安静及び最大吸気終末の膀胱後面の下降率(下方が正の数)を算出した。統計学的分析は分散分析後にポストホックテストした。各呼吸様式における第2肋骨,下部肋骨,臍点の変化量,及び各吸様式の臍点の変化量と膀胱後面の変化量の相関を求めた有意水準は5%未満とした。
【結果】
被験者の安静呼吸様式は上部胸式が6名,腹式が1名であった。安静呼吸における第2肋骨の矢状面の変化量は,上部胸式で1.0±1.3%,下部胸式で1.4±1.5%,腹式で1.0±1.5%であった。下部肋骨の前額面の変化量は,上部胸式で1.4±1.1%,下部胸式で2.7±2.5%,腹式で2.1±2.9%であった。安静呼吸の腹壁の矢状面の変化量は上部胸式で7.9±16.8%,下部胸式で36.6±86.8%,腹式で25.0±58.4%であった。最大深呼吸における下部肋骨の前額面の変化量は,上部胸式で3.6±2.7%,下部胸式で3.9±3.5%,腹式で4.5±4.5%であった。安静呼吸における膀胱の下降率は上部胸式で0.8±1.6%,下部胸式で0.4±1.0%,腹式で7.5±4.9%であり,安静腹式の下降率が下部胸式より有意あった。最大深呼吸における膀胱の下降率は,上部胸式で3.9±1.4%,下部胸式で0.3±1.9%,腹式で7.5±2.7%であり,最大深呼吸では腹式の下降率が上部胸式及び下部胸式より有意であった。各呼吸様式の腹部の矢上面の動きと膀胱下降率の相関は認められなかった。
【考察】
最大腹式呼吸における吸気では他の呼吸様式に比べて骨盤底筋を下降させることが分かった。骨盤底筋群の機能不全例では腹式呼吸を避け,胸式呼吸を行っていることが多い。これは骨盤底部に過剰な腹圧をかけないための逃避動作を裏付ける結果となった。上部胸式呼吸同様に下部胸郭を外側に広げる下部胸式呼吸では骨盤底筋は下降しにくいことが分かった。DeToroverらによると下部胸郭に対して吸気に抵抗をかけると次の呼気相において腹横筋が選択的に促通されるとの報告もある。臨床において骨盤底筋群の運動療法の際,腹式呼吸を併用させて吸気で腹部を膨らませ,呼気で骨盤底筋群の随意収縮を促すことが用いられている。しかし,本研究の結果から骨盤底筋群の運動療法を行う場合,初期段階では下部胸式呼吸は吸気に骨盤底筋に過負荷を与えることなく呼気で随意収縮を促しやすくなるため有効であると考える。今後症例数を増やし,呼吸様式の違いによる骨盤底筋群及び腹横筋の随意収縮への影響や腹圧変化を確認し,適切な体幹のスタビリティートレーニングを行うためのプロトコルを検討する。


【理学療法学研究としての意義】
腹式呼吸は他の呼吸様式に比べて骨盤底筋を下降させることから,骨盤底筋に機能不全がある場合,初期段階では吸気で骨盤底筋に負荷を与えにくい下部胸式呼吸を併用した運動療法を行うことが有効である。