第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

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スポーツ2

Fri. Jun 5, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0172] スピードスケートジュニア強化選手における継続的メディカルチェックの有用性

メディカルチェックと運動指導は障害改善と発生予防できるのか?

青木啓成, 村上成道 (相澤病院スポーツ障害予防治療センター)

Keywords:メディカルチェック, 障害予防, 波及効果

【目的】
スポーツ分野における理学療法士(以下PT)の役割は障害の改善のみではなく,障害発生や進行を予防することが重要となる。更には,障害予防することで選手に必要なトレーニングを効率的に実施することが可能となり,結果として選手の強化に結び付くことが理想である。
スポーツ分野でのメディカルチェック(以下MC)に関する報告は多く,評価項目と障害との因果関係は報告されているが,MCの長期的な効果や成果に関する報告は少ない。また,ナショナルチームでの監督・コーチとの協働による障害予防の成果に関する報告は,我々が渉猟した限り見あたらない。
我々は日本スケート連盟強化スタッフとしてスピードスケートジュニア強化選手の障害保有率を改善させ,障害予防をはかることを目的にMCを実施してきた。
本研究の目的はMCとPTの運動指導は障害を改善させ,障害を予防に寄与できるかを検証することである。
【方法】
対象は2011年度~2013年度の日本スケート連盟スピードスケートジュニア強化選手59名(16~18歳,男26名,女33名)である。MCは6月,8月,10月に代表合宿に合わせて3回実施した。MCでは障害(運動時痛)の有無と身体機能(基本動作・関節可動域・体幹機能)の評価を行った。医師のMCの後,同連盟強化スタッフであるPTが評価結果をもとに障害へのアプローチを行い,予防のためのセルフケア方法を個別指導した。選手は指導されたセルフケアを継続し,2ヶ月毎の再評価結果に応じてケア方法を修正した。
障害の有無は選手より聴取し,身体の障害部位が1か所でもあり,100%の練習が3日以上困難となった場合を障害有りとして障害保有率を調査した。基本動作は3項目(片脚立位姿勢,スクワット動作,ランジ動作)とし,動作不良の場合を1ポイント(以下P)とした。片脚立位姿勢とランジ動作は両側性に評価した。関節可動域は3項目(肩・股・足関節)とし,10度以上の左右差を認めた場合を1Pとした。体幹機能は4項目(上肢挙上固定テスト・並進バランステスト・下肢中間位保持テスト・股関節開排テスト)とし,徒手抵抗を加えるブレイクテスト方式で両側性に評価し,抵抗に抗することができない場合を1Pとした。身体機能は基本動作,関節可動域,体幹機能ごとに3回のP変化を平均値にて算出した。
検討項目は3年間の障害保有率の変化,障害保有率の変化と身体機能の関係とした。
【結果】
全59名の障害保有率は6月61%,8月59%,10月39%と減少傾向となった。
障害保有率の変化と身体機能の関係は,基本動作が6月2.8P,8月2.4P,10月1.6P,関節可動域は6月1.5P,8月1.5P,10月1.4P,体幹機能は6月3.4P,8月1.8P,10月1.4Pであった。6月から8月において体幹機能が大きく改善したが障害保有率の減少は乏しかった。8月から10月においては体幹機能に加え基本動作が改善し,障害保有率が減少した。関節可動域には大きな変化はなかった。
各年度の10月の障害保有率は2011年度45%,2012年度26%,2013年度45%であり2012年度が最も低かった。同年度は他年度と比較して,8月から10月にかけての基本動作の改善に加え,体幹機能の改善が最も大きかった。
【考察】
障害保有率が減少し,増加を認めなかったことから,MCとPTの継続的な指導は障害を改善させ,障害予防に寄与できたと考えられる。
障害保有率の減少には体幹機能の改善が必要不可欠であるが,体幹機能の改善のみではなく,基本動作と双方の改善が必要であることが示唆された。また,関節可動域はトレーニングの量や質の影響を受けやすく,障害改善の指標にはなりにくいと考えられた。
MCの目標は,障害保有率を減少させることが重要性されるが,そればかりではなく,その結果をもとにした対策を立案・実行することが重要であると考えている。2011年度からMC項目の統一したことは,選手の身体機能の変化を経時的に追えるようになり,改善を認めない場合には指導内容を変更するなど,対策が効果的に実施できたと推察される。
今後は,障害改善と障害予防をはかることで十分な練習が可能になり,選手の強化にも寄与できる可能性があるため,障害予防と競技成績の関係についても検討していきたいと考える。なお,この成果は連盟ならびに監督・コーチ・医師・PTなどの協働と信頼関係構築による結果であることを強調しておきたい。

【理学療法学研究としての意義】
MCは単に実施することが重要ではなく,スポーツ現場に関わるPTがMCや指導の成果を明確化することが重要である。その結果をもとにスポーツ現場の指導者と綿密な連携をはかることが今後の日本を担うスポーツ選手の育成と強化につながると考えられ,その意義は高い。