第50回日本理学療法学術大会

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2015年6月5日(金) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0182] 投球動作における骨盤・脊柱アライメントと肩最大外旋角度の関係

川合慶1, 小林寛和2, 岡戸敦男3, 金村朋直3, 佐藤真樹3, 白井智裕1 (1.聖隷佐倉市民病院リハビリテーション室, 2.日本福祉大学健康科学部, 3.公益財団法人スポーツ医・科学研究所)

キーワード:投球動作, 肩最大外旋, 骨盤・脊柱アライメント

【はじめに,目的】
投球障害の理学療法では,投球動作の問題と機能的要因の関係を考察して,対応することが重要になる。
投球動作における肩関節へのメカニカルストレスは,肩最大外旋時(以下,MER)とボールリリース時に増強するとされる。MERでは,総じての肩外旋角度が140~150度にもなり,この運動は肩甲上腕関節外旋(約70%),肩甲骨後傾(約20%),脊柱伸展(約7%),その他(約3%)で構成される(宮下ら,2010年)。そのため,肩甲骨後傾,脊柱伸展の運動が制限されると,肩甲上腕関節運動が増大し,メカニカルストレスの増強も危惧される。
投球動作における動的アライメントは,前相の問題からも影響が及ぶとされる。諸家による臨床的動作分析から,ワインドアップ期(以下,WU期)での骨盤後傾,脊柱屈曲の増大したアライメントが,アクセラレーション期(以下,AC期)での脊柱伸展運動を制限することも指摘されている。そこで,投球動作のWU期とAC期における動的アライメントの関係を確認することを目的として本研究を実施した。
【方法】
対象は,高校野球経験者の男子大学生15名(20.5±1.9歳)とした。約5mの距離から10球の全力投球を行わせ,その際の投球動作を3次元動作解析機器Nexus-1.3.106(VICON社)にて撮影した。
得られた画像から次の2項目について解析した。1.WU期における左下肢最大挙上時(以下,KHP)の骨盤後傾角度(後傾:プラス,前傾:マイナス)と脊柱伸展角度(伸展:プラス,屈曲:マイナス),2.AC期におけるMERの骨盤後傾角度,脊柱伸展角度,肩外旋角度(外旋:プラス,内旋:マイナス)。
また,MERの肩外旋角度における脊柱伸展の占める割合を脊柱伸展貢献度として,脊柱伸展角度を肩外旋角度で除した値を算出した。宮下の報告を参考に脊柱伸展貢献度7%未満をリスク範囲とし,その範囲に含まれる投球動作に関する特徴を確認した。
解析対象とした動作は,10球のうち,WU期におけるKHPの骨盤後傾が最大の投球(最大群),最小の投球(最小群),その中間の2球のうち平均値に近い1球(中間群)とし,各条件に当てはまる投球を対象ごとに選定した。
各群の平均値を求め,群間で比較した。統計学的解析は,統計解析ソフトSPSSを使用し,多重比較検定Bonferroni法にて行った。有意水準は5%未満とした。
【結果】
WU期における各項目は,骨盤後傾角度が,最大群18.7±6.5°,中間群13.2±6.0°,最小群10.1±4.6,脊柱伸展角度が,最大群-18.2±9.1°,中間群-12.9±6.1°,最小群-10.7±5.4°であった。最大群と最小群で差が有意であった(p<0.05)。
AC期における各項目は,骨盤後傾角度が,最大群-12.2±12.6°,中間群-15.2±11.4°,最小群-16.9±12.1°,脊柱伸展角度が,最大群13.6±7.2°,中間群14.4±4.7°,最小群14.6±3.9°,肩外旋角度が,最大群153.5±8.6°,中間群155.2±7.3°,最小群153.5±7.6°,脊柱伸展貢献度が,最大群11.4±6.0%,中間群12.1±4.0%,最小群12.4±3.5%であった。AC期の項目においてはいずれも差が有意でなかった。
リスク範囲に含まれた投球は,45球中6球であり,これらのWU期における脊柱伸展角度は-22.7°以下であった。
【考察】
今回の結果から,WU期において最大・最小群間で骨盤後傾・脊柱伸展角度の差を呈したが,AC期では明らかな差が確認されなかった。このことから,WU期のアライメントが必ずしもAC期に影響しないことが示唆された。これは,WU期のアライメントが,動作補正メカニズムによってその遂行過程で補正されたものと考える。
一方で,脊柱伸展貢献度において,リスク範囲に含まれた6球については,この動作補正メカニズムが機能していなかったと考えられる。これら6投球は,WU期における脊柱屈曲が増大したアライメントであったことから,投球動作の問題へアプローチする上で,補正メカニズムが機能せずにAC期へ影響しうる一要因と考え,今後も検討を加えたい。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果は,医療やスポーツの現場における投球動作の分析に活用され,投球障害に対する理学療法に貢献するものと考える。