[P1-B-0185] 離断性骨軟骨炎を伴う少年野球選手の身体機能特性について
~海老名市野球肘検診での活動を通して~
Keywords:野球肘, 検診業, 投球障害肘
【はじめに,目的】
野球肘検診は,上腕骨小頭の離断性骨軟骨炎(OCD)を早期に発見し,障害の悪化を防ぐことを目的としている。1981年に徳島で開始されたもので,神奈川県海老名市でも一昨年より小学校高学年を中心とした少年期の野球選手に対して行っている。当地域での検診では,アンケート調査(学年・野球歴・ポジション・痛みの有無・どの投球相で痛みを感じるかを調査)・一次検診(医師による超音波検査,PT・OTによる身体機能検査)・フィードバック(身体機能テストの結果から,個別にストレッチや筋トレを指導)・指導者に対しての説明(肘検診の重要性とOCDについて。投球動作と身体機能について)が行われる。一次検診にてOCDが疑われる場合,医療機関での二次検診となっている。しかし,今まで身体機能とOCDとの関連を報告したものは少なく,肘検診での身体機能所見をどのようにとるのか一定した見解は得られていないのが実情である。そこで海老名市野球肘検診で得られた身体所見とOCDとの関連を検証することを本研究の目的とした。
【方法】
対象は海老名市少年軟式野球チームが参加する大会で検診ブースを受診した小学3~6年生の選手327名とした。検診では全例に対し医師による超音波検査および,PT・OTによる身体機能検査<ROM(肘伸展/股屈曲・屈曲90°と屈伸中間位での内外旋)/肘圧痛(内側・肘頭)/片脚立位バランス/筋力測定(僧帽筋下部)/筋長テスト(広背筋/大腿直筋)>を横断的に実施した。次に一次検診にてOCDが疑われた10名を有痛グループ,その他の317名を無痛グループとして2群に分類した。OCDか否かを従属変数,身体機能検査を独立変数としてロジスティック回帰分析を行った。統計解析にはSPSSを使用し,有意水準は5%とした。
【結果】
エコーでOCDが疑われ,二次検診を勧められたのは10名(3.1%)であり過去の報告と同程度であった。また,ロジスティック回帰分析により最終選択された変数は肘伸展テスト・肘内側圧痛・片脚立位テスト・投球側僧帽筋下部筋力テスト・非投球側股関節屈伸中間位での内旋ROMであった。屈伸中間位での非投球側股関節内旋ROM平均角度は,無痛グループで49.0°±11.1°,有痛グループで46.3°±9.8°であった。
【考察】
今回最終選択されたものは上肢3項目・下肢2項目であり,投球動作が下肢から体幹上肢へと連鎖してなされるものであることが改めて示唆された。
肘伸展制限はエコー検査の補足として症状を捉えられるものであり,OCDの中期である分離期以降になるとみられる症状の一つである。伸展制限の発生は内側型野球肘でも生じるものであるが,アクセレレーション期からフォロースルー期にかけて必要な肘伸展・前腕回内運動に制限をかけてしまい,代償として肩関節内旋を使うことでさらに肘外反ストレスを増強させる可能性のあるものである。肘内側圧痛は肘外反ストレスなどの負荷により生じ,OCDの生じる外側部に対しては圧縮ストレスが加わることでOCDの増悪因子となり得るものと考えられる。
上肢項目のうち僧帽筋下部筋力の低下は,挙上動作における体幹と肩甲骨のアライメント不良を引き起こし,肩甲骨の上方回旋不足からいわゆる肘下がりとなり,結果としてアクセレレーション期での肘外反ストレスが増強しているのではないかと考えている。
下肢項目は投球フォームそのものを崩す要因として考えられているものである。バランス能力の低下や股関節可動域の低下は,ワインドアップ期の垂直姿勢を安定して保持することを困難にし,ステップ後の良好な体幹の並進移動や回旋運動を阻害している。アクセレレーション期においては,膝崩れによる姿勢の崩れが生じやすくなる。こうした現象は上肢への負担増を招くことになり,肘痛を誘発する原因ともなる(青木ら,2008)。
非投球側股関節屈曲90°位での内旋ROMや股関節屈曲ROMでの可動域もOCD群で減少していたが,有意差は検出されなかった。この点については,今回対象となった年齢層の選手にとってどの程度の可動域が必要となるのか検討する必要があると思われた。
今回の結果から肘検診で評価すべき項目への道筋は得られたが,下肢と体幹の動的な運動機能評価,姿勢や投球フォームのチェック等があるとさらなる理解が得られると思われ,来年以降の課題であると思われた。
【理学療法学研究としての意義】
OCDと身体機能上の特徴との関連がわかることで,肘検診で実施するべき検査項目が洗練化され,より効率的に多くの少年野球選手の検診に携わることができる。また,予防的な観点からも指導者や保護者に対して適切なストレッチ指導などができるようになることが期待される。
野球肘検診は,上腕骨小頭の離断性骨軟骨炎(OCD)を早期に発見し,障害の悪化を防ぐことを目的としている。1981年に徳島で開始されたもので,神奈川県海老名市でも一昨年より小学校高学年を中心とした少年期の野球選手に対して行っている。当地域での検診では,アンケート調査(学年・野球歴・ポジション・痛みの有無・どの投球相で痛みを感じるかを調査)・一次検診(医師による超音波検査,PT・OTによる身体機能検査)・フィードバック(身体機能テストの結果から,個別にストレッチや筋トレを指導)・指導者に対しての説明(肘検診の重要性とOCDについて。投球動作と身体機能について)が行われる。一次検診にてOCDが疑われる場合,医療機関での二次検診となっている。しかし,今まで身体機能とOCDとの関連を報告したものは少なく,肘検診での身体機能所見をどのようにとるのか一定した見解は得られていないのが実情である。そこで海老名市野球肘検診で得られた身体所見とOCDとの関連を検証することを本研究の目的とした。
【方法】
対象は海老名市少年軟式野球チームが参加する大会で検診ブースを受診した小学3~6年生の選手327名とした。検診では全例に対し医師による超音波検査および,PT・OTによる身体機能検査<ROM(肘伸展/股屈曲・屈曲90°と屈伸中間位での内外旋)/肘圧痛(内側・肘頭)/片脚立位バランス/筋力測定(僧帽筋下部)/筋長テスト(広背筋/大腿直筋)>を横断的に実施した。次に一次検診にてOCDが疑われた10名を有痛グループ,その他の317名を無痛グループとして2群に分類した。OCDか否かを従属変数,身体機能検査を独立変数としてロジスティック回帰分析を行った。統計解析にはSPSSを使用し,有意水準は5%とした。
【結果】
エコーでOCDが疑われ,二次検診を勧められたのは10名(3.1%)であり過去の報告と同程度であった。また,ロジスティック回帰分析により最終選択された変数は肘伸展テスト・肘内側圧痛・片脚立位テスト・投球側僧帽筋下部筋力テスト・非投球側股関節屈伸中間位での内旋ROMであった。屈伸中間位での非投球側股関節内旋ROM平均角度は,無痛グループで49.0°±11.1°,有痛グループで46.3°±9.8°であった。
【考察】
今回最終選択されたものは上肢3項目・下肢2項目であり,投球動作が下肢から体幹上肢へと連鎖してなされるものであることが改めて示唆された。
肘伸展制限はエコー検査の補足として症状を捉えられるものであり,OCDの中期である分離期以降になるとみられる症状の一つである。伸展制限の発生は内側型野球肘でも生じるものであるが,アクセレレーション期からフォロースルー期にかけて必要な肘伸展・前腕回内運動に制限をかけてしまい,代償として肩関節内旋を使うことでさらに肘外反ストレスを増強させる可能性のあるものである。肘内側圧痛は肘外反ストレスなどの負荷により生じ,OCDの生じる外側部に対しては圧縮ストレスが加わることでOCDの増悪因子となり得るものと考えられる。
上肢項目のうち僧帽筋下部筋力の低下は,挙上動作における体幹と肩甲骨のアライメント不良を引き起こし,肩甲骨の上方回旋不足からいわゆる肘下がりとなり,結果としてアクセレレーション期での肘外反ストレスが増強しているのではないかと考えている。
下肢項目は投球フォームそのものを崩す要因として考えられているものである。バランス能力の低下や股関節可動域の低下は,ワインドアップ期の垂直姿勢を安定して保持することを困難にし,ステップ後の良好な体幹の並進移動や回旋運動を阻害している。アクセレレーション期においては,膝崩れによる姿勢の崩れが生じやすくなる。こうした現象は上肢への負担増を招くことになり,肘痛を誘発する原因ともなる(青木ら,2008)。
非投球側股関節屈曲90°位での内旋ROMや股関節屈曲ROMでの可動域もOCD群で減少していたが,有意差は検出されなかった。この点については,今回対象となった年齢層の選手にとってどの程度の可動域が必要となるのか検討する必要があると思われた。
今回の結果から肘検診で評価すべき項目への道筋は得られたが,下肢と体幹の動的な運動機能評価,姿勢や投球フォームのチェック等があるとさらなる理解が得られると思われ,来年以降の課題であると思われた。
【理学療法学研究としての意義】
OCDと身体機能上の特徴との関連がわかることで,肘検診で実施するべき検査項目が洗練化され,より効率的に多くの少年野球選手の検診に携わることができる。また,予防的な観点からも指導者や保護者に対して適切なストレッチ指導などができるようになることが期待される。