第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

疼痛

Fri. Jun 5, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0192] 慢性疼痛を呈する胸腰部脊椎疾患患者の外来リハビリテーション期間と心理面,自己効力感,疼痛,QOLとの関連性

三木裕介 (きたじま田岡病院)

Keywords:慢性疼痛, 外来リハビリテーション期間, 破局的思考

【はじめに,目的】
現在,当院では外来リハビリテーション(以下外来リハ)で慢性疼痛を呈する胸腰部脊椎疾患の患者に関わる機会が多い。臨床場面においても,患者からネガティブな発言,疼痛に対しての不安,他者へ依存した考え,生活上での不満を聞くことがある。Engel(1977)らは,慢性疼痛に対する集学的治療の基となる考え方は生物心理社会的モデルにあると述べている。慢性疼痛を呈する患者は,生物学的要因に加えて心理社会的要因が加わることで症状を持続,悪化させていることが考えられる。昨今の医療体制では算定期間が設けられ,介入に限りがあることからセラピストとして期間を考慮した上での効果的な介入は重要視されている。さらに過去の報告でも外来リハ期間に関連する要因を研究したものは少ない。そこで今回,胸腰部脊椎疾患患者の外来リハ期間に着目し,心理面,自己効力感,疼痛,QOLがどのように関連しているかを調査し,長期間外来リハに通われる患者の傾向を明らかにすることを目的とする。
【方法】
対象は,当院外来リハ通院中の慢性疼痛を呈する胸腰部脊椎疾患患者27名(男性12名,女性15名,平均年齢70.9±2.3歳)である。疾患内訳は,腰部脊柱管狭窄症7名,腰椎椎間板ヘルニア6名,腰椎椎間板症4名,変形性脊椎症3名,変形性腰椎症3名,腰椎圧迫骨折2名,腰椎変性すべり症1名,胸椎圧迫骨折1名である。除外基準は胸腰部脊椎疾患以外に著明な合併症を有している者,脊椎疾患の手術の既往がある者,認知症があり質問形式評価法の理解が困難な者とした。調査項目として,外来リハ期間は外来リハ開始日から質問形式評価実施日までの期間である。心理面として破局的思考はpain catastrophizing scale(以下PCS),下位項目の反芻,無力感,拡大視であり不安と抑うつはhospital anxiety and depression scale(以下HADS)下位項目の不安,抑うつである。自己効力感はPain Self-Efficacy Questionnaire(以下PSEQ)である。疼痛はvisual analogue scale(以下VAS)である。QOLはRoland-Morris disability questionnaire(以下RDQ)である。統計解析は外来リハ期間とPCS,PCS下位項目,HADS下位項目,PSEQ,VAS,RDQの関連性を調べるためにスピアマンの順位相関係数を用い,有意水準は5%未満とした。
【結果】
外来リハ期間は464.8±83.3である。PCSは29.2±10.9,下位項目の反芻は14.2±4.4,無力感は9.2±5.1,拡大視は5.8±2.9である。HADS下位項目の不安は8.6±2.5,抑うつは10.1±2.3である。PSEQは31.3±13.1である。VASは43.7±21.9である。RDQは9.2±5.6である。統計解析の結果,外来リハ期間とPCSに有意な正の相関(ρ=0.411,p<0.05)を認めた。その他の項目において有意な相関は認められなかった。
【考察】
今回,慢性疼痛を呈する胸腰部脊椎疾患患者の外来リハ期間と関連するのはPCSであり,その他の調査項目との関連は認められなかった。破局的思考とは疼痛に対するネガティブな考えであり下位項目の反芻,無力感,拡大視からなる。反芻は疼痛に関連した考えに過剰に注意を向けること,無力感は疼痛の強い状況への対処において無力なものへ目を向けること,拡大視は疼痛の脅威を過大評価することである。慢性疼痛を呈する胸腰部脊椎疾患患者は疼痛に対して注意が向きやすく,繰り返し考えることで恐怖心が生じていると考える。また,疼痛を過大に評価している傾向であり,このことで疼痛に対して能動的な対処よりも受動的な対処になりやすい。よって,外来リハに対する依存心に影響を及ぼしていると考える。破局的思考は疼痛慢性化の予測因子と考えられているため,早期の外来リハ介入時から生物学的要因に加えて破局的思考を軽減させる心理面からのアプローチが必要である。今回の研究は,外来リハ期間と各調査項目との関連性を重要視し各症例の経過,生物学的要因,社会的要因は調査項目から除いた。また,古谷(2013)らの報告によると,慢性疼痛を有する胸腰部脊椎疾患患者は痛みに対する破局的思考が強く,ADLにも影響を及ぼしていると述べている。今後は,今回の調査内容に生物学的要因,社会的要因を加えて各症例の経過を追い,ADLとの関連性を前向きに研究することで外来リハ期間に影響する要因とADL能力との関連性を詳細に追求していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
慢性疼痛を呈する胸腰部脊椎疾患患者において外来リハ期間とPCSが関連しており,外来リハ期間が長い程,PCSが強い傾向であることが示唆された。このことは,昨今の医療体制では算定期間に限りがあり,外来リハでより効率の良い介入をするためには生物学的要因に加えて破局的思考を軽減させる介入が必要である点を示したことは意義があると言える。