[P1-B-0195] 行動的対処方略の違いが疼痛生活障害に影響するのか?
Keywords:Pain disability assessment scale, 行動的対処方略, 痛み
【はじめに,目的】
破局的思考や抑うつ,不安は疼痛生活障害に影響すると言われている。これらは認知や情動を評価するものであり,認知や情動が疼痛生活障害に影響していると言える。しかし痛みに対して,自己管理をするような行動的対処方略に対する疼痛生活障害の影響を検討されていない。行動的対処方略は,痛みの程度と関連していることが言われており,疼痛生活障害の改善の上で重要ではないかと考える。そこで本研究の目的としては,痛みに対する行動的対処方略の違いが,疼痛生活障害に与える影響を検討した。なお性差により,行動的対処方略の違いがある(神村1995)ため,今回は男女別に検討した。
【方法】
対象は痛みを有する外来患者187例(女性84例:54.6±19.2歳,頚部疾患6例,腰部疾患2例,上肢関節疾患52例,下肢関節疾患24例。男性103例:41.6±22.6歳,頚部疾患2例,腰部疾患16例,上肢関節疾患66例,下肢関節疾患19例)とした。
初診時に痛み強度(VAS),行動的対処方略,疼痛生活障害評価尺度(Pain disability assessment scale:PDAS)を評価した。行動的対処方略は,日本人における慢性疼痛を有する患者の疫学調査(Nakamura et al 2011,2014),日本語短縮版Coping strategy questionnaire(大竹ら2002),および痛みセンター問診票(牛田2010)を参考に,「日ごろから行っている痛みへの工夫はありますか」と提示し,1.薬を飲む,2.湿布を貼る,3.ストレッチや体操,4.マッサージ,5.運動して身体を鍛える,6.横になってゆっくり休む,7.痛みが出るまで無理しない,の7項目について複数回答可能とし,日ごろから行っている項目の回答を求めた。
統計処理として,PDASを従属変数,痛み強度および行動的対処方略を独立変数とした重回帰分析を男女それぞれ行った。行動的対処方略の性差をFisher’s exact testで検討した。
【結果】
PDASは女性15.3±11.2,男性10.2±8.3,痛み強度は女性47.3±21.3,男性55.3±23.6であった。
行動的対処方略において,日ごろから行っていると回答した人数(割合)は女性,男性それぞれ,薬を飲む19例(23%),26例(25%),湿布を貼る48例(57%),53例(51%),ストレッチや体操17例(20%),27例(26%),マッサージ23例(27%),24例(23%),運動して身体を鍛える8例(10%),11例(11%),横になってゆっくり休む15例(18%),10例(10%),痛みが出るまで無理しない7例(8%),9例(9%)であり,全ての項目で性別による割合の差はなかった。
重回帰分析の結果,女性は,薬を飲む(β=0.34),マッサージ(β=0.31),運動して身体を鍛える(β=-0.25)(R2=0.33,R2*=0.30),男性は,薬を飲む(β=0.29)痛み強度(β=0.25)(R2=0.16,R2*=0.14)が有意な変数として抽出された。なお,男女共に抽出された薬を飲むと痛みの強度との間に有意な相関関係は認めなかった。
【考察】
本研究結果から,行動的対処方略の違いがPDASに影響を及ぼすことが明らかとなった。選択している対処方略に男女差はないが,PDASに対する影響度合いが違う。女性の場合PDASと運動して身体を鍛えるが負の相関関係にあった要因として,能動的な行動的対処方略はPDASを低くすることが考えられる。男性の場合PDASと痛み強度が相関関係にあった要因として,痛み強度によるADL障害が影響していることが考えられる。また女性では薬を飲む,マッサージが男性では薬を飲むがPDASと相関関係にあった。これらは,受動的な行動的対処方略であり,これらにより活動制限が起こったのではないかと考えられる。また薬を飲むに関しては,初診時の行動的対処方略ということで,患者自ら選択した薬で,医療用医薬品ではない可能性があり,症状に適した薬が処方されたかは明らかではない。結果からも,行動的対処方略として薬を飲むと痛みの強度に関係はない。そのため患者の薬への期待とその結果の差より,負の情動が影響するADL低下の可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
従来からの報告にもある破局的思考,抑うつ,不安と同様に行動的対処方略も重要であるため,評価が必要である。
破局的思考や抑うつ,不安は疼痛生活障害に影響すると言われている。これらは認知や情動を評価するものであり,認知や情動が疼痛生活障害に影響していると言える。しかし痛みに対して,自己管理をするような行動的対処方略に対する疼痛生活障害の影響を検討されていない。行動的対処方略は,痛みの程度と関連していることが言われており,疼痛生活障害の改善の上で重要ではないかと考える。そこで本研究の目的としては,痛みに対する行動的対処方略の違いが,疼痛生活障害に与える影響を検討した。なお性差により,行動的対処方略の違いがある(神村1995)ため,今回は男女別に検討した。
【方法】
対象は痛みを有する外来患者187例(女性84例:54.6±19.2歳,頚部疾患6例,腰部疾患2例,上肢関節疾患52例,下肢関節疾患24例。男性103例:41.6±22.6歳,頚部疾患2例,腰部疾患16例,上肢関節疾患66例,下肢関節疾患19例)とした。
初診時に痛み強度(VAS),行動的対処方略,疼痛生活障害評価尺度(Pain disability assessment scale:PDAS)を評価した。行動的対処方略は,日本人における慢性疼痛を有する患者の疫学調査(Nakamura et al 2011,2014),日本語短縮版Coping strategy questionnaire(大竹ら2002),および痛みセンター問診票(牛田2010)を参考に,「日ごろから行っている痛みへの工夫はありますか」と提示し,1.薬を飲む,2.湿布を貼る,3.ストレッチや体操,4.マッサージ,5.運動して身体を鍛える,6.横になってゆっくり休む,7.痛みが出るまで無理しない,の7項目について複数回答可能とし,日ごろから行っている項目の回答を求めた。
統計処理として,PDASを従属変数,痛み強度および行動的対処方略を独立変数とした重回帰分析を男女それぞれ行った。行動的対処方略の性差をFisher’s exact testで検討した。
【結果】
PDASは女性15.3±11.2,男性10.2±8.3,痛み強度は女性47.3±21.3,男性55.3±23.6であった。
行動的対処方略において,日ごろから行っていると回答した人数(割合)は女性,男性それぞれ,薬を飲む19例(23%),26例(25%),湿布を貼る48例(57%),53例(51%),ストレッチや体操17例(20%),27例(26%),マッサージ23例(27%),24例(23%),運動して身体を鍛える8例(10%),11例(11%),横になってゆっくり休む15例(18%),10例(10%),痛みが出るまで無理しない7例(8%),9例(9%)であり,全ての項目で性別による割合の差はなかった。
重回帰分析の結果,女性は,薬を飲む(β=0.34),マッサージ(β=0.31),運動して身体を鍛える(β=-0.25)(R2=0.33,R2*=0.30),男性は,薬を飲む(β=0.29)痛み強度(β=0.25)(R2=0.16,R2*=0.14)が有意な変数として抽出された。なお,男女共に抽出された薬を飲むと痛みの強度との間に有意な相関関係は認めなかった。
【考察】
本研究結果から,行動的対処方略の違いがPDASに影響を及ぼすことが明らかとなった。選択している対処方略に男女差はないが,PDASに対する影響度合いが違う。女性の場合PDASと運動して身体を鍛えるが負の相関関係にあった要因として,能動的な行動的対処方略はPDASを低くすることが考えられる。男性の場合PDASと痛み強度が相関関係にあった要因として,痛み強度によるADL障害が影響していることが考えられる。また女性では薬を飲む,マッサージが男性では薬を飲むがPDASと相関関係にあった。これらは,受動的な行動的対処方略であり,これらにより活動制限が起こったのではないかと考えられる。また薬を飲むに関しては,初診時の行動的対処方略ということで,患者自ら選択した薬で,医療用医薬品ではない可能性があり,症状に適した薬が処方されたかは明らかではない。結果からも,行動的対処方略として薬を飲むと痛みの強度に関係はない。そのため患者の薬への期待とその結果の差より,負の情動が影響するADL低下の可能性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
従来からの報告にもある破局的思考,抑うつ,不安と同様に行動的対処方略も重要であるため,評価が必要である。