[P1-B-0198] むち打ち症関連症候群の理学療法を行う際に有用な評価は?
キーワード:むち打ち症関連症候群, 頚性めまい, 理学療法評価
【はじめに,目的】むち打ち症関連症候群(以下,WAD)は,頚部への過大な負荷や衝突の方向によって胸鎖乳突筋や頭板状筋などの軟部組織や頚椎椎間関節に損傷を引き起こす可能性があり,それらが頚部痛や頚部可動域制限を招くこともある。WADは多彩な臨床症状が出現し,14~42%は慢性化して治療に難渋することが少なくない。WADの60%にめまいが生じるとの報告があり,椎骨動脈の圧迫や狭窄,頚部交感神経系の刺激,上位頚椎からの異常な固有感覚入力が原因で頚性めまいを起こすこともある。頚性めまいの理学的検査に関する先行研究は散見されるが,WADの理学療法を行う際に有用な評価については一定の見解が得られていないのが現状である。本研究の目的は,WADの理学療法を行う際に有用な評価について検討することである。
【方法】当院にてWADの診断を受け,受傷後8~12週経過した男性25名,女性25名(平均年齢45.2±1.6歳),Quebecの臨床分類GradeII,脳血管障害や薬物療法,メニエール病・良性発作性頭位めまい症・前庭神経炎を有する者は除外した。頚性めまいの理学的検査は椎骨動脈テスト,neck torsion nystagmus test(以下,NTNT),頚椎用手牽引テストを行い,陽性者は頚性めまい有りとした。椎骨動脈テストとNTNTは眼振が認められた場合,頚椎用手牽引テストは牽引によってめまいが軽減された場合を陽性と判定した。評価は頚部可動域,頚部筋群の筋力および圧痛,頚部X線画像の4項目とし,筋力は頚部屈曲・伸展を徒手筋力検査にて実施した。理学的検査において陽性率の男女差を比較し,評価項目については頚性めまい有無群および理学療法実施前後で比較し,男女における頚性めまいと評価項目についてはPearsonの相関係数を用いて検定し,有意水準は5%とした。
【結果】頚性めまいの理学的検査において,椎骨動脈テストの陽性率は男性8名・女性16名と女性のほうが高く,その他のテストは一部を除き男女ともに陰性であった。女性の頚性めまい有り群のうち13名は頚部可動域制限があり,特に後屈・回旋角度が有意に小さかったが,理学療法実施にて頚部後屈・回旋の可動域が増大した女性10名は椎骨動脈テスト陰性であった。また,頚部X線画像において,めまい有り群のうち女性9名は上位頚椎下関節突起の骨棘形成や下位頚椎の椎間板狭小化が認められた。男女における頚性めまいと評価項目について,女性では頚部筋群の筋力および圧痛を除いて中程度の相関を認めたが,男性では全ての項目で相関を認めなかった。
【考察】むち打ち症関連症候群は運動機能低下のみでなく,精神的要素も関与して頭痛やめまいなど多彩な臨床症状が生じやすく,特にめまいは中枢性から末梢性,心因性のものまで多様であり,理学療法を行う際には様々な理学的検査および評価を用いて原因を特定する必要がある。本研究の結果より,頚性めまいの理学的検査の陽性率には性差があり,WADの重症度や病期の違いによっても頚部可動域の変化は考えられるため,頚性めまいと頚部可動域との関連については言及できない。しかし,女性では理学療法実施後の頚部可動域増大により椎骨動脈テストが陰性であったため,病期に応じて頚部可動域を計測しておくことは有用かもしれない。また,頚部X線画像において,女性の頚性めまい有り群では上位および下位頚椎における異常所見が認められた。これはWADによる影響ではなく,受傷前から示されていたことも考えられ,WADの病態生理は明らかではない。しかし,頚椎下関節突起の骨棘形成により椎骨動脈が圧迫され,小脳の循環不全が生じることで頚性めまいを引き起こすことは推測されるため,頚部のX線画像評価は頚性めまい症状把握において必要性は高い。これらのことから,WADの理学療法を行う際,女性の頚性めまいについては椎骨動脈テストを実施し,頚部可動域および頚部X線画像の評価が有用である可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】むち打ち症関連症候群に対して理学療法は実施されるが,頚性めまいは平衡感覚との関わりが深く,転倒につながることもあるため,有用な評価にて頚性めまいを把握することはリスク管理としても重要である。
【方法】当院にてWADの診断を受け,受傷後8~12週経過した男性25名,女性25名(平均年齢45.2±1.6歳),Quebecの臨床分類GradeII,脳血管障害や薬物療法,メニエール病・良性発作性頭位めまい症・前庭神経炎を有する者は除外した。頚性めまいの理学的検査は椎骨動脈テスト,neck torsion nystagmus test(以下,NTNT),頚椎用手牽引テストを行い,陽性者は頚性めまい有りとした。椎骨動脈テストとNTNTは眼振が認められた場合,頚椎用手牽引テストは牽引によってめまいが軽減された場合を陽性と判定した。評価は頚部可動域,頚部筋群の筋力および圧痛,頚部X線画像の4項目とし,筋力は頚部屈曲・伸展を徒手筋力検査にて実施した。理学的検査において陽性率の男女差を比較し,評価項目については頚性めまい有無群および理学療法実施前後で比較し,男女における頚性めまいと評価項目についてはPearsonの相関係数を用いて検定し,有意水準は5%とした。
【結果】頚性めまいの理学的検査において,椎骨動脈テストの陽性率は男性8名・女性16名と女性のほうが高く,その他のテストは一部を除き男女ともに陰性であった。女性の頚性めまい有り群のうち13名は頚部可動域制限があり,特に後屈・回旋角度が有意に小さかったが,理学療法実施にて頚部後屈・回旋の可動域が増大した女性10名は椎骨動脈テスト陰性であった。また,頚部X線画像において,めまい有り群のうち女性9名は上位頚椎下関節突起の骨棘形成や下位頚椎の椎間板狭小化が認められた。男女における頚性めまいと評価項目について,女性では頚部筋群の筋力および圧痛を除いて中程度の相関を認めたが,男性では全ての項目で相関を認めなかった。
【考察】むち打ち症関連症候群は運動機能低下のみでなく,精神的要素も関与して頭痛やめまいなど多彩な臨床症状が生じやすく,特にめまいは中枢性から末梢性,心因性のものまで多様であり,理学療法を行う際には様々な理学的検査および評価を用いて原因を特定する必要がある。本研究の結果より,頚性めまいの理学的検査の陽性率には性差があり,WADの重症度や病期の違いによっても頚部可動域の変化は考えられるため,頚性めまいと頚部可動域との関連については言及できない。しかし,女性では理学療法実施後の頚部可動域増大により椎骨動脈テストが陰性であったため,病期に応じて頚部可動域を計測しておくことは有用かもしれない。また,頚部X線画像において,女性の頚性めまい有り群では上位および下位頚椎における異常所見が認められた。これはWADによる影響ではなく,受傷前から示されていたことも考えられ,WADの病態生理は明らかではない。しかし,頚椎下関節突起の骨棘形成により椎骨動脈が圧迫され,小脳の循環不全が生じることで頚性めまいを引き起こすことは推測されるため,頚部のX線画像評価は頚性めまい症状把握において必要性は高い。これらのことから,WADの理学療法を行う際,女性の頚性めまいについては椎骨動脈テストを実施し,頚部可動域および頚部X線画像の評価が有用である可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】むち打ち症関連症候群に対して理学療法は実施されるが,頚性めまいは平衡感覚との関わりが深く,転倒につながることもあるため,有用な評価にて頚性めまいを把握することはリスク管理としても重要である。