第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター1

体幹・肩関節・足関節

2015年6月5日(金) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0204] 体幹筋の左右差と加齢による変化

北村拓也1, 佐藤成登志2 (1.新潟リハビリテーション病院, 2.新潟医療福祉大学理学療法学科)

キーワード:体幹筋, 筋厚, 筋輝度

【はじめに,目的】
腰痛症患者は加齢と共に罹患率が増加すること(長塚,1995)や,体幹筋の筋厚に左右差があることが報告されている(Ploumis,2011)。しかし,症状を有さない健常者であっても,筋の左右差が存在する可能性は十分にあると考えられる。また,加齢によって骨格筋内の脂肪・線維組織量の増加が報告(Lexell,1995)されていることから,筋厚による筋量の検討のみならず,筋輝度による筋質の変化も検討する必要があると考える。
よって,本研究では,健常な若年者と高齢者を対象に,体幹部の筋に左右差があるか明らかにすること,また,加齢による変化を筋厚と筋輝度を用いて検討することとした。
【方法】
対象者は,健常若年者(以下,若年群)15名(平均年齢22.5±1.06歳)と健常高齢者(以下,高齢群)10名(平均年齢65.3±8.46歳)とした。なお,高齢群は日々農作業に従事する者が大半であり,地域のスポーツ活動などにも参加する活動量の高い者であった。筋厚の測定には超音波診断装置(日立アロカメディカル社)を使用し,安静背臥位にて,両側の外腹斜筋(以下,EOA),内腹斜筋(以下,IOA),腹横筋(以下,TrA)を測定し,安静腹臥位にて両側の大腰筋(以下,PM)を測定し,0.1mm単位で筋厚を計測した。腹筋群の計測部位は中腋窩線の臍高位とし,PMは第4腰椎棘突起より10cm外側の位置とした。腹筋群の同定には7.27MHzのリニアプローブを使用し,PMの同定には2.11MHzのコンベックスプローブを使用した。筋輝度の測定はimage Jを使用し,可能な限り筋厚内全てを関心領域とした。若年群と高齢群を比較する際には,左右の筋厚または左右の筋輝度の平均を代表値とした。統計処理にはエクセル第2版を使用し,左右差の検定にはpaired t-test,加齢変化の検定にはwelch t-testを行った。なお,全ての検定の有意水準は5%とした。

【結果】
筋厚に関する若年群と高齢群の比較では,EOA(若年群7.44±1.47mm,高齢群4.62±1.15mm)とIOA(若年群9.85±1.91mm,高齢群7.45±2.79mm)で若年群が有意に高く(EOA:p<0.01,IOA:p<0.05),PM(若年群37.2±7.19mm,高齢群44.9±6.28mm)は高齢群が有意に高かった(p<0.01)。筋輝度に関する若年群と高齢群の比較では,EOA(若年群46.4±8.11,高齢群68.1±13.8)とIOA(若年群34.3±9.94,高齢群50.9±13.8),TrA(若年群19.7±8.54,高齢群29.9±9.6)において高齢群が有意に高かった(EOA:p<0.01,IOA:p<0.01,TrA:p<0.05)。
【考察】
本研究は,腰痛症患者にある体幹筋の左右差が健常者に存在するのか,また加齢による体幹筋の量的および質的変化を明らかにすることを目的とした。
EOAやIOA,TrAは,背部の筋のように骨から骨への走行ではなく,筋膜や筋鞘への付着となっている。このような構造のことから,一側のみが収縮することはなく,両側が収縮することでその役割を果たしていると考えられた。さらに,一側大脳半球からの両側神経支配を受けている(藤原,1999)ことも,左右差を示さなかった要因と考えられた。PMは股関節の屈曲作用が主であるが,腰椎の前弯作用や,骨盤の前傾,姿勢保持としての安定筋としての役割があることから,左右差を示しにくい筋であると考えられた。
加齢によって体幹筋は筋萎縮を呈し,高輝度となることが示されたが,TrAはTypeI線維が豊富である(伊藤,1988)ことや,日常生活上の役割,つまり呼吸活動や姿勢の保持などに関わることから,筋萎縮を呈しにくいことが示唆された。また,一般的にPMは加齢と共に萎縮するとされているが,本研究で対象とした高齢者は,股関節深屈曲位での動作を日常的に経験していた。つまり,股関節90°以上で主に働くPMを多く使用する生活環境であったことから,筋萎縮を示さなかったと推察された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,加齢による体幹筋の変化を非侵襲的に明らかにした。体幹深層筋の重要性は様々な分野で論述されているが,量的要素のみならず質的要素もふまえて検討する必要性があると考えられた。