第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

体幹・肩関節・足関節

Fri. Jun 5, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0207] テロスストレス装置を用いたX線足関節前方引き出しテストにおける性差の検討

横山美翔1, 寒川美奈2, 堤香織2, 田中茉衣3, 遠山晴一2 (1.北海道大学大学院保健科学院, 2.北海道大学大学院保健科学研究院, 3.北海道大学医学部保健学科)

Keywords:性差, X線撮影, 足関節

【はじめに,目的】足関節前方引き出しテストは,足関節不安定性評価によく用いられている方法である。しかしながら徒手による前方引き出しテストに関しては信頼性が低い(Lee,2014)という報告もみられることから,臨床ではテロスストレス装置を用いたX線前方引き出しテストも診断に行われている。前方引き出しストレステストは,ストレスを加えながら距骨前方移動量を定量的に計測する検査である。身体構造における性差は,筋横断面積(加賀谷,1998),筋厚(Kubo, 2003),関節弛緩性(Shultz, 2009)などに関して報告されており,性差が存在することが示唆されている。これまで,ストレス負荷時の距骨傾斜角をX線で計測した研究では,健常男女間で結果に差がみられている(Wilkerson, 2000)が,距骨前方引き出しテストにおける性差に関しては報告がみられていない。これまでの身体構造における性差に関する報告から,前方引き出しテストにおいても性差が生じる可能性がある。したがって本研究の目的は,テロスストレス装置を用いたX線足関節前方引き出しテストにおける距骨前方移動量の性差を検討することとした。
【方法】対象は,足部に整形外科的及び神経学的既往歴のない男性10名(年齢21.9±0.7歳),女性8名(年齢21.3±0.7歳)の両足部とした。足関節不安定性に関しては,「足関節機能的不安定性の主観的評価法(,1991)」日本語版を用いて聴取した。Karlssonの先行研究に基づき,合計が81ポイント以上の場合,足関節機能的不安定性なしと判断した。X線ストレステスト時の測定位肢位は,検側を下にした側臥位で,股関節及び膝関節軽度屈曲位,足関節中間位とした。テロスストレス装置(Telos Stress Device, Griesheim, Germany)を足部に当て,内果と外果を結ぶ線は検査台に対して垂直とした。テロスストレス装置加圧点は脛骨内果から5cm近位とし,加圧なし(0N)時と最大加圧(120N)時のX線写真を撮影した。得られたX線画像より距骨の前方移動量を,脛骨後縁から距骨の最も近い関節面までを測定した。各画像は3回測定し,その平均値を用いて,最大加圧時と加圧なし時の差を算出した。算出した値を対応のないt検定により解析した。有意水準は5%とした。
【結果】足関節不安定性に関する質問紙では,男性(右足99.5点,左足99.5点),女性(右足99.6点,左足99.6点)であり,足関節機能的不安定症の被験者は含まれていないことが示された。X線距骨前方引き出しテスト時の両側における距骨前方移動量は,男性2.5±1.2 cm,女性2.6±1.3 cmであり,差はみられなかった。また,一側下肢毎の検討では,右足で男性2.5±1.2 cm,女性2.9±1.4 cm,左足で男性2.5±1.3cm,女性2.2±1.1cmと,有意差は検出されなかった。
【考察】本研究では,テロスストレス装置を用いたX線足関節前方引き出しテストにおいて,性差は検出されなかった。足関節構造の性差については,距骨の傾斜角が男性と比べて女性で大きい(Wilkerson, 2000)こと,及び足関節上方及び内側のスペースが女性より男性で広い(Murphy, 2014)こと等解剖学的性差の存在は示唆されていたが,本研究ではこれらと異なる結果を示した。足関節に限らず靭帯は,男性と比べて女性でより伸張性がみられる(Shultz, 2009)という報告もある。今回,足関節前方引き出し試験において性差はみられなかったため,臨床で本テスト実施時には性差の影響は小さいことが示唆される結果となった。一方,徒手で行われる足関節前方引き出しテストでは,足関節前距腓靭帯損傷の検査として足関節を内反も加えて行われることがある。しかしながら,テロスストレス装置による足関節前方引き出しテストでは,距骨は構造上前方に牽引されるのみである。したがって,ストレス負荷のかけ方によって靭帯の伸張性に性差が生じる可能性もある。また,足関節不安定性評価については被験者の主観でのみ判断されていることや,質問紙の結果から足関節機能的不安定症の被験者は含まれていなかったが,整形外科医による診断は実施していなかったことも,本研究の限界として挙げられる。
【理学療法学研究としての意義】身体構造の性差については数多くの研究がされているが,靭帯伸張性に統一した見解は得られていない。本研究により,臨床で行われているテロスストレス装置を用いたX線足関節前方引き出しテストにおいては性差がみられなかったため,本試験においては性差による影響が小さい可能性が示唆された。