第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター1

人工股関節1

2015年6月5日(金) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0210] 変形性股関節症に対する人工股関節置換術患者における早期自宅退院時の主観的QOLの評価

~日本整形外科学会股関節疾患評価質問表(JHEQ)による調査~

櫻井進一1, 岩田瞳1, 荻原裕輔1, 依田英樹1, 市川彰2 (1.佐久総合病院佐久医療センター, 2.佐久総合病院)

キーワード:変形性股関節症, 早期退院, 日本整形外科学会股関節疾患評価質問表(JHEQ)

【はじめに,目的】
近年,変形性股関節症(以下OA)に対する人工股関節置換術(以下THA)後における在院日数は短縮化しており,早期自宅復帰のための理学療法が求められている。しかし,PTには早期の自宅退院可否だけでなく,対象者の生活の質(以下QOL)や満足度にまで目を向けた治療を展開することが求められる。理学療法効果や目標を判断する基準として身体機能などの客観的評価指標が用いられる一方で,患者立脚型評価指標が近年注目され,早期退院を迫られる中で心理的不安を抱える患者に対する総合的な評価としても有用と考えられる。股関節においては日本整形外科学会股関節疾患評価質問表(以下JHEQ)による術前後の評価報告を多くみるが,THA施行後の早期退院時の評価を行った報告は乏しい。
そこで,本研究ではJHEQを用いて当院におけるOA患者のTHA術後早期退院時における満足度を評価し,さらにその要因について下位尺度との関連を検討することを目的とした。
【方法】
本調査は電子情診療録を後方視的に調査して行った。対象はOAを罹患し当院関連施設において2013年10月~2014年9月に片側THAを施行後,理学療法を実施し早期自宅退院を果たした28例29関節とした。性別は女性25例,男性3例,平均年齢は64.8歳(49~83歳)であった。除外基準は,術後1週間及び退院時(平均在院日数16.5日)におけるJHEQアンケート回答に不備があるもの,在院期間延長に影響を及ぼす他疾患を発症したものとした。
JHEQは,痛み,動作,メンタルの3領域の下位尺度から構成される自己記入式アンケートで,各下位尺度7問×4点の配点が与えられ,点数が高いほどQOLがよいことを表す。また,単独の指標として股関節の状態不満足度をVAS(0-100点)にて評価し,点数が高いほど不満が強いことを表す。
検討項目は術後1週時及び退院時における1)下位尺度ごとの合計点と総合計点,不満足度の点数,2)下位尺度,不満足度との関係性(Spearmanの順位相関係数),3)下位尺度の各設問ごとの平均値とした。統計解析ソフトは,JMP11を使用し有意水準は5%未満とした。

【結果】
除外基準を考慮し採用されたデータは術後1週時で13例,14関節,退院時で12例12関節であった。
1)各下位尺度の合計点は,術後1週/退院時においてそれぞれ痛み14.8点/15.7点,動作4.9点/9.3点,メンタル13.9点/14.8点,合計点33.6/39.8点,不満足度で32.7点/20.0点であった。
2)各下位尺度と不満足度との関係性は,術後1週,退院時ともに動作のみ股関節不満足度と有意な相関を認め(術後1週:r=-0.665,p<0.01,退院時:r=-0.5923,p<0.05),下位尺度間では術後1週においてのみ疼痛と動作間で有意な相関が認められた(r=0.6082,P<0.05)。
3)下位尺度の詳細として,痛みにおいては術後1週及び退院時でともに,「痛みのために力が入りにくい」の項目で最低点(術後1週1.2点/退院時1.3点)を示し,動作でも術後1週および退院時でともに「和式トイレの使用が困難である」,「足の爪きりが困難である」の項目で最低点(ともに術後1週0.36点/退院時0.64点)を示した。

【考察】
片側THA後に術後約2週間での早期自宅退院が可能であった患者に対してJHEQによる評価を行った。その結果,術後1週と退院時でともに下位尺度において動作が最低値で,また不満足度との関係性が有意に認められた。また,術後1週時において疼痛と動作に有意な関連がみられ,疼痛項目では動作開始時の痛みが特に問題となっていた。臨床においても,術後早期は炎症症状や術創部痛,周囲筋の過緊張による疼痛などにより動作が阻害される場面が多いが,本結果にて主観的な側面からも疼痛と動作能力低下の関係性が確認された。
不満足度に有意に関連のあった動作では,和式トイレの使用や爪切り動作の点数が低値を示した。これらの特徴はTHA術前のOAへの調査からも報告されており,早期退院を図るだけでなくこれら動作能力の改善を図ることが重要であると確認された。しかし,現状では下肢の支持性と股関節に大きな可動域を必要とするこれら動作の改善が,当院の早期退院における明確な課題となり,理学療法の内容だけでなく,術前や退院後の外来理学療法等の体制の在り方を検討する機会となった。
【理学療法学研究としての意義】
近年,OAに対するTHA術後の在院日数は短縮傾向であるが,理学療法の効果判定としては在院日数のみでなく,主観的QOLや患者満足度も重要な側面と思われる。当院におけるTHA術後患者の早期退院における満足度とその要因について検討し課題を明らかにすることで,より質の高い理学療法の提供とQOLの向上に寄与していきたい。