[P1-B-0216] 人工股関節全置換術前後の身体活動量の推移
Keywords:変形性股関節症, 人工股関節全置換術, 身体活動量
【はじめに,目的】
末期変形性股関節症(股OA)患者の身体活動量は,同年代の健常者と比べて低下していることが報告されている。しかし,人工股関節全置換術(THA)の術前後の身体活動量の推移については,まだ統一した見解が得られていない。身体活動量の評価方法には,歩数計や加速度計などの機器を使用したものと,質問紙票を使用したものと大きく分けて2種類ある。質問紙票の中でも国際標準化身体活動質問票(IPAQ)は,加速度計を使用して測定した身体活動量との相関が高く,信頼性,簡便性,費用面でも優れていることが知られている。そこで本研究では,IPAQを用いてTHA術前後での身体活動量の推移を明らかにすることを目的とした。
【方法】
2013年1月~2014年2月までに当クリニックでTHAを受けた患者149名を調査対象とした。男性患者,慢性関節リウマチ,中枢神経障害,心臓疾患を有する症例,骨切り術後,大腿骨頸部骨折術後,再THAの症例は除外した。THAは全て同一医師により後側方アプローチにて施行した。術後2日目より歩行開始し,リハビリテーションは1日2回計2~3時間程度週6日実施した。入院期間は4週間であり,退院後は術後2か月,3か月,6か月時に回復状況の評価とホームエクササイズの指導を行った。
身体活動量の調査はIPAQの日本語版short versionを使用し,術前と術後3か月,術後6か月にて実施した。IPAQは,強い身体活動時間,中等度の身体活動時間,歩行時間,座位・臥位時間の4項目からなる。活動時間においては,それぞれ平均的な1週間で10分間以上続けて行う身体活動の日数と時間を調査した。座位・臥位時間においては,睡眠時間を除く平日での座位や臥位で過ごす1日あたりの時間を調査した。自己記入形式にて得られた回答結果が妥当であるか問診を行い確認した。村瀬らの報告を参考にして,平均的な1週間での各身体活動の合計時間と各活動強度から総身体活動量(Mets.mins)を算出した。また,術前の罹病期間,就労の有無,股関節機能評価(HHS:Harris hip score),股関節痛(VAS:Visual Analog Scale),日本整形外科学会股関節疾患評価質問票(JHEQ)を合わせて調査した。統計学的分析は,各身体活動時間と総身体活動量,VAS,JHEQ合計点の術前後の推移を比較検討するためにFriedman検定と多重比較検定を用いて行った。すべて有意水準は5%とした。
【結果】
対象者のうち除外基準に該当せず欠損データのない股OAの女性患者64名を解析対象とした。平均年齢は60.2±8.4歳,身長は154.3±6.4cm,体重は53.9±7.9kg,HHSは63.6±14.1点,罹病期間は10.0±8.8年であった。
平均的な1週間の各身体活動の合計時間は,強い身体活動は術前が20±88分,術後3か月が17±43分,術後6か月が13±42分であり,中等度の身体活動は術前が92±184分,術後3か月が88±189分,術後6か月が110±191分であり,歩行は術前が264±278分,術後3か月が318±350分,術後6か月が303±298分であり,座位・臥位時間は術前が466±256分,術後3か月が418±242分,術後6か月が414±238分であり,いずれも有意な差はみられなかった。総身体活動量は,術前が1396±1383Mets.mins,術後3か月が1533±1390Mets.mins,術後6か月が1541±1287Mets.minsであり,有意な差はみられなかった。VASは術前が70±25点,術後3か月が15±17点,術後6か月が13±16点であり,術前に比べて術後のほうが有意に低値を示した(p<0.01)。JHEQは術前が28±14点,術後3か月が56±13点,術後6か月が61±14点であり,術前に比べて術後のほうが有意に高値を示した(p<0.01)。就業率は術前が42%,術後3か月が34%,術後6か月が39%であった。
【考察】
本研究の結果より,THA術後患者は疼痛や股関節機能が術前に比べて改善しているにも関わらず,身体活動量においては術前と変化がないことが明らかになった。THA術前の身体活動量は,股関節の疼痛や股関節外転筋力との関連性はなくむしろ就業状況が影響していることが報告されている。本研究においてTHA術前後での就業率にほとんど変化がなく,身体活動量には影響しなかった可能性が考えられる。身体活動量の低下は筋力や運動能力の改善に影響を与えかねない。よって,THA術前後において身体活動量の詳細な評価を実施し,THA術後に身体活動量を改善するために歩行量やホームエクササイズを指導することが必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,THA術前後の身体活動量は変化がないことが明らかになり,THA術後患者において身体活動量の指導が必要であると考えられる。
末期変形性股関節症(股OA)患者の身体活動量は,同年代の健常者と比べて低下していることが報告されている。しかし,人工股関節全置換術(THA)の術前後の身体活動量の推移については,まだ統一した見解が得られていない。身体活動量の評価方法には,歩数計や加速度計などの機器を使用したものと,質問紙票を使用したものと大きく分けて2種類ある。質問紙票の中でも国際標準化身体活動質問票(IPAQ)は,加速度計を使用して測定した身体活動量との相関が高く,信頼性,簡便性,費用面でも優れていることが知られている。そこで本研究では,IPAQを用いてTHA術前後での身体活動量の推移を明らかにすることを目的とした。
【方法】
2013年1月~2014年2月までに当クリニックでTHAを受けた患者149名を調査対象とした。男性患者,慢性関節リウマチ,中枢神経障害,心臓疾患を有する症例,骨切り術後,大腿骨頸部骨折術後,再THAの症例は除外した。THAは全て同一医師により後側方アプローチにて施行した。術後2日目より歩行開始し,リハビリテーションは1日2回計2~3時間程度週6日実施した。入院期間は4週間であり,退院後は術後2か月,3か月,6か月時に回復状況の評価とホームエクササイズの指導を行った。
身体活動量の調査はIPAQの日本語版short versionを使用し,術前と術後3か月,術後6か月にて実施した。IPAQは,強い身体活動時間,中等度の身体活動時間,歩行時間,座位・臥位時間の4項目からなる。活動時間においては,それぞれ平均的な1週間で10分間以上続けて行う身体活動の日数と時間を調査した。座位・臥位時間においては,睡眠時間を除く平日での座位や臥位で過ごす1日あたりの時間を調査した。自己記入形式にて得られた回答結果が妥当であるか問診を行い確認した。村瀬らの報告を参考にして,平均的な1週間での各身体活動の合計時間と各活動強度から総身体活動量(Mets.mins)を算出した。また,術前の罹病期間,就労の有無,股関節機能評価(HHS:Harris hip score),股関節痛(VAS:Visual Analog Scale),日本整形外科学会股関節疾患評価質問票(JHEQ)を合わせて調査した。統計学的分析は,各身体活動時間と総身体活動量,VAS,JHEQ合計点の術前後の推移を比較検討するためにFriedman検定と多重比較検定を用いて行った。すべて有意水準は5%とした。
【結果】
対象者のうち除外基準に該当せず欠損データのない股OAの女性患者64名を解析対象とした。平均年齢は60.2±8.4歳,身長は154.3±6.4cm,体重は53.9±7.9kg,HHSは63.6±14.1点,罹病期間は10.0±8.8年であった。
平均的な1週間の各身体活動の合計時間は,強い身体活動は術前が20±88分,術後3か月が17±43分,術後6か月が13±42分であり,中等度の身体活動は術前が92±184分,術後3か月が88±189分,術後6か月が110±191分であり,歩行は術前が264±278分,術後3か月が318±350分,術後6か月が303±298分であり,座位・臥位時間は術前が466±256分,術後3か月が418±242分,術後6か月が414±238分であり,いずれも有意な差はみられなかった。総身体活動量は,術前が1396±1383Mets.mins,術後3か月が1533±1390Mets.mins,術後6か月が1541±1287Mets.minsであり,有意な差はみられなかった。VASは術前が70±25点,術後3か月が15±17点,術後6か月が13±16点であり,術前に比べて術後のほうが有意に低値を示した(p<0.01)。JHEQは術前が28±14点,術後3か月が56±13点,術後6か月が61±14点であり,術前に比べて術後のほうが有意に高値を示した(p<0.01)。就業率は術前が42%,術後3か月が34%,術後6か月が39%であった。
【考察】
本研究の結果より,THA術後患者は疼痛や股関節機能が術前に比べて改善しているにも関わらず,身体活動量においては術前と変化がないことが明らかになった。THA術前の身体活動量は,股関節の疼痛や股関節外転筋力との関連性はなくむしろ就業状況が影響していることが報告されている。本研究においてTHA術前後での就業率にほとんど変化がなく,身体活動量には影響しなかった可能性が考えられる。身体活動量の低下は筋力や運動能力の改善に影響を与えかねない。よって,THA術前後において身体活動量の詳細な評価を実施し,THA術後に身体活動量を改善するために歩行量やホームエクササイズを指導することが必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,THA術前後の身体活動量は変化がないことが明らかになり,THA術後患者において身体活動量の指導が必要であると考えられる。