[P1-B-0219] 片側人工股関節全置換術後に出現する主観的脚長差の原因を考える
キーワード:人工股関節全置換術, 脚長差, 運動域
【はじめに,目的】
片側人工股関節全置換術(以下THA)後患者において,客観的脚長差が見られないにも関わらず主観的脚長差の訴えを多く経験する。また,先行研究においては,このTHA術後の主観的脚長差の出現により主観的疾病重症度の増加(室伏.2013)やQOLの低下(Wylde.2009,中野渡.2012)との関連が示唆されている。臨床上,術後に主観的脚長差が出現する患者の多くが腰椎の可動性や運動性が制限されている印象を受けるが,先行研究において脚長差の原因として骨盤傾斜との関連についての報告は散見されるものの“動き”にフォーカスを当てた研究は見られない。そこで本研究においては術前の姿勢変化に伴う腰椎の矢状面上での運動域と術後の主観的脚長差との関連性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は2013年12月16日から2014年3月19日の間に当院にて片側THAを施行した患者18名(男性2名,女性16名,平均年齢65.1±11.0歳)とした。また対象の条件としては片側変形性股関節症の診断であること,また術後脚長のX線差(涙痕間線から小転子最頂部までの距離の左右差)が5mm以内であることを統一条件とした。主観的脚長差の計測に関してはblock test(股関節幅,両膝関節伸展位での立位にて患者の主観的な脚長差が消失するまでを5mm間隔で測定)にて術後1週,2週,3週でそれぞれ計測を行った。術前の腰椎運動域に関しては立位,座位での腰椎前弯角(第1腰椎下縁-第1仙骨上縁)の角度差を運動域としてX線画像から計測した。術後脚長のX線差,腰椎前弯角の計測に関してはX線画像計測システム(日立製We view)を使用した。統計学的解析に関しては術前の腰椎運動域と術後1週,2週,3週のblock testの値の相関関係について,pearsonの積率相関係数(p<0.01)を用いて検討した。
【結果】
術前の腰椎運動域と術後1週,2週,3週の相関関係は術後1週ではr=-0.431(p=0.074),術後2週ではr=-0.640(p<0.01),術後3週ではr=-0.690(p<0.01)となり,術前の腰椎運動域と術後2週,3週のblock testにおいて優位な負の相関が見られた。また,術後1週において術前の腰椎運動域との相関は見られなかった。
【考察】
本研究の結果から,術前の腰椎運動域が小さいほど,術後2.3週において主観的脚長差の出現もしくは残存の可能性が高いということが示唆された。術後1週に関しては術後早期ということもあり患者個人間での歩行レベル(歩行器,一本杖)バラつきが大きいことが今回の結果につながったと考えられる。これらのことから術前の腰椎の運動域の影響が術後の主観的脚長差出現の一要因となっていることが考えられ,術後の身体変化を考慮した上で,術前から腰椎の運動に対しても視点を置き,アプローチする必要性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
片側THA後の主観的脚長差出現の一要因として術前の腰椎運動域が影響するという結果は,THAの理学療法において術前介入の必要性の示唆となり,また術後理学療法においても脚長差に対して股関節のみならず多角的視点での介入が重要だと考えられる。
片側人工股関節全置換術(以下THA)後患者において,客観的脚長差が見られないにも関わらず主観的脚長差の訴えを多く経験する。また,先行研究においては,このTHA術後の主観的脚長差の出現により主観的疾病重症度の増加(室伏.2013)やQOLの低下(Wylde.2009,中野渡.2012)との関連が示唆されている。臨床上,術後に主観的脚長差が出現する患者の多くが腰椎の可動性や運動性が制限されている印象を受けるが,先行研究において脚長差の原因として骨盤傾斜との関連についての報告は散見されるものの“動き”にフォーカスを当てた研究は見られない。そこで本研究においては術前の姿勢変化に伴う腰椎の矢状面上での運動域と術後の主観的脚長差との関連性を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は2013年12月16日から2014年3月19日の間に当院にて片側THAを施行した患者18名(男性2名,女性16名,平均年齢65.1±11.0歳)とした。また対象の条件としては片側変形性股関節症の診断であること,また術後脚長のX線差(涙痕間線から小転子最頂部までの距離の左右差)が5mm以内であることを統一条件とした。主観的脚長差の計測に関してはblock test(股関節幅,両膝関節伸展位での立位にて患者の主観的な脚長差が消失するまでを5mm間隔で測定)にて術後1週,2週,3週でそれぞれ計測を行った。術前の腰椎運動域に関しては立位,座位での腰椎前弯角(第1腰椎下縁-第1仙骨上縁)の角度差を運動域としてX線画像から計測した。術後脚長のX線差,腰椎前弯角の計測に関してはX線画像計測システム(日立製We view)を使用した。統計学的解析に関しては術前の腰椎運動域と術後1週,2週,3週のblock testの値の相関関係について,pearsonの積率相関係数(p<0.01)を用いて検討した。
【結果】
術前の腰椎運動域と術後1週,2週,3週の相関関係は術後1週ではr=-0.431(p=0.074),術後2週ではr=-0.640(p<0.01),術後3週ではr=-0.690(p<0.01)となり,術前の腰椎運動域と術後2週,3週のblock testにおいて優位な負の相関が見られた。また,術後1週において術前の腰椎運動域との相関は見られなかった。
【考察】
本研究の結果から,術前の腰椎運動域が小さいほど,術後2.3週において主観的脚長差の出現もしくは残存の可能性が高いということが示唆された。術後1週に関しては術後早期ということもあり患者個人間での歩行レベル(歩行器,一本杖)バラつきが大きいことが今回の結果につながったと考えられる。これらのことから術前の腰椎の運動域の影響が術後の主観的脚長差出現の一要因となっていることが考えられ,術後の身体変化を考慮した上で,術前から腰椎の運動に対しても視点を置き,アプローチする必要性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
片側THA後の主観的脚長差出現の一要因として術前の腰椎運動域が影響するという結果は,THAの理学療法において術前介入の必要性の示唆となり,また術後理学療法においても脚長差に対して股関節のみならず多角的視点での介入が重要だと考えられる。