[P1-B-0222] 人工股関節全置換術おける術前時と退院時の腹横筋厚変化率とレントゲン画像との検討
キーワード:変形性股関節症, 超音波診断装置, 腹横筋
【はじめに,目的】
我々は第49回日本理学療法学術大会において変形性股関節症患者は腹横筋厚変化率が健常人より低下し,その影響は骨盤レントゲン画像から骨盤傾斜角度・骨頭外方化指数・大腿骨頭被覆率が腹横筋厚変化率と関連していると報告した。変形性股関節症患者が人工股関節全置換術(以下THA)を施行され構築学的に正常股関節の位置へ変化すれば腹横筋厚変化率に対しても影響すると考え,今回,術前時と退院時の腹横筋厚変化率と骨盤傾斜角度・股関節形態を検討することを目的とした。
【方法】
対象者は,北海道大学病院に片側変形性股関節症の診断を受け手術目的に入院し,術前・術後理学療法を実施した患者(15名:63.3±9.8歳:THA施行)とした。除外基準は,既往歴に整形外科的疾患がある者,対側股関節・腹部に手術歴がある者,術後に患部の疼痛が強い者,脚長差がある者,正常歩行に必要な関節可動域と筋力を有さず自宅退院が困難な者とした。また,変形性股関節症群の年齢に合わせ身体に整形疾患等の既往歴のない者を健常者群(15名:64.5±3.1歳)とした。測定項目は腹横筋厚,骨盤傾斜角度,患側の骨頭外方化指数,骨頭上方化指数,大腿骨頭被覆率とし,測定実施日は術前理学療法開始1日目と退院前日に実施した。
腹横筋厚の測定肢位は膝を立てた背臥位姿勢とし,超音波診断装置はVenue 40 Musculoskeletal(GEヘルスケア・ジャパン)を使用し,画像表示モードはBモード,8MHzのプローブで撮影を行った。腹横筋の測定部位は,Urquhartらのワイヤー筋電図の測定部位を参考にし,患側中腋窩線上における肋骨辺縁と腸骨稜の中央部で腹横筋,内腹斜筋,外腹斜筋の境界を描出した。測定時の運動課題は,安静呼気終末時の腹横筋厚を安静時腹横筋厚とし,分離収縮においては腹部引き込み運動時の腹横筋厚とした。
また,当院整形外科の処方により入院時に撮影した背臥位における前額面の骨盤レントゲン画像を用い,骨盤傾斜角度,患側の骨頭外方化指数,骨頭上方化指数,大腿骨頭被覆率を測定した。骨盤傾斜角度は両側仙腸関節下縁を結ぶ線に平行な小骨盤腔の最大の横径と,両側仙腸関節下縁を結ぶ線に対して恥骨結合上縁から下ろした垂線の縦径を計測し,それらを男性=-67×縦径/横径+55.7,女性=-69×縦径/横径+61.6に代入し求める土井口らの方法で算出した。骨頭外方化指数は,涙痕像先端から骨頭内側縁までの距離を恥骨結合中心から涙痕像先端までの距離で割り100倍して算出し,骨頭上方化指数は,骨頭最上端から涙痕像先端を結ぶ線への垂線の長さを恥骨結合中心から涙痕像先端までの距離で割り100倍する二ノ宮らの方法でそれぞれ算出した。大腿骨頭被覆率は,大腿骨頭内側端から臼蓋縁外側端までの距離を大腿骨頭横径で割り100倍するHeymanらの方法で算出した。
変形性股関節症群と健常者群の腹横筋厚変化率については一元配置分散分析(多重比較:Tukey法)を用い,また,変形性股関節症患者を術前時と退院時に分け,骨盤傾斜角度,骨頭外方化指数,骨頭上方化指数,大腿骨頭被覆率に対しWilcoxonの順位和検定を用い統計学的処理5%未満を有意水準として実施した。
【結果】
腹横筋厚変化率の比較では,術前時(33.9±21.2%)と健常者群(104.8±60.5%),退院時(43.4±27.4%)と健常者群でともに有意差(p<0.01)が認められ,術前時と退院時で有意差は認められなかった。
レントゲン画像の比較では,骨盤傾斜角の術前時(17.7±9.9)と退院時(18.6±5.3)で有意差は認められなかった。患側の骨頭外方化指数の術前時(26.9±14.6)と退院時(20.3±8.0),骨頭上方化指数の術前時(82.3±20.6)と退院時(64.3±16.8),大腿骨頭被覆率の術前時(69.0±13.4)と退院時(106.4±6.7)でそれぞれ有意差(p<0.05)が認められた。
【考察】
THA施行により骨盤傾斜角以外で股関節機能の改善を認め,当院入院期間(25.9±4.8日)において術前と退院時の腹横筋厚変化率は健常者と比較し低値を示した。この結果は,歩行は獲得したが腹横筋は活動低下を示し,先行研究ではTHA施行後2年が経過しても腸腰筋の筋萎縮は残存すると報告されている。本研究期間で腹横筋の直接的な治療介入は未実施であり,今後,腹横筋の長期観察と治療介入の有無を検討する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
THA施行により機能改善は認めるが腹横筋の短期介入では不十分であり,変形性股関節症患者の術前・術後の治療に対し効果的な理学療法を提供する際の一助となると考える。
我々は第49回日本理学療法学術大会において変形性股関節症患者は腹横筋厚変化率が健常人より低下し,その影響は骨盤レントゲン画像から骨盤傾斜角度・骨頭外方化指数・大腿骨頭被覆率が腹横筋厚変化率と関連していると報告した。変形性股関節症患者が人工股関節全置換術(以下THA)を施行され構築学的に正常股関節の位置へ変化すれば腹横筋厚変化率に対しても影響すると考え,今回,術前時と退院時の腹横筋厚変化率と骨盤傾斜角度・股関節形態を検討することを目的とした。
【方法】
対象者は,北海道大学病院に片側変形性股関節症の診断を受け手術目的に入院し,術前・術後理学療法を実施した患者(15名:63.3±9.8歳:THA施行)とした。除外基準は,既往歴に整形外科的疾患がある者,対側股関節・腹部に手術歴がある者,術後に患部の疼痛が強い者,脚長差がある者,正常歩行に必要な関節可動域と筋力を有さず自宅退院が困難な者とした。また,変形性股関節症群の年齢に合わせ身体に整形疾患等の既往歴のない者を健常者群(15名:64.5±3.1歳)とした。測定項目は腹横筋厚,骨盤傾斜角度,患側の骨頭外方化指数,骨頭上方化指数,大腿骨頭被覆率とし,測定実施日は術前理学療法開始1日目と退院前日に実施した。
腹横筋厚の測定肢位は膝を立てた背臥位姿勢とし,超音波診断装置はVenue 40 Musculoskeletal(GEヘルスケア・ジャパン)を使用し,画像表示モードはBモード,8MHzのプローブで撮影を行った。腹横筋の測定部位は,Urquhartらのワイヤー筋電図の測定部位を参考にし,患側中腋窩線上における肋骨辺縁と腸骨稜の中央部で腹横筋,内腹斜筋,外腹斜筋の境界を描出した。測定時の運動課題は,安静呼気終末時の腹横筋厚を安静時腹横筋厚とし,分離収縮においては腹部引き込み運動時の腹横筋厚とした。
また,当院整形外科の処方により入院時に撮影した背臥位における前額面の骨盤レントゲン画像を用い,骨盤傾斜角度,患側の骨頭外方化指数,骨頭上方化指数,大腿骨頭被覆率を測定した。骨盤傾斜角度は両側仙腸関節下縁を結ぶ線に平行な小骨盤腔の最大の横径と,両側仙腸関節下縁を結ぶ線に対して恥骨結合上縁から下ろした垂線の縦径を計測し,それらを男性=-67×縦径/横径+55.7,女性=-69×縦径/横径+61.6に代入し求める土井口らの方法で算出した。骨頭外方化指数は,涙痕像先端から骨頭内側縁までの距離を恥骨結合中心から涙痕像先端までの距離で割り100倍して算出し,骨頭上方化指数は,骨頭最上端から涙痕像先端を結ぶ線への垂線の長さを恥骨結合中心から涙痕像先端までの距離で割り100倍する二ノ宮らの方法でそれぞれ算出した。大腿骨頭被覆率は,大腿骨頭内側端から臼蓋縁外側端までの距離を大腿骨頭横径で割り100倍するHeymanらの方法で算出した。
変形性股関節症群と健常者群の腹横筋厚変化率については一元配置分散分析(多重比較:Tukey法)を用い,また,変形性股関節症患者を術前時と退院時に分け,骨盤傾斜角度,骨頭外方化指数,骨頭上方化指数,大腿骨頭被覆率に対しWilcoxonの順位和検定を用い統計学的処理5%未満を有意水準として実施した。
【結果】
腹横筋厚変化率の比較では,術前時(33.9±21.2%)と健常者群(104.8±60.5%),退院時(43.4±27.4%)と健常者群でともに有意差(p<0.01)が認められ,術前時と退院時で有意差は認められなかった。
レントゲン画像の比較では,骨盤傾斜角の術前時(17.7±9.9)と退院時(18.6±5.3)で有意差は認められなかった。患側の骨頭外方化指数の術前時(26.9±14.6)と退院時(20.3±8.0),骨頭上方化指数の術前時(82.3±20.6)と退院時(64.3±16.8),大腿骨頭被覆率の術前時(69.0±13.4)と退院時(106.4±6.7)でそれぞれ有意差(p<0.05)が認められた。
【考察】
THA施行により骨盤傾斜角以外で股関節機能の改善を認め,当院入院期間(25.9±4.8日)において術前と退院時の腹横筋厚変化率は健常者と比較し低値を示した。この結果は,歩行は獲得したが腹横筋は活動低下を示し,先行研究ではTHA施行後2年が経過しても腸腰筋の筋萎縮は残存すると報告されている。本研究期間で腹横筋の直接的な治療介入は未実施であり,今後,腹横筋の長期観察と治療介入の有無を検討する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
THA施行により機能改善は認めるが腹横筋の短期介入では不十分であり,変形性股関節症患者の術前・術後の治療に対し効果的な理学療法を提供する際の一助となると考える。