[P1-B-0225] 変形性股関節症における脊椎アライメントと足圧中心の関係
キーワード:変形性股関節症, 脊椎アライメント, 足圧中心
【目的】
変形性股関節症(以下股OA)においては,股関節と骨盤・腰椎がそれぞれの病態に影響を与えていることが注目され,Hip-Spine syndromeという病態概念として多くの研究がなされている。先行研究では,そのほとんどが静的肢位での評価で,腰椎・骨盤・股関節に着目したものであり,脊椎アライメントの分析,立位時の足圧中心(以下COP)との関係を検討したものは散見される程度である。股OAにより股関節が機能不全を起こし,代償的に骨盤・腰椎が働き骨盤が前後傾することで,重心位置が変化し足圧中心にその影響が及ぼすことは十分に考えられる。股OAにおける,脊椎アライメントと足圧中心の関係性を明らかにすることは,立位姿勢制御のパターン解明に寄与するものと考える。また,その関連性から立位・バランス練習などの理学療法介入における一助になると思われる。そこで本研究の目的は,股OAにおける,脊椎アライメントの分析および足圧中心との関係を明らかにすることである。
【方法】
対象は人工股関節全置換術前の変形性股関節症患者46名,全例女性,平均年齢67.1±10.8歳(以下OA群)と健常成人女性31名,平均年齢68.1±5.8歳(以下健常群)である。OA群では,片側のみのOAで初回人工関節全置換術前の方とし,安静立位肢位で足底面が全面接地できないものは除外した。測定項目は安静立位肢位での脊椎アライメント(胸椎弯曲角・腰椎弯曲角・仙骨傾斜角)とCOPとした。測定機器は脊椎アライメントにはスパイナルマウス(Index社製),COPには重心動揺計(アニマ社製G-7100)を用いた。測定手順として,対象者は重心動揺計上で立位をとり,前方にある目印を見るよう指示し,30秒間の安静立位にてCOPの計測を行った。その後,スパイナルマウスを用いて,第7頸椎から第3仙椎の傍脊柱筋上で脊椎アライメントを計測した。各計測は2回行いその平均値を採用した。脊椎アライメントでは胸椎と腰椎は,上下の棘突起間を結んだ線に対する垂線がなす角度を矢状面弯曲として抽出,角度表示は後弯角がプラス,前弯角がマイナス表示とした。仙骨傾斜角は鉛直線に対し作る角度とし,前傾をプラス表示とした。COPは30秒間の平均値を採用し,足長の相対比として踵からの%表示とした。統計学的分析にはpearsonの相関係数および対応のあるt検定を用いて有意水準は危険率5%とした。
【結果】
立位でのCOPは,OA群41.4±6.2%,健常群48.6±5.7%で有意差を認めた。脊椎アライメントはOA群で胸椎弯曲角は39.8±12.5°,腰椎弯曲角は-20.7±17.5°,仙骨傾斜角は17.9±10°,健常群で,胸椎弯曲角は46.5±16.0°,腰椎弯曲角は-23.5±11.4°,仙骨傾斜角は14.0±7.7°であり,胸椎弯曲角のみ両群間に有意差を認めた。健常群での脊椎アライメントでは胸椎弯曲角と腰椎弯曲角(r=-0.41)に腰椎弯曲角と仙骨傾斜角(r=-0.74)との間に負の相関関係が認められ,OA群でも胸椎弯曲角と腰椎弯曲角(r=-0.56)に腰椎弯曲角と仙骨傾斜角(r=-0.74)との間に負の相関関係が認められた。COPと仙骨傾斜角との間には両群ともに相関関係は認められなかった。
【考察】
OA群において立位でCOPが有意に後方に認めたのは,骨盤との位置関係が考えられる。先行研究より股OAにはその多くに股関節屈曲拘縮が認められ,屈曲拘縮が大きい群で腰椎前弯が大きく,骨盤後傾が小さいという報告からも,本研究でもOA群では仙骨傾斜角は前傾傾向であり,骨盤が前傾していることによりCOPが後方へ移動したと考えた。しかし,COPと仙骨傾斜角との間に関係性は認められなかったことから,その要素だけでなく,体幹機能なども影響しているものと思われた。また,OA群で胸椎弯曲角が有意に伸展位方向にあったのは,COPの後方化と屈曲拘縮とが関係しているものと考える。結果,腰椎が前弯して体幹を屈曲させその補償として胸椎を伸展させているものと考えられた。今回の研究では,矢状面上でのみで検討であり,骨盤・股関節の回旋や骨盤傾斜の影響も関与している可能性も考えられる。本研究においては,股OAの立位時のCOPは後方に移動しており,その補償として胸椎伸展が影響を及ぼす可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
股OAにおける臨床介入において,その身体特性や立位制御機能を理解しておくこと,また人工関節全置換術を施行する際にも,術前機能を把握しておくことは重要である。本研究において,股OAにおける脊椎アライメント,COPとの関係性を一部ではあるが示せたことは,理学療法介入の一助となりその臨床的意義は大きいと考える。
変形性股関節症(以下股OA)においては,股関節と骨盤・腰椎がそれぞれの病態に影響を与えていることが注目され,Hip-Spine syndromeという病態概念として多くの研究がなされている。先行研究では,そのほとんどが静的肢位での評価で,腰椎・骨盤・股関節に着目したものであり,脊椎アライメントの分析,立位時の足圧中心(以下COP)との関係を検討したものは散見される程度である。股OAにより股関節が機能不全を起こし,代償的に骨盤・腰椎が働き骨盤が前後傾することで,重心位置が変化し足圧中心にその影響が及ぼすことは十分に考えられる。股OAにおける,脊椎アライメントと足圧中心の関係性を明らかにすることは,立位姿勢制御のパターン解明に寄与するものと考える。また,その関連性から立位・バランス練習などの理学療法介入における一助になると思われる。そこで本研究の目的は,股OAにおける,脊椎アライメントの分析および足圧中心との関係を明らかにすることである。
【方法】
対象は人工股関節全置換術前の変形性股関節症患者46名,全例女性,平均年齢67.1±10.8歳(以下OA群)と健常成人女性31名,平均年齢68.1±5.8歳(以下健常群)である。OA群では,片側のみのOAで初回人工関節全置換術前の方とし,安静立位肢位で足底面が全面接地できないものは除外した。測定項目は安静立位肢位での脊椎アライメント(胸椎弯曲角・腰椎弯曲角・仙骨傾斜角)とCOPとした。測定機器は脊椎アライメントにはスパイナルマウス(Index社製),COPには重心動揺計(アニマ社製G-7100)を用いた。測定手順として,対象者は重心動揺計上で立位をとり,前方にある目印を見るよう指示し,30秒間の安静立位にてCOPの計測を行った。その後,スパイナルマウスを用いて,第7頸椎から第3仙椎の傍脊柱筋上で脊椎アライメントを計測した。各計測は2回行いその平均値を採用した。脊椎アライメントでは胸椎と腰椎は,上下の棘突起間を結んだ線に対する垂線がなす角度を矢状面弯曲として抽出,角度表示は後弯角がプラス,前弯角がマイナス表示とした。仙骨傾斜角は鉛直線に対し作る角度とし,前傾をプラス表示とした。COPは30秒間の平均値を採用し,足長の相対比として踵からの%表示とした。統計学的分析にはpearsonの相関係数および対応のあるt検定を用いて有意水準は危険率5%とした。
【結果】
立位でのCOPは,OA群41.4±6.2%,健常群48.6±5.7%で有意差を認めた。脊椎アライメントはOA群で胸椎弯曲角は39.8±12.5°,腰椎弯曲角は-20.7±17.5°,仙骨傾斜角は17.9±10°,健常群で,胸椎弯曲角は46.5±16.0°,腰椎弯曲角は-23.5±11.4°,仙骨傾斜角は14.0±7.7°であり,胸椎弯曲角のみ両群間に有意差を認めた。健常群での脊椎アライメントでは胸椎弯曲角と腰椎弯曲角(r=-0.41)に腰椎弯曲角と仙骨傾斜角(r=-0.74)との間に負の相関関係が認められ,OA群でも胸椎弯曲角と腰椎弯曲角(r=-0.56)に腰椎弯曲角と仙骨傾斜角(r=-0.74)との間に負の相関関係が認められた。COPと仙骨傾斜角との間には両群ともに相関関係は認められなかった。
【考察】
OA群において立位でCOPが有意に後方に認めたのは,骨盤との位置関係が考えられる。先行研究より股OAにはその多くに股関節屈曲拘縮が認められ,屈曲拘縮が大きい群で腰椎前弯が大きく,骨盤後傾が小さいという報告からも,本研究でもOA群では仙骨傾斜角は前傾傾向であり,骨盤が前傾していることによりCOPが後方へ移動したと考えた。しかし,COPと仙骨傾斜角との間に関係性は認められなかったことから,その要素だけでなく,体幹機能なども影響しているものと思われた。また,OA群で胸椎弯曲角が有意に伸展位方向にあったのは,COPの後方化と屈曲拘縮とが関係しているものと考える。結果,腰椎が前弯して体幹を屈曲させその補償として胸椎を伸展させているものと考えられた。今回の研究では,矢状面上でのみで検討であり,骨盤・股関節の回旋や骨盤傾斜の影響も関与している可能性も考えられる。本研究においては,股OAの立位時のCOPは後方に移動しており,その補償として胸椎伸展が影響を及ぼす可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
股OAにおける臨床介入において,その身体特性や立位制御機能を理解しておくこと,また人工関節全置換術を施行する際にも,術前機能を把握しておくことは重要である。本研究において,股OAにおける脊椎アライメント,COPとの関係性を一部ではあるが示せたことは,理学療法介入の一助となりその臨床的意義は大きいと考える。