第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター1

脳損傷理学療法1

2015年6月5日(金) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0228] 脳卒中患者におけるロボットスーツHAL(Hybrid Assistive Limb)と他療法併用の効果

西本加奈1, 平岩幸代1, 本多歩美1, 武藤晶子1, 菊地結貴1, 溝口真一1, 森健次郎1, 大村享子1, 織田友子1, 原田直樹1, 大木田治夫1, 瀬戸牧子1, 佐藤秀代1, 佐藤聡1, 川平和美2 (1.社会医療法人春回会長崎北病院, 2.鹿児島大学大学院医歯薬学総合研究科)

キーワード:ロボットスーツHAL, WalkAide, 歩行

【はじめに】
ロボットスーツHAL(Hybrid Assistive Limb®)は,生体電位等で随意コントロールを行うという,日本の内閣府が特許を取得した動作原理をもとに開発された装着型ロボットである。現在までに,脳血管障害や脊髄損傷の患者における歩行機能改善効果が示され,ドイツにおいては労災保険適応として認められた医療的治療手段の一つである。現在,日本においても希少性神経・筋難病疾患の進行抑制治療効果を得るための新たな医療機器である,下肢装着型補助ロボット(HAL-HN01)を用いた医師主導治験がなされており,一日も早い医療機器認定・保険適応が期待される。

現状のHAL福祉用(以下,HAL)においては,股関節と膝関節の屈筋や伸筋から得られた生体電位によってアシストを行うことから,足関節の背屈や股関節の内外転,骨盤の挙上や下制,重心移動などにおいて,何らかの人的・物的援助を必要とする症例も散見される。

そこで今回,HALに他の療法の併用することで,効果をより増大させることができるかについて検討するとともに,その効果について歩行速度や歩容の評価に加え,足圧中心点の推移や脳血管障害患者にとっては得られにくいと言われる股関節屈筋群の生体電位出現頻度から,質的に分析し考察を加えたので報告する。
【方法】
対象は,脳血管障害患者10名とした。対象の年齢は,58.6±10.6歳(平均±標準偏差),罹病期間181.4±216.4日,下肢Brunnstrom stage:III~Vであった。HALとの併用療法として振動刺激や後方制動付き短下肢装具(以下,AFO),WalkAide®(以下,WA)を用いた。HAL単独,HALと他療法併用,HAL単独の条件下で10mを最大の速度で歩行するように指示し,各条件間には5分の休憩を入れた。評価は,10m歩行速度や歩数・歩容の変化,加えて足圧中心点の軌跡をHALモニターより抽出し,Dartfishを用いて追跡記録した。また効果を認めた症例に対し,ステップ動作を10回行った際の股関節屈筋群生体電位の出現回数を,HALのみ,AFO併用,WA併用の3条件についてHALモニターより分析した。統計処理は二元配置分散分析法を用い,有意水準5%未満とした。
【結果】
HALと他療法併用はHALのみと比較すると,全ての併用療法が有意に10m歩行速度を早め,歩数を減少させた。振動刺激併用では,WA併用と同様の変化を認め,これらはAFO併用時よりも大きかった。麻痺側荷重時の足圧中心点はHAL単独では足底後方,AFOでは足底中心,WAではより前方にて推移し,さらに歩行周期を通じて,WAでは麻痺・非麻痺側対称の推移を認めた。ステップ動作を10回行った際の股関節屈筋群生体電位の出現頻度は,HAL単独,AFO併用において,股関節屈曲の生体電位は0回,3回であったのに対し,WAでは10回と最も高頻度に出現していた。
【考察】
今回HALに他療法を併用したことによる,歩行機能改善効果のメカニズムは,振動刺激が臀筋等の筋腹への刺激により運動路の興奮性を高め,AFOとWAが足関節背屈機能を保証した。加えてHAL単独では読み取ることができない症例の生体電位もWA併用時では,股関節屈筋群の生体電位を効果的に引き出し,遊脚期における安定した股関節屈曲アシストを得られていたとも推測される。さらに足圧中心点の軌跡においてWA併用が,AFO併用やHAL単独よりも左右対称であり,足圧中心点をより前方へも位置させていることから,麻痺側足関節底屈制限を効果的に働かせ,重心の移動を容易にさせたと推測され,これらのことがHALの機能を補填・向上させ,症例の歩行能力を高めたと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
HALに加えて,振動刺激やAFO,WAなどを併用することにより,脳血管障害患者における歩行機能改善効果は増大し,より効果的な治療となる可能性が示唆された。しかし本研究は短期効果のみの比較であることから,今後はさらにこれらの長期効果検証についても追試し,明らかにすることが期待される。