[P1-B-0236] 維持期脳卒中片麻痺者における杖操作の促進が歩行パフォーマンスに及ぼす影響
キーワード:維持期, 脳卒中, 杖歩行
【はじめに,目的】
これまでに脳卒中片麻痺者における歩行障害の改善を図る歩行練習の効果が検証され,トレッドミル歩行練習やフィードバックを用いた歩行練習に有用な効果があるとされている。一方,特別な機器や場所を用いずに簡便に実施可能で効果的な歩行練習として,最大速度での歩行練習や歩調の合図に合わせた歩行練習があり,その効果が報告されている。近年,脳卒中者に対してできるだけ歩行速度を高めて歩行するように教示する簡便な歩行練習の効果が無作為化比較対象試験にて検証され,平均42日の介入にて歩行速度の有意な改善が認められている。また,回復期脳卒中者においても「できるだけ速く杖を直線進行方向につく」ように教示する簡便な歩行練習によって臨床的に歩行速度の改善が得られる可能性が報告されている。しかし,一般的に障害の改善が得られにくいとされる維持期脳卒中者において,杖操作を促進することが歩行パフォーマンスにどのような影響を及ぼすかについては具体的に検証されていない。本研究では,維持期脳卒中片麻痺者において,杖操作を促進する教示が歩行パフォーマンスに及ぼす影響について検証することを目的とした。
【方法】
対象は,脳卒中発症から1年以上経過し,通所リハビリテーションを利用する維持期脳卒中片麻痺者15人(平均年齢68.6±8.6歳,脳卒中発症からの平均期間109.4±75.1か月)であった。対象者は,加速路1m,測定区間5m,減速路1m,合計7mの直線歩行路のT字杖歩行を,杖操作促進課題の有無による2つの課題条件,通常速度と最大速度の2つの速度条件,合計4条件にて,各条件とも2回ずつ実施した。杖操作促進課題の歩行は,「杖の先端をできるだけ速く直線進行方向へ出して歩いてください」と教示した。通常速度条件では「いつも日常で歩いている普通の速さ」,最大速度条件では「できるだけ速い速さ」で歩くよう教示し,通常速度条件の後に最大速度条件の歩行を実施した。各条件での5m測定区間歩行中に,歩行時間および歩数を計測するとともに,ポータブル歩行分析システムG-WALKを用いて麻痺側または非麻痺側下肢の平均1歩行周期時間を測定した。統計学的解析は,まず,各条件における測定項目の再現性を検討するために,級内相関係数ICCを算出した。また,各速度条件における杖操作促進課題の有無による測定項目の差異について対応のあるt検定を用いて比較した。統計学的有意水準は5%未満をもって有意とした。
【結果】
各条件における5m歩行時間,5m歩数,麻痺側および非麻痺側の平均1歩行周期の2回測定した値のICCを算出した結果,ICC(1,1)=0.978~0.984,ICC(1,2)=0.997~0.998といずれも高い値を示した。通常速度条件では,杖操作促進課題あり条件ではなし条件に比べて,5m歩行時間が有意に低い値を示したが,その他の指標に有意な変化は認められなかった。一方,最大速度条件では,杖操作促進課題あり条件ではなし条件に比べて,5m歩行時間,麻痺側および非麻痺側の平均1歩行周期時間が有意に低い値を示した。いずれの速度条件においても,杖操作促進課題の有無によって歩数に有意差は認められなかった。
【考察】
本研究における対象者では,各条件における各測定項目のICC(1,1)およびICC(1,2)はともに臨床的に有用とされる高い再現性を示した。杖操作促進課題を付加することによって,5m歩数が有意に変わることなく,5m歩行時間が短縮して歩行速度が高まったことから,杖操作促進課題の教示が身体外部への外的焦点に基づく速い杖操作リズムを形成し,そのリズムに付随して後続する下肢の踏み出しが促進され,相対的に歩行速度が増加したと考えられた。とくに最大速度条件では,5m歩数が有意に変わらず,5m歩行時間の短縮とともに,麻痺側および非麻痺側の平均1歩行周期時間の短縮が認められたことから,最大速度条件による努力下における杖操作促進課題が左右歩行周期開始のトリガーとなり,杖に続く麻痺側および非麻痺側下肢のステップのパターンを変えることなく,1歩行周期所要時間が短くなることで歩行速度が向上したと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
維持期脳卒中片麻痺者において杖操作を促進する歩行が,歩行パターンを著しく変えることなく歩行速度を高めることが明らかとなり,この教示手段を応用した歩行練習を実施することによって,維持期脳卒中片麻痺者においても特別な機器を用いずに安全・簡便で効率的・効果的に歩行速度を高めることができる可能性を示唆した。
これまでに脳卒中片麻痺者における歩行障害の改善を図る歩行練習の効果が検証され,トレッドミル歩行練習やフィードバックを用いた歩行練習に有用な効果があるとされている。一方,特別な機器や場所を用いずに簡便に実施可能で効果的な歩行練習として,最大速度での歩行練習や歩調の合図に合わせた歩行練習があり,その効果が報告されている。近年,脳卒中者に対してできるだけ歩行速度を高めて歩行するように教示する簡便な歩行練習の効果が無作為化比較対象試験にて検証され,平均42日の介入にて歩行速度の有意な改善が認められている。また,回復期脳卒中者においても「できるだけ速く杖を直線進行方向につく」ように教示する簡便な歩行練習によって臨床的に歩行速度の改善が得られる可能性が報告されている。しかし,一般的に障害の改善が得られにくいとされる維持期脳卒中者において,杖操作を促進することが歩行パフォーマンスにどのような影響を及ぼすかについては具体的に検証されていない。本研究では,維持期脳卒中片麻痺者において,杖操作を促進する教示が歩行パフォーマンスに及ぼす影響について検証することを目的とした。
【方法】
対象は,脳卒中発症から1年以上経過し,通所リハビリテーションを利用する維持期脳卒中片麻痺者15人(平均年齢68.6±8.6歳,脳卒中発症からの平均期間109.4±75.1か月)であった。対象者は,加速路1m,測定区間5m,減速路1m,合計7mの直線歩行路のT字杖歩行を,杖操作促進課題の有無による2つの課題条件,通常速度と最大速度の2つの速度条件,合計4条件にて,各条件とも2回ずつ実施した。杖操作促進課題の歩行は,「杖の先端をできるだけ速く直線進行方向へ出して歩いてください」と教示した。通常速度条件では「いつも日常で歩いている普通の速さ」,最大速度条件では「できるだけ速い速さ」で歩くよう教示し,通常速度条件の後に最大速度条件の歩行を実施した。各条件での5m測定区間歩行中に,歩行時間および歩数を計測するとともに,ポータブル歩行分析システムG-WALKを用いて麻痺側または非麻痺側下肢の平均1歩行周期時間を測定した。統計学的解析は,まず,各条件における測定項目の再現性を検討するために,級内相関係数ICCを算出した。また,各速度条件における杖操作促進課題の有無による測定項目の差異について対応のあるt検定を用いて比較した。統計学的有意水準は5%未満をもって有意とした。
【結果】
各条件における5m歩行時間,5m歩数,麻痺側および非麻痺側の平均1歩行周期の2回測定した値のICCを算出した結果,ICC(1,1)=0.978~0.984,ICC(1,2)=0.997~0.998といずれも高い値を示した。通常速度条件では,杖操作促進課題あり条件ではなし条件に比べて,5m歩行時間が有意に低い値を示したが,その他の指標に有意な変化は認められなかった。一方,最大速度条件では,杖操作促進課題あり条件ではなし条件に比べて,5m歩行時間,麻痺側および非麻痺側の平均1歩行周期時間が有意に低い値を示した。いずれの速度条件においても,杖操作促進課題の有無によって歩数に有意差は認められなかった。
【考察】
本研究における対象者では,各条件における各測定項目のICC(1,1)およびICC(1,2)はともに臨床的に有用とされる高い再現性を示した。杖操作促進課題を付加することによって,5m歩数が有意に変わることなく,5m歩行時間が短縮して歩行速度が高まったことから,杖操作促進課題の教示が身体外部への外的焦点に基づく速い杖操作リズムを形成し,そのリズムに付随して後続する下肢の踏み出しが促進され,相対的に歩行速度が増加したと考えられた。とくに最大速度条件では,5m歩数が有意に変わらず,5m歩行時間の短縮とともに,麻痺側および非麻痺側の平均1歩行周期時間の短縮が認められたことから,最大速度条件による努力下における杖操作促進課題が左右歩行周期開始のトリガーとなり,杖に続く麻痺側および非麻痺側下肢のステップのパターンを変えることなく,1歩行周期所要時間が短くなることで歩行速度が向上したと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
維持期脳卒中片麻痺者において杖操作を促進する歩行が,歩行パターンを著しく変えることなく歩行速度を高めることが明らかとなり,この教示手段を応用した歩行練習を実施することによって,維持期脳卒中片麻痺者においても特別な機器を用いずに安全・簡便で効率的・効果的に歩行速度を高めることができる可能性を示唆した。