第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

脳損傷理学療法3

Fri. Jun 5, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0245] 歩行分析を活かしたボツリヌス療法施行箇所の検討により,歩容改善が図れた生活期脳卒中片麻痺患者の一症例

打越一幸1, 北村俊英1, 高路陽人1, 有吉智一1, 寺本洋一2 (1.医療法人仁寿会石川病院リハビリテーション部, 2.医療法人仁寿会石川病院診療部リハビリテーション科)

Keywords:ボツリヌス療法, 評価, カンファレンス

【はじめに,目的】
上下肢痙縮に対するボツリヌス療法(以下BTX)は保険適応された2010年10月以降,理学療法との併用により,脳卒中片麻痺患者の歩容改善に関する報告は多くされている。その中で,介助歩行での歩容の変化を用いてBTX施行箇所を検討した報告は少ない。今回,歩行時に上肢屈筋共同運動パターンを呈し,肩関節伸展運動が過剰にみられた生活期脳卒中片麻痺患者一症例に対し,理学療法と三角筋後部線維(以下PD)へのBTX施行により,歩容改善を図れたため報告する。
【方法】
1.症例紹介
50代男性。2012年3月に右被殻出血左片麻痺にて5ヶ月間入院でのリハビリテーション後,外来へ移行された。退院時の歩行はT-caneと金属支柱付短下肢装具にて屋内自立レベルであった。しかし,麻痺側上肢は屈筋共同運動パターンを呈し屋外歩行は実用性に欠けていた。歩行時の筋緊張亢進が歩行能力低下の一因であったことから,2012年11月よりBTXを麻痺側上下肢へ2回施行されたが,歩容改善には十分な変化を図れなかった。2013年6月の3回目BTXでの上肢施行筋は,これまでの前腕筋群,上腕二頭筋に加え,更なる歩容改善を図るべく,上肢屈筋共同運動パターンによる過剰な肩関節伸展運動の抑制目的に,PDへも施行された。
2.PDへのBTX前評価(2013年6月)
Brunnstrom Recovery Stageは上肢III,手指III,下肢IV。歩容はPre Swing(以下PSw)より上肢屈筋共同運動パターンを呈し,分廻し歩行となっていた。続くInitial Contact(以下IC)では股関節外旋位での接地となり,麻痺側骨盤は過剰に後方回旋していたため,Loading Response(以下LR)にスナッピング膝と体前傾位となる跛行であった。歩行練習にて,過剰な肩関節伸展運動を徒手的に抑制しながら介助歩行すると,下肢・体幹への徒手的介助なくとも歩容改善したことから,カンファレンスにてPDへのBTX施行を提案・検討した。
【結果】
PDへのBTX後評価(2013年7月):麻痺側PSwに上肢屈筋共同運動パターンにより,著明であった過剰な肩関節伸展運動は中等度に軽減した。それにより,分廻し歩行も中等度に軽減し,ICは股関節中間位近くで接地できるようになった。麻痺側骨盤の後方回旋も軽減したことに伴い,LRでのスナッピング膝と体前傾位も軽減する歩容改善を認めた。
【考察】
Perryは上肢・頭頸部・体幹・骨盤で構成されるパッセンジャーユニット(以下PU)のアライメントは,下肢・骨盤で構成されるロコモーターユニット(以下LU)の筋活動に影響を与えると述べている。これにより,麻痺側PSwにみられた上肢屈筋共同運動パターンを抑制できれば歩容改善が図れると考え,麻痺側上肢・肩甲帯へ徒手的介助しながら歩行練習した。まず,上肢屈筋共同運動パターンにより,挙上・内転位となっていた肩甲骨に対して,下制・外転位方向へ徒手的に誘導しながら介助歩行した。しかし,肩関節伸展運動のみ強く残存し,上肢は後方へ位置したままであり,麻痺側立脚期の前方推進力は不十分となったことから,LRでの跛行は残存していたと考える。肩関節を中間位方向へ誘導しながら介助歩行すると,肩関節伸展運動の軽減に連鎖して,麻痺側肩甲骨の挙上・内転運動と麻痺側骨盤の後方回旋も軽減した。前方へ重心移動し易くなったことで,続くLRでは下腿前傾運動が出現し,スナッピング膝と体前傾位も軽減する歩容改善を認めた。PSwにて過剰であった肩関節伸展運動が修正されたPUのアライメントは,運動連鎖によりLUのアライメントを修正する影響を与えたことで,PDへのBTX施行により歩容改善が図れるのではないかと考え,カンファレンスにてその旨を提案し検討され,施行された。PDへのBTX施行後においても,過剰な肩関節伸展運動が抑制されたことから,遊脚期におけるPUのアライメントが修正されたことに連鎖して,LUのアライメントも修正され,続く立脚期においてもPUとLUのアライメントが修正される歩容改善が図れたと考える。
【理学療法学研究としての意義】
本症例では,BTX施行箇所について医師と検討することが歩容改善に有効であることが示唆された。理学療法における評価は健康状態,心身機能・身体構造,活動,参加の因果関係を明確にする意義を持つ。このような評価を医師等の他職種へ発信することが理学療法士としての社会的役割の一つとして非常に重要であると考える。