第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

脳損傷理学療法3

Fri. Jun 5, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0248] 脳卒中片麻痺患者の端座位における一側下肢挙上時の重心移動パターンの解析について

―シングルケースデザインにおける検討―

堀内秀太朗1, 柏裕介1, 奥田洋介1, 李鍾昊2, 岡田安弘1,3 (1.順心リハビリテーション病院リハビリテーション部, 2.東京都医学総合研究所, 3.加古川脳神経・認知リハビリテーション研究センター)

Keywords:座位バランス, 重心移動, 脳卒中

【はじめに,目的】
脳卒中片麻痺患者の日常生活動作(以下ADL)自立には,ベッド上での靴や装具の着脱の可否が重要な因子となる。しかし,多くの症例において座位バランス能力の低下から靴や装具着脱の自立に難渋する事を経験する。そこで我々は,靴や装具着脱時に必要な要素である,端座位での一側下肢挙上時の重心移動戦略に着目した。測定機器として,バランスWiiボード(以下Wiiボード)を使用した。Wiiボードは重心動揺計と同等の機能を有する事が報告されている(川井田ら2008)。本研究では,脳卒中患者の端座位における一側下肢挙上時の重心移動戦略についてWiiボードによる測定を行い,その経時的な変化を追った。
【方法】
対象はアテローム梗塞(右内包から放線冠)による左片麻痺を呈した60歳代の女性で,Mini-Mental State Examinationは30点,その他高次脳機能障害を認めず,指示理解は良好であった。測定は発症後2ヶ月(以下trial 1),4ヶ月(以下trial 2)の計2回実施した。trial 1:Brunnstrom stage(以下Brs)は上肢III-手指III-下肢Vであった。感覚は表在・深部とも正常であった。10m歩行テストは24.0秒(ストライド長0.80m)であった。Functional Independence Measure(以下FIM)は91点であった。trial 2:Brsは上肢IV-手指V-下肢VIであった。10m歩行テストは8.7秒(ストライド長1.25m)であった。FIMは121点であった。測定にはWiiボードを用いた。解析データはBluetoothにてパソコンと接続し,WiiFlashを用いてサンプリング周波数100Hzでハードディスクに保存した。ソフトウェアは富家千葉病院で簡易解析システムとして構築されたものを使用した。これらのデータをもとに,Matlab(Version7.3.0267)を用いて,X軸(右側が+,左側が-),Y軸(前方が+,後方が-)の2つの座標軸を持つグラフに表示して動揺のパターンを観察した。開始姿勢は,Wiiボードの中心に殿部が位置するように設定し,両上肢は胸部の前で固定し,股関節・膝関節・足関節が90°となるように座面の調整を行った。運動課題はWiiボード上で10秒の静止座位の後,合図にて一側下肢を快適速度で挙上させ,5秒間保持させた。右下肢挙上(以下 非麻痺側),左下肢挙上(以下 麻痺側)の2つの課題を各3試行実施した。重心の軌跡(以下 軌跡),総軌跡長,動作開始から安定までの時間(以下 安定時間)を測定し,総軌跡長と安定時間に関しては3試行の平均値を算出した。
【結果】
非麻痺側:軌跡は中央から前方へ移動し,その後左後方へ移動した。3試行とも一定の軌跡を示した。trial 1と2で大きな変化はみられなかった。総軌跡長はtrial 1では9.10±2.97cm,trial 2では6.51±0.96 cmであった。安定時間はtrial 1では2.54±0.99秒,trial 2では2.29±0.51秒であった。
麻痺側:軌跡は中央付近で留まり大きな動きはみられなかった。3試行とも一定の軌跡を示した。trial 1と2で大きな変化はみられなかった。総軌跡長はtrial 1では5.53±0.59cm,trial 2では4.40±0.75 cmであった。安定時間はtrial 1では2.19±0.58秒,trial 2では1.69±0.41秒であった。
【考察】
軌跡のパターンは非麻痺側,麻痺側の下肢拳上で異なった形を示したが,trial 1と2ではそのパターンに大きな変化はみられなかった。総軌跡長と安定時間はtrial 1と比較してtrial 2では減少した。また,Brs,10m歩行テスト,FIMの全てにおいてtrial 1と比較してtrial 2では改善を認めた。身体機能やADL能力の改善に伴い,重心動揺は小さくなる傾向を示したが,重心動揺波形パターンには変化がみられず一定の運動パターンで動作が行われている可能性が示唆された。この事から,ベッド上での座位バランス能力を向上し,ADLの自立を獲得するためには,より早期から患者の重心移動のパターン特性を把握した上で動作練習を行っていく必要があると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究において,Wiiボードを用いて脳卒中患者の端座位における重心移動のパターン特性や重心動揺の程度を客観的に表示できる事が明らかとなり,患者の障害程度の把握,治療戦略の決定や経時的なリハビリテーション効果の判定に有用であると示唆された。