第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

脳損傷理学療法6

2015年6月5日(金) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0276] 脳卒中患者の足関節背屈機能障害に対し,足関節の運動観察治療を行い,即時効果を検討した一症例

酒井克也 (IMS(イムス)グループ板橋中央総合病院)

キーワード:運動観察治療, 足関節, 即時的効果

【はじめに,目的】
運動観察治療(Action Observation Treatment:AOT)は映像を観察することにより運動機能が改善すると報告されている(Banty 2010,Celnik 2008)。また,関節運動の運動観察(渕上2011)や観察部位による違い(草場2012)など映像の内容について検討されている。先行研究より,脳卒中後の足関節背屈機能障害に対するAOTは,単関節の運動観察と身体運動により背屈角度や筋力,歩行速度に改善が見られたと報告されている。しかし,足関節背屈機能障害に対するAOTの即時効果を検討した報告は散見される程度である。そのため今回,脳卒中後の足関節背屈機能障害に対し,足関節背屈運動のAOTを行い,その即時効果を検討することとした。
【方法】
1.症例紹介:発症後34病日が経過し,症状が落ち着いた左皮質下出血後の右片麻痺症例(50歳代男性)を対象とした。運動性失語は認められたが,理解は良好でその他の高次脳機能障害は見られなかった。
2.治療経過:左皮質下出血発症後,翌日より理学療法介入となった。初回評価時のNational institutes of health stroke scale(以下NIHSS):8点,Fugl-Meyer Assessment(以下FMA)の下肢項目:4/34点,バランス項目:5/14点,感覚項目:12/24点であった。右股関節,膝関節のMMT2,右足関節背屈MMT1,自動運動で行える右足関節背屈可動域は0°であり,Barthel Index(以下BI):25点であった。
27病日では,NIHSS:6点,FMAの下肢項目:22/34点,バランス項目:11/14点,感覚項目:12/24点であった。右股関節,膝関節のMMT4,右足関節背屈MMT2,自動運動で行える右足関節背屈可動域は3°であり,右足関節の背屈機能障害が残存した。歩行はT字杖を使用し監視にて可能となり,歩行速度49.4±1.5m/minまで改善し,BIも70点へ向上した。
その後34病日までの7日間,NIHSS,FMA,足関節背屈能力,歩行能力の改善が見られなかった。
3.方法:以下ABの順に施行し,その前後において自動運動で行える足関節背屈可動域と座位での下肢荷重率,10m最大歩行速度を計測し,3回の平均値を採用した。A:何も映し出されていないPCの黒色画面を別室にて15分間観察し,その後,B:足関節背屈運動の動画を別室にて15分間観察した。
足関節の運動観察に用いる映像は健常成人男性の足関節背屈運動であり,症例はビデオで撮影した動画をPC画面上で観察した。その際に足関節運動を模倣する意図を持って観察するよう指示した。映像内容は足関節背屈を1秒間に1回行い,正中,内側,外側の3方向から各1分間ずつ撮影し,15分間に編集したものを使用した。
【結果】
自動運動で行える平均足関節背屈可動域はA前:4.0±0.8°,後:4.0±0.8°,B前:4.0±0.8°,後:6.0±1.6°であった。座位での平均下肢荷重率はA前:13.7±0.8%,後:15.5±0%,B前:15.5±0%,後:21.2±0.8%であった。平均10m最大歩行速度はA前:51.8±0.9m/min,後:51.2±1.8m/min,B前:51.2±1.8,後:58.4±1.2m/minであった。
【考察】
Aの前後で計測項目全てに大きな差は見られなかった。しかし,Bの前後では自動運動で行える足関節背屈可動域に大きな変化はなかったが,座位での平均下肢荷重率と平均10m最大歩行速度が向上した。
先行研究では,AOT後,足関節背屈能力と歩行能力どちらも機能が改善したと報告している。しかし,今回は足関節の運動観察治療を行ったにも関わらず,足関節機能に大きな変化なく,座位での下肢荷重率や歩行機能の改善が見られた。
運動観察,運動イメージは共通する神経ネットワークを使用する(Grezes 2001)とされ,模倣する意図をもって観察したことで脳領域が賦活される(Ertelt 2007)としている。運動を観察したことで一次運動野が賦活され,皮質脊髄路の興奮性が高まった(Gangitano 2001 高橋2006)結果,座位での下肢荷重率や歩行速度の向上に至ったのではないかと考える。
今後は,症例数を増やすことや映像の内容,観察時間などをさらに検討していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
一症例での検討であるが,急性期脳卒中患者に対する運動観察の即時的効果が認められる可能性が示唆された。