第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

脳損傷理学療法6

Fri. Jun 5, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0279] 脳卒中患者における退院後のホームエクササイズ実施状況に影響を与える要因

久納悠子1, 高松泰行1, 森野陽2 (1.国立病院機構東名古屋病院リハビリテーション部, 2.北海道千歳リハビリテーション学院)

Keywords:脳卒中, ホームエクササイズ, 疼痛

【はじめに,目的】
脳卒中患者のホームエクササイズ(home exercise:HE)は機能回復,障害の軽減,生活の質の向上をもたらす。脳卒中患者におけるHEはアドヒアランスが低いという問題がある。またそのアドヒアランスに影響を与える要因に関する報告はいくつかみられるものの,その多くは慢性期を対象にしたものであり,回復期リハビリテーション(以下,回リハ)病棟退院直後におけるHEの実施状況に影響を与える要因を検討したものはほとんどない。そこで,回リハ病棟退院後の脳卒中患者において,HEの実施に影響を与える要因について退院時の情報より明らかにすること,またHEを完遂もしくは完遂できなかった理由を明らかにすることを目的とした。

【方法】
本研究の対象は2013年12月から2014年3月までの間に当院の回リハ病棟を退院し,研究の参加に同意が得られた脳卒中患者とした。進行性疾患を有する者(悪性腫瘍,神経難病,アルツハイマー病),リハビリテーションの阻害となる重篤な整形疾患や循環器疾患を有する者,転院した者は除外した。研究デザインは前向きコホート研究とした。対象者の重症度はmodified Rankin Scale(mRS)により,立位レベル(mRS 0-3,立位可能なmRS 4),座位レベル(立位困難なmRS 4),臥位レベル(mRS 5)の3段階に分類した。HEはそれぞれ重症度別に,自重を用いたレジスタンストレーニングならびに上下肢のストレッチとし,レジスタンストレーニングは週3日以上,上下肢のストレッチは毎日行うものとした。HE内容と実施状況チェック表が記載された冊子を用い,退院が決定した日から退院日までの間,毎日指導を行った。退院時の情報は,患者背景,退院時のMini-Mental State Examination(MMSE),Brunnstrom recovery stage(BRS),高次脳機能障害の有無,上下肢痛の有無,functional independence measure(FIM)とした。退院後の実施状況ならびにその理由の聴取は,退院1週間後に電話での聞き取り調査にて行った。指導された回数を実施できた者を完遂群,それ以外の者を非完遂群に分類した。2群間の差の検定には,対応のないt-test,Mann-Whitney U test,χ2検定,Fisherの正確確率検定を用いた。差を認めた項目を独立変数,HEを完遂したか否かを従属変数としてロジスティック回帰分析を行った。有意水準は5%とした。

【結果】
対象者は46名(年齢72.0±11.8歳),完遂群29名,非完遂群17名であった。HE指導日数は5.0日であった。患者背景,MMSE,高次脳機能障害の有無は群間に差を認めなかった。完遂群,非完遂群の各指標には,下肢BRS(5.0[5.0-6.0]vs. 5.0[4.0-5.0],p=0.02),上肢痛(17.2% vs. 47.1%,p=0.04),FIM合計点(108.1±21.2 vs. 92.6±20.3,p=0.02)と,有意な差を認めた。ロジスティック回帰分析の結果,上肢痛とFIM合計点が抽出され,そのオッズ比は上肢痛4.51(95%CI:1.056-19.254,p=0.04),FIM合計0.966(95%CI:0.935-0.997,p=0.03)であった。HEを完遂できた理由は,健康によいと思う96.6%,内容が自分に合っている75.9%,成果を感じる65.5%,やるように言われたから58.6%,運動が好き55.2%,周りからの励ましがある51.7%,楽しい34.5%であった。HEを完遂できなかった理由は,時間がない14.7%,楽しくない11.8%,面倒である11.8%,成果を感じない8.8%,内容が自分に合っていない5.9%,大変すぎる5.9%,目標がない5.9%,身体上の都合5.8%,転倒が怖い2.9%であった。

【考察】
本研究によって上肢痛がHEの実施状況に影響を与えることが明らかとなった。Faria-Fortiniらは脳卒中患者の肩関節の痛みは活動量に関連があると報告しており,これは本研究結果を支持するものと考える。一方で脳卒中患者の運動の阻害因子に意欲の低下が報告されており,抑うつ状態は運動のアドヒアランスを低下させる要因となる。Klitらは痛みと抑うつには関連があると報告している。本研究においては抗うつ薬の内服状況は調査しているものの,抑うつ状態の評価自体は実施しておらず,上肢痛により抑うつ気分を生じHEの実施に影響を与えた可能性がある。また,HEが完遂できなかった理由に関しては時間がないという理由が最も多かった。Johnsoらも時間の欠如が運動の阻害要因として最も割合が高いと報告している。
本研究の限界は実施状況の確認を聞き取り調査で行っている点と考える。

【理学療法学研究としての意義】
脳卒中患者における回リハ病棟退院後のHEに上肢痛が関与していることが示された。この知見はHEを指導する際の一助となると考えられる。