[P1-B-0288] 入退院を繰り返す慢性心不全患者に対する訪問リハビリテーションの有効性
Keywords:心不全, 生活再建, 社会構成主義
【はじめに,目的】
山下らによると,わが国の慢性心不全患者の再入院率は,退院後1年以内で40%と高値であるとされている。また,諸富によると,退院後の在宅生活における病態に合わせた安全領域での活動量や生活指導,住環境整備を行うことが必要とされている。今回,心不全の増悪により入退院を繰り返していた当院通院の在宅慢性心不全患者に対し,在宅での活動範囲に合わせた訪問リハビリテーションを実施し,心不全増悪の予防が図れ,再入院を防止できた症例を報告する。
【方法】
対象は75歳男性,妻と二人暮らし。趣味は速歩での散歩,読書,庭木手入れ。平成4年に心筋梗塞,平成24年9月(入院時Barthel Index85点,退院時100点),平成25年1月,5月(入院時Barthel Index50点,退院時100点)にうっ血性心不全の診断にて当院入院。既往歴に糖尿病あり。退院後のADLは自立しており,認知機能低下なし。平成25年6月退院時点で要支援1の新規認定あり。各々の入退院後における生活スタイルに変更は無し。
実施にあたり,入院前のADLや生活活動範囲を聴取。次いで,どの範囲までの生活活動量が適切であるかをバイタルサインにて確認。その時点における段階的な主訴をインタビュー形式にて聴取しながら適宜相談,指導を行い,主体性に基づいたリハビリテーションを提供。元々の生活を取り戻すために,対象の活動範囲をリセットし,一から再建を図るための介護予防を目的としたリハビリテーションを実施した。
【結果】
開始にあたり,症例は心不全に対して漠然とした不安を抱えていた。病態に合わせた安全領域での活動が良いとされるが,運動することがリハビリテーションであるという概念を持ち,毎日5km程度の散歩をしていた。主治医からの入院の勧めを拒否したり,入院中の指導に対する受け入れも十分ではなかった。自宅は4階建てであり,玄関は階段を使用し2階にあった。開始当初は,階段の労作にて息切れを認める訴えがあったため,休息を挟んでの動作を提案していき,一回での階段昇降段数を増やしていった。安定してきた時期に,趣味である庭木手入れの希望があり,それに必要な屋上までの階段昇降時のバイタルサインを評価した。心拍数上昇に伴い,息切れの有無を確認しながらの動作遂行することを提案。出来る回数も増えたため,その後は屋外へ視線を向けた。趣味である書籍購入のために,近隣書店までの屋外歩行が必要との訴えがあり,実際に800m程度の屋外歩行を実施。3ヶ月後には,遠方旅行の希望があった。行先には坂道が存在したため,近隣の河川にある坂路と土手を利用した運動耐性練習を実施。その後,心不全徴候が出現することなく旅行をすることが可能であった。このように生活範囲を少しずつ拡大していくことで,心不全に対する不安は軽減し,症例はより主体性を持つことができた。退院より15ヶ月間,心不全による再入院には至っていない。
【考察】
症例の問題の原因を身体機能に求めると,効果はあまり出ず,また原因を性格といった心の中に求めても良い解決方法は導き出せない。社会構成主義においては,伝え,教えられたことは,そのまま対象者に理解されるわけではなく,自身をとりまく世界や現実をありのままに捉えて理解するものであるとする考え方を否定して,自身の持つ認識の枠組みや知識を使って世界を理解し,自身なりの意味を生成すると考えられている。症例は,在宅での活動量と心不全再発に対しての漠然とした不安や葛藤,衝突があった。従来は心不全へのリハビリテーションとしては,筋力増強や運動耐性練習,生活指導を行うことが主体とされる。しかし一方で,このコンフリクトを変えるために,社会構成主義の観点に立ちながら,本人の生活ストーリーを自発的に表出してもらうことで,症例の世界観に寄り添い,傾聴し,一緒に問題点を洗い出せた。気付きを促し,生活再建を施すために,傾聴と受容を行った。そうすることで,本人,治療者に変化が起こり,実際場面である在宅生活での活動範囲の評価が進められた。不安を取り除けたことが,先行刺激となり,症例の行動実践につながった。最終的に心不全徴候を認めないようになることで,日常生活に対しての自信が生まれ,正の強化が図られ,行動変容が起こったといえる。
【理学療法学研究としての意義】
疾患,病態に対する運動療法の指導は必要であるが,治療者側の目線に立った指導に陥りやすい傾向にある。生活再建という観点から,患者の人格的特性や社会的背景に比重を置きながら生活調整を行い,自発的な行動を引き出していき,在宅生活を後方から支援していくことが大切である。
山下らによると,わが国の慢性心不全患者の再入院率は,退院後1年以内で40%と高値であるとされている。また,諸富によると,退院後の在宅生活における病態に合わせた安全領域での活動量や生活指導,住環境整備を行うことが必要とされている。今回,心不全の増悪により入退院を繰り返していた当院通院の在宅慢性心不全患者に対し,在宅での活動範囲に合わせた訪問リハビリテーションを実施し,心不全増悪の予防が図れ,再入院を防止できた症例を報告する。
【方法】
対象は75歳男性,妻と二人暮らし。趣味は速歩での散歩,読書,庭木手入れ。平成4年に心筋梗塞,平成24年9月(入院時Barthel Index85点,退院時100点),平成25年1月,5月(入院時Barthel Index50点,退院時100点)にうっ血性心不全の診断にて当院入院。既往歴に糖尿病あり。退院後のADLは自立しており,認知機能低下なし。平成25年6月退院時点で要支援1の新規認定あり。各々の入退院後における生活スタイルに変更は無し。
実施にあたり,入院前のADLや生活活動範囲を聴取。次いで,どの範囲までの生活活動量が適切であるかをバイタルサインにて確認。その時点における段階的な主訴をインタビュー形式にて聴取しながら適宜相談,指導を行い,主体性に基づいたリハビリテーションを提供。元々の生活を取り戻すために,対象の活動範囲をリセットし,一から再建を図るための介護予防を目的としたリハビリテーションを実施した。
【結果】
開始にあたり,症例は心不全に対して漠然とした不安を抱えていた。病態に合わせた安全領域での活動が良いとされるが,運動することがリハビリテーションであるという概念を持ち,毎日5km程度の散歩をしていた。主治医からの入院の勧めを拒否したり,入院中の指導に対する受け入れも十分ではなかった。自宅は4階建てであり,玄関は階段を使用し2階にあった。開始当初は,階段の労作にて息切れを認める訴えがあったため,休息を挟んでの動作を提案していき,一回での階段昇降段数を増やしていった。安定してきた時期に,趣味である庭木手入れの希望があり,それに必要な屋上までの階段昇降時のバイタルサインを評価した。心拍数上昇に伴い,息切れの有無を確認しながらの動作遂行することを提案。出来る回数も増えたため,その後は屋外へ視線を向けた。趣味である書籍購入のために,近隣書店までの屋外歩行が必要との訴えがあり,実際に800m程度の屋外歩行を実施。3ヶ月後には,遠方旅行の希望があった。行先には坂道が存在したため,近隣の河川にある坂路と土手を利用した運動耐性練習を実施。その後,心不全徴候が出現することなく旅行をすることが可能であった。このように生活範囲を少しずつ拡大していくことで,心不全に対する不安は軽減し,症例はより主体性を持つことができた。退院より15ヶ月間,心不全による再入院には至っていない。
【考察】
症例の問題の原因を身体機能に求めると,効果はあまり出ず,また原因を性格といった心の中に求めても良い解決方法は導き出せない。社会構成主義においては,伝え,教えられたことは,そのまま対象者に理解されるわけではなく,自身をとりまく世界や現実をありのままに捉えて理解するものであるとする考え方を否定して,自身の持つ認識の枠組みや知識を使って世界を理解し,自身なりの意味を生成すると考えられている。症例は,在宅での活動量と心不全再発に対しての漠然とした不安や葛藤,衝突があった。従来は心不全へのリハビリテーションとしては,筋力増強や運動耐性練習,生活指導を行うことが主体とされる。しかし一方で,このコンフリクトを変えるために,社会構成主義の観点に立ちながら,本人の生活ストーリーを自発的に表出してもらうことで,症例の世界観に寄り添い,傾聴し,一緒に問題点を洗い出せた。気付きを促し,生活再建を施すために,傾聴と受容を行った。そうすることで,本人,治療者に変化が起こり,実際場面である在宅生活での活動範囲の評価が進められた。不安を取り除けたことが,先行刺激となり,症例の行動実践につながった。最終的に心不全徴候を認めないようになることで,日常生活に対しての自信が生まれ,正の強化が図られ,行動変容が起こったといえる。
【理学療法学研究としての意義】
疾患,病態に対する運動療法の指導は必要であるが,治療者側の目線に立った指導に陥りやすい傾向にある。生活再建という観点から,患者の人格的特性や社会的背景に比重を置きながら生活調整を行い,自発的な行動を引き出していき,在宅生活を後方から支援していくことが大切である。