第50回日本理学療法学術大会

講演情報

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地域理学療法2

2015年6月5日(金) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0291] うっ血性心不全を有する患者に対する訪問リハビリテーションの有用性

~再入院期間からの検証~

吉田有輝1, 三岡相至1, 大野篤行2, 押田翠3, 吉田生馬4 (1.葛西昌医会病院リハビリテーション科, 2.葛西昌医会病院循環器内科, 3.葛西昌医会病院整形外科, 4.葛西昌会病院消化器内科)

キーワード:うっ血性心不全, 訪問リハビリテーション, 再入院

【はじめに,目的】Krumholzらによると,心不全による入院の44%は退院後6ヶ月以内の再入院であるとされている。そのような反復する入院は,家族,医療・介護現場,行政にとって大きな負担課題となっており,心不全の再入院を予防し,入院期間を減少させることが急務になっていると,野出らは述べている。当院においても,うっ血性心不全により入院療養を余儀なくされる患者は多く,退院後に再入院してしまう患者も少なくない。そこで,今回,当院の訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)利用者の中で,うっ血性心不全を有する利用者の再入院期間を調査し,訪問リハによる再入院予防の有用性を考察し報告する。
【方法】平成25年5月1日~平成26年10月1日までに当院の訪問リハビリテーション利用者のうち,うっ血性心不全を有している利用者9名を対象とした。調査項目は,年齢,性別,初発または再発,再発の場合の再入院期間,在宅生活期間,介護認定区分,訪問リハ開始時期とした。また,訪問リハによる治療介入は単に筋力増強や運動負荷耐用能向上ではなく,生活再建を行うことを目的として行った。
【結果】対象者の性別は男性5名・女性4名,平均年齢は85.0歳,初発が4名・再発が5名,介護認定区分は要支援1が2名,要支援2が1名,要介護2が4名,要介護3が1名,要介護5が1名であった。これらの利用者のうち,訪問リハによる治療介入後に再入院した利用者は1名のみであった。また,訪問リハ終了後に,通所系サービスの増加による活動量増大が再入院の要因と考えられた利用者が1名いた。対象者全員の在宅生活期間は,平均348.9日であり,死亡した2例を除きすべての利用者が現在も訪問リハを利用しながら在宅生活を継続しており,最長で644日間の在宅生活となっている。さらに,再発例においては,訪問リハ導入前の再入院期間の平均は107.3日であったのに対し,訪問リハ導入後に再入院した1例を除く他の利用者は現在も在宅生活を継続しており,その平均は521.7日,最長期間は上記と同様であった。
【考察】Hongらによると米国では1979年から2006年の間に心不全による入院が175%増加し,年間302億ドルがその治療に費やされている。また,心不全患者の約半数が6ヶ月以内の再入院であることから,心不全患者が入院し治療を終え在宅復帰した後の生活において,何らかの問題を抱えてしまうために再入院してしまっている現状がある。今回の調査では,訪問リハ導入前には再入院を経験していた利用者が,訪問リハ導入後には再入院せずに在宅生活を継続したり,前回の再入院期間を超えて在宅生活を送ることができているという結果が得られた。これは,自宅退院後に訪問リハを導入し,利用者やその家族とともに目標設定を共有するとともに,個々の利用者の生活ストーリーを自発的に表出してもらうことで,利用者の世界観に寄り添い,共感し,共に問題点を洗い出しながら生活再建を図っていったからであると考えられる。これまでは自宅退院後,ひとりでなんとなく生活を再開していたという状況から,訪問リハによる教育的リハビリテーションによって安全な居宅生活を創ることができたため,多くの利用者が今も在宅生活を継続できているのではないだろうか。さらに,本対象者の介護認定区分をみると,要支援1から要介護5までと幅広いという結果が得られているため,介護認定区分に関わらず,自宅復帰後早期から積極的な居宅でのリハビリテーションの導入が生活の安定に繋がっていくのではないかと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】うっ血性心不全は先進国に共通した公衆衛生上の大きな問題と言える。米国では,電話回線を通じて体重管理を毎日行うことで契約者の再入院率と医療費削減を実現している企業が存在し,本邦でも看護師の訪問や電話により再入院を防ぐ試みが進行中である。しかしながら,今回の調査結果より,うっ血性心不全を有する多くの患者に対し,自宅退院後早期に訪問リハビリテーションを導入することにより,再入院を予防し長期間の在宅生活を継続できることが示唆された。我々理学療法士が生活動作の専門家であるならば,間接的な関わりや支援ではなく,訪問リハビリテーションとして医療を提供し,生活再建を図るとともに再入院を予防し,対象者の生活を直接支援していくことが重要であると考えられた。