第50回日本理学療法学術大会

講演情報

ポスター

ポスター1

地域理学療法3

2015年6月5日(金) 13:50 〜 14:50 ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0303] 急性呼吸不全患者の入院時栄養状態と日常生活自立度の関係

田中秀明1, 井舟正秀1, 小蔵要司2, 川北慎一郎3, 西願司3 (1.社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院理学療法課, 2.社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院臨床栄養課, 3.社会医療法人財団董仙会恵寿総合病院リハビリテーション科)

キーワード:呼吸不全, 栄養, ADL

【はじめに,目的】
諸家らの報告で,栄養状態は理学療法を実施する際に対象の機能,活動,参加を最大限に発揮できるよう栄養管理を行うことが重要であると報告されている。また,各施設においてNST(Nutrition Support Team)活動が積極的に行われており,栄養管理に対する認識の高さが伺える。当院でもIntensive Care Unit(以下ICU)に入院される重症患者に対して必要な栄養内容や投与方法,必要量など算出し適切な栄養管理を行っている。理学療法士は管理栄養士・看護師などと協働し適切な時期に適切な運動内容の検討を行っている。本研究の目的は,急性呼吸不全患者における入院時栄養状態がFunctional Independence Measure(以下FIM)に影響するか否かを明らかにすることである。
【方法】
対象者は,2013年4月から2014年3月までに当院ICUに急性呼吸不全の診断名で入院された42例(男性:32例,女性:10例,平均年齢:75.0±10.6歳)であり,除外基準として死亡例,状態悪化例,入院前日常生活動作(Activities of Daily Living;以下ADL)介助例とした。全例において理学療法が施行されていた。入院時栄養状態の指標としてGeriatric Nutritional Risk Index(以下GNRI)を用いた。GNRI(14.89*血清アルブミン値(g/dl)+41.7* Body Mass Index(以下BMI)/22)を算出し,先行研究に準じGNRI高値(GNRI≧92)群22例とGNRI低値(<92)群20例の2群に選別された。データは理学療法開始時FIM(以下開始時FIM),退院時FIM,FIM利得(退院時FIM-開始時FIM),FIM効率(FIM利得/在院日数),ICU在棟日数,在院日数,他の影響因子である年齢,入院時BMI値,入院時血清アルブミン値の患者背景を算出し2群間での比較を,対応のないt検定,Mann-WhitneyのU検定を用い統計学的分析を行った。なお,有意水準は5%未満とした。
【結果】
2群間(GNRI高値vsGNRI低値)においての平均値と統計学的分析結果を以下に示す。退院時FIM(112.6vs97.8点,p<0.05),FIM利得(48.9vs31.7点,p<0.05),FIM効率(2.41vs1.19,p<0.05),入院時BMI(23.2vs18.9,p<0.01),入院時血清アルブミン値(4.0vs3.1g/dl,p<0.01)とGNRI高値群で有意な高値を示した。また,開始時FIM(63.7vs66.1点,NS),ICU在棟日数(9.8vs9.5日,NS),在院日数(40.5vs41.9日,NS),年齢(72.4vs78.4歳,NS)と有意差を認めなかった。
【考察】
本研究では,急性呼吸不全患者の栄養状態で選別された2群間において退院時FIM,FIM利得,FIM効率においてGNRI高値群で有意に高値を示し,開始時FIM,ICU在棟日数,在院日数,年齢に有意差を認めなかったことから,入院時栄養状態の高低が退院時FIM,FIM利得,FIM効率に少なからず影響を及ぼしていることが考えられた。P.Hegerova et al(2014)は早期からの栄養サポートと理学療法は急性疾患高齢患者の長期的なADL自立度を改善すると述べている。本研究においても入院時栄養状態が良好な対象者で退院時FIM,FIM利得,FIM効率が有意に高値であり栄養管理の重要性が確認された。加えて,GNRI低値群のFIM利得平均が31.7点,FIM効率平均1.19と決して低い値ではなく,適切な栄養管理と理学療法がなされた結果であると考えられた。また,入院時のGNRI値を確認することでADLの予後やゴール設定の一助となる可能性が示唆された。今後は,入院中はもちろんのことであるが,在宅生活における栄養管理の重要性も検討していく必要がある。本研究は,身体機能面についての検討がなされていないことや症例数が少ないことがあり,今後の課題である。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,急性呼吸不全患者の入院時栄養状態がADL改善に影響を及ぼすことが示唆された。また,栄養状態の高低によりADLの予後を決定する要因となりうる可能性がある。