[P1-B-0306] 老健における在宅復帰の要因に関する研究
家族の意向と入所中のADL変化に着目して
Keywords:老健, 在宅復帰, ADL
【はじめに,目的】
介護老人保健施設(以下,老健)では,平成24年度介護報酬改定から「在宅強化型」および「在宅復帰支援加算」が創設され,在宅復帰が促されている。厚生労働省の調査(H26.7.23第104回社保審介護給付費分科会資料)によると,平成25年9月時点,2050施設における「在宅強化型老健」の施設割合は7.3%となっている。また,入所者に占める「在宅退所見込みあり」の人の割合の平均は26.2%,「見込みなし」は53.5%であり,老健からの在宅復帰の難しさは多くの施設が課題としている現状がある。老健からの在宅復帰に関する先行研究では,中山らは在宅復帰は規定要因である日常生活活動(Activity of Daily Living;ADL),認知機能,家族の介護力に加え身体機能,入所元,褥瘡の有無があると報告している。リハビリテーション介入の目的としてADL改善の重要性が示唆されているが,入所中のADLの改善が在宅復帰にどのような影響を与えるかという報告はない。本研究では,老健からの在宅復帰の要因として入所中のADLの改善が在宅復帰にどのような影響を与えるかを明らかにすることを目的とする。
【方法】
平成25年3月から平成26年8月の19ヵ月間において東京都内で最も高齢化率の高い地域(北区)にある1ヵ所の老健を入退所した82名中,病状の悪化により病院に入院した者や死亡退所を除く53名(男性26名,女性27名,年齢83.2±7.7歳,平均要介護度3.6±1.1)について検討した。紹介元は在宅が13名,医療機関が36名,他老健が4名であった。平均入所期間は4.5ヵ月。主な疾患は脳血管疾患が25名,骨関節疾患が14名,廃用症候群が12名,その他が2名であった。退所先は在宅が23名,施設が30名であった。調査は後ろ向きの縦断研究とし,カルテおよび介護記録から情報を収集した。調査項目は経済状況(利用者負担限度額段階),同居家族の人数,認知症(改訂版長谷川式簡易知能評価スケール),行動心理症状(BPSD)の有無,入所時および退所時ADL,ADL改善度,入所中の移動形態,入浴方法,主介護者の健康状態,家族の意向(入所時に在宅復帰を明言していたかどうか)とした。ADLはBarthel Index(以下,BI)を使用し,BI総得点及びBI各項目について,入所時,退所時,改善度をそれぞれの項目について調査した。統計処理はカイ2乗検定,Mann-Whitney検定を使用し在宅群と施設群の違いを比較した。また,退所先を従属変数として独立変数に上記項目を投入しステップワイズ法による重回帰分析を行った。ADLと在宅復帰の関係についてはBIの10項目を投入したステップワイズ法による重回帰分析も行った。いずれも有意水準は5%未満とした。
【結果】
統計処理の結果,家族の意向,入所期間,同居家族の人数において有意差が認められた。入所時および退所時BI(総得点,各項目)においては有意差は認められなかったが,BI各項目の改善度において歩行と階段に有意差が認められた。重回帰分析の結果,家族の意向,介護者の健康状態,同居家族の人数,認知症の4つが選出された。BI各項目について検討した重回帰分析では,退所時BIでは階段及び移乗が,BIの改善度においては歩行が選出された。
【考察】
本研究において老健からの在宅復帰は家族の意向や介護者の健康状態,同居家族の人数といった介護者側の要因が強い影響を与える可能性が示唆された。入所時および退所時BI,BIの改善度の総得点では有意差は認められなかったが個別の項目では認められた。重回帰分析の結果,退所時の階段や移乗が挙げられた。これは,在宅では玄関の上り框など段差への対応やベッド周囲の転倒予防などにつながり,在宅では必要不可欠な動作項目であると考えられる。BIの改善度においては歩行の改善度が有意に高かった。フロア内での移動は家族にとっても改善が目に見えるものである。「よくなっている」という印象が,家族の意向に影響を与え,在宅復帰につながる可能性が考えられる。筆者の経験として,家族の意向は施設方向だったが最終的には在宅復帰に至った症例もあった。ADLの改善を家族に報告,アピールしていくことの重要性も示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
老健からの在宅復帰は家族の意向をはじめ介護者側の要因が大きな影響を与えている。理学療法の目標として,段差やベッド周囲などの在宅を意識した能力の強化や「しているADL」のレベルで歩行・移動能力を改善させ家族に報告,働きかけていくことが在宅復帰につながる可能性がある。
介護老人保健施設(以下,老健)では,平成24年度介護報酬改定から「在宅強化型」および「在宅復帰支援加算」が創設され,在宅復帰が促されている。厚生労働省の調査(H26.7.23第104回社保審介護給付費分科会資料)によると,平成25年9月時点,2050施設における「在宅強化型老健」の施設割合は7.3%となっている。また,入所者に占める「在宅退所見込みあり」の人の割合の平均は26.2%,「見込みなし」は53.5%であり,老健からの在宅復帰の難しさは多くの施設が課題としている現状がある。老健からの在宅復帰に関する先行研究では,中山らは在宅復帰は規定要因である日常生活活動(Activity of Daily Living;ADL),認知機能,家族の介護力に加え身体機能,入所元,褥瘡の有無があると報告している。リハビリテーション介入の目的としてADL改善の重要性が示唆されているが,入所中のADLの改善が在宅復帰にどのような影響を与えるかという報告はない。本研究では,老健からの在宅復帰の要因として入所中のADLの改善が在宅復帰にどのような影響を与えるかを明らかにすることを目的とする。
【方法】
平成25年3月から平成26年8月の19ヵ月間において東京都内で最も高齢化率の高い地域(北区)にある1ヵ所の老健を入退所した82名中,病状の悪化により病院に入院した者や死亡退所を除く53名(男性26名,女性27名,年齢83.2±7.7歳,平均要介護度3.6±1.1)について検討した。紹介元は在宅が13名,医療機関が36名,他老健が4名であった。平均入所期間は4.5ヵ月。主な疾患は脳血管疾患が25名,骨関節疾患が14名,廃用症候群が12名,その他が2名であった。退所先は在宅が23名,施設が30名であった。調査は後ろ向きの縦断研究とし,カルテおよび介護記録から情報を収集した。調査項目は経済状況(利用者負担限度額段階),同居家族の人数,認知症(改訂版長谷川式簡易知能評価スケール),行動心理症状(BPSD)の有無,入所時および退所時ADL,ADL改善度,入所中の移動形態,入浴方法,主介護者の健康状態,家族の意向(入所時に在宅復帰を明言していたかどうか)とした。ADLはBarthel Index(以下,BI)を使用し,BI総得点及びBI各項目について,入所時,退所時,改善度をそれぞれの項目について調査した。統計処理はカイ2乗検定,Mann-Whitney検定を使用し在宅群と施設群の違いを比較した。また,退所先を従属変数として独立変数に上記項目を投入しステップワイズ法による重回帰分析を行った。ADLと在宅復帰の関係についてはBIの10項目を投入したステップワイズ法による重回帰分析も行った。いずれも有意水準は5%未満とした。
【結果】
統計処理の結果,家族の意向,入所期間,同居家族の人数において有意差が認められた。入所時および退所時BI(総得点,各項目)においては有意差は認められなかったが,BI各項目の改善度において歩行と階段に有意差が認められた。重回帰分析の結果,家族の意向,介護者の健康状態,同居家族の人数,認知症の4つが選出された。BI各項目について検討した重回帰分析では,退所時BIでは階段及び移乗が,BIの改善度においては歩行が選出された。
【考察】
本研究において老健からの在宅復帰は家族の意向や介護者の健康状態,同居家族の人数といった介護者側の要因が強い影響を与える可能性が示唆された。入所時および退所時BI,BIの改善度の総得点では有意差は認められなかったが個別の項目では認められた。重回帰分析の結果,退所時の階段や移乗が挙げられた。これは,在宅では玄関の上り框など段差への対応やベッド周囲の転倒予防などにつながり,在宅では必要不可欠な動作項目であると考えられる。BIの改善度においては歩行の改善度が有意に高かった。フロア内での移動は家族にとっても改善が目に見えるものである。「よくなっている」という印象が,家族の意向に影響を与え,在宅復帰につながる可能性が考えられる。筆者の経験として,家族の意向は施設方向だったが最終的には在宅復帰に至った症例もあった。ADLの改善を家族に報告,アピールしていくことの重要性も示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
老健からの在宅復帰は家族の意向をはじめ介護者側の要因が大きな影響を与えている。理学療法の目標として,段差やベッド周囲などの在宅を意識した能力の強化や「しているADL」のレベルで歩行・移動能力を改善させ家族に報告,働きかけていくことが在宅復帰につながる可能性がある。