第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

地域理学療法4

Fri. Jun 5, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0309] 要介護女性高齢者における家庭内役割と屋外活動範囲の関係

井戸田学1, 杉山享史1, 立松祥1, 齊木章二1, 辻直人1, 古川公宣2 (1.介護老人保健施設フローレンス犬山リハビリテーション科, 2.星城大学リハビリテーション学部)

Keywords:家庭内役割, 屋外活動範囲, 要介護女性高齢者

【目的】
高齢者が地域で生活し,周囲との関わりを持ち続けていくためには社会参加の継続が不可欠である。なかでも外出行動は保健指導においても重視されている課題のひとつであり,閉じこもりや廃用症候群を予防するため高頻度かつ広範囲での外出が推奨されている。一方,高齢者における家庭内役割は,加齢や健康状態の変化,同居者の存在などにより次第に縮小していくことが明らかにされている。この役割の喪失は,自尊感情や主観的健康感のみならず身体機能や社会参加にも影響を及ぼすことが危惧されている。本研究の目的は,高齢者における家庭内役割と屋外活動範囲との関係について多角的に検討することである。
【方法】
対象は認知機能に問題がなく,子またはその家族と同一家屋内に居住し,週1回以上の外出を継続している要介護女性高齢者26名(平均年齢80.2±7.9歳)とした。家庭内役割は,佐藤(2009)による8分類15項目(食事支度,洗濯,掃除,ゴミ捨て,大工仕事,庭や菜園の管理,家計や財産の管理,家業手伝い,孫の世話や家族の介護,家族の相談相手,家族のまとめ役,神棚や仏壇の管理,留守番や電話番,近所付き合い,その他)を用い,各項目の実施の有無を二件法により聴取した。屋外活動範囲は,井戸田ら(2014)による4段階の順序尺度(散歩:1点,買い物:2点,公共交通機関を利用:3点,旅行:4点)に基づき,最近6カ月間での屋外活動範囲について評価した。また,身体機能評価として歩行速度,Berg Balance Scale(以下,BBS),Timed Up and Go Test(以下,TUG),膝伸展筋力,転倒恐怖感として日本語版fall efficacy scale(以下,FES)を測定した。分析は,屋外活動範囲と家庭内役割数,身体機能,FESとの関係についてSpearman順位相関係数を用いて検討した。さらに,屋外活動範囲を従属変数,身体機能とFESおよび家庭内役割の各項目(ダミー変数化)を独立変数とした重回帰分析(Stepwise法)を行い,屋外活動範囲に関連する因子について検討した。いずれも有意水準は5%未満とし,統計処理にはSPSS ver.12を使用した。
【結果】
家庭内役割数は6.6±3.4個,屋外活動範囲は2.8±1.1点であった。屋外活動範囲との相関係数は,家庭内役割数:0.71,歩行速度:0.57,BBS:0.77,TUG:-0.74,膝伸展筋力:0.67(P<0.01),FES:0.45(P<0.05)であり,すべてに有意な相関が認められた。重回帰式は,屋外活動範囲=0.84×ゴミ捨て+1.20×掃除-0.12×TUG+3.09(R2=0.82,P<0.01)であり,屋外活動範囲に関連する因子としてゴミ捨て,掃除,TUGが抽出された。
【考察】
家庭内役割は,留守番や電話番,神棚や仏壇の管理の実施割合が高かった。高齢者においては,身体機能の低下とともに「先祖の供養(神棚や仏壇の管理)」や,「渉外(留守番や電話番,近所付き合い)」などの役割を担うことが多くなると報告されており,本研究においても同様の傾向を示した。また,「家事」役割である食事支度,洗濯,掃除の割合も高く,対象が女性であることを反映していた。相関分析の結果,屋外活動範囲と家庭内役割の総数との間に有意な相関が認められ,役割を多く担っている者ほど屋外での活動範囲は広く,より遠方への外出を実施していることが示唆された。重回帰分析では,屋外活動範囲に関連する因子としてゴミ捨て,掃除,TUGが抽出された。島田ら(2002)は,近隣での活動では歩行や動作の安定性といった基礎的な能力が必要とされるのに対し,遠方への外出ではより応用的な場面への遭遇が増し,それに適応するため安定性に加えバランス能力が必要となることを報告している。ゴミ捨てや掃除には,移動能力のみならず物品の運搬や段差昇降,姿勢変換による身体重心のコントロールなど多様な能力が要求される。その遂行には時間を要し,身体活動量がより多くなるため屋外活動範囲への影響も大きくなることが推測された。一方,TUGは外出頻度や社会活動とも密接な関連があるとされており,先行研究を支持する結果となった。これらのことから,高齢者が可能な限り役割を持つことは,身体機能の維持だけでなく屋外活動範囲の拡大において重要であり,また具体的要素として複合的かつ応用的な動作の獲得が必要であることが示された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,家庭内での役割の継続は将来的な社会参加にも影響を及ぼす可能性があることが示唆された。地域保健活動にも携わる理学療法士にとって,高齢者の外出行動に対して介入する際には,同居者や役割の有無などの家庭背景についても熟慮する必要性が示されたことは意義が大きいと思われる。