○有田真己1, 万行里佳3, 渡邊基子4, 篠原真4, 國井亮4, 森田英隆5, 遠藤敦盛5, 大久保好美5, 岩井浩一2
(1.つくば国際大学医療保健学部理学療法学科, 2.茨城県立医療大学人間科学センター, 3.目白大学保健医療学部理学療法学科, 4.介護老人保健施設ゆうゆう, 5.いちはら病院)
キーワード:気づき, アドヒアランス, セルフ・エフィカシー
【はじめに,目的】「高齢者のための運動推奨ガイドライン」によれば,筋力トレーニング,バランストレーニング,柔軟運動,および有酸素運動が推奨されており,虚弱な高齢者にとっては,筋力トレーニング,およびバランストレーニングの継続的な実施を勧めている。高齢者にとって,運動の継続的な実践による効果は多岐にわたり,身体的側面は,筋骨格系,骨密度,呼吸器系,柔軟性,およびバランス能力の改善が認められている。心理的側面は,抑うつ症状の改善,あるいはQOLの向上といった効果も報告されている。
しかしながら,運動を継続的に実践することはきわめて難しいといった報告も散見される。有田ら(2013),による高齢者を対象とした在宅運動の調査研究によると,促進要因には,「効果への気づき」といった心理的要因が関係していることが明らかとなっている。さらに,Bandura(1977)によって提唱されたセルフ・エフィカシーが行動変容の先行要因の一つであり,在宅運動の継続的な実践に寄与しているといった報告も存在する。
そこで,本研究の目的は,在宅運動実施状況と運動効果の実感およびセルフ・エフィカシーとの関係について検討すること,および運動効果の実感は,どのような時に感じるのか,身体のどの部位で感じるのかについて質的調査で明らかにすることとした。
【方法】要支援・要介護者115名(男48名,女69名;平均77.5±9.1歳)を対象とした。調査項目は,基本的属性(性別,年齢,主疾患,体脂肪量),在宅運動実施状況,運動効果の実感の有無,運動効果を実感する時および身体部位,在宅運動セルフエフィカシー尺度(以下,HEBS)であった。統計解析は,対応のないt検定,χ2検定にて算出した。なお,データ解析には,SPSS17.0を使用した。有意水準は5%未満とした。
【結果】在宅運動実施状況と運動効果の実感について連関性を見るためにχ2検定を実施したところ有意な差異が認められた(χ2=7.1,df=1,p=0.008)。そのため,残差分析を行った結果,運動効果を実感する者は,在宅運動を実施している一方,運動効果を実感しない者は,在宅運動を実施していないことがわかった。効果量は,φ=0.25であり,中程度に近い値となった。性別,主疾患および介護度と運動効果の実感の有無については,有意な差異は認められなかった。次に,運動効果の実感の有無によりHEBS得点に差があるかどうかについてt検定を行ったところ有意な差異が認められた(t=2.65,df=115,p=0.009)。効果量は,d=0.64であり,中程度の値となった。この結果から,運動効果を実感する者は,HEBS得点が高い一方,運動効果を実感しない者は,HEBS得点が低いと解釈することができる。実際に実感する場面については,歩行時37名,立ち上がり時24名,階段昇降時15名,その他であった。実感する身体部位は,下肢52名,腰24名,膝13名,その他であった。
【考察】本研究の目的は,在宅運動実施状況と運動効果の実感およびセルフ・エフィカシーとの関係について検討すること,および運動効果の実感は,どのような時に感じるのか,身体のどの部位で感じるのかについて質的調査で明らかにすることとした。
検定結果から,運動効果を実感している者は,HEBSの得点が高く「自信」といった心理的要因が効果の実感に関与していることが予測される。また,効果の実感がある者は,在宅運動を実施していることから,運動効果を実感させることが在宅運動の継続的な実践につながると考える。さらに,主疾患別,および介護度別における運動効果の実感に有意な差異が認められなかったことから,いかなる疾患でも,また介護量に関係なく運動効果を実感させられることが可能であると解釈できる。運動効果を実感する時は,歩行時,立ち上がり時,および階段昇降時であり,主に実感する身体部位は下肢であることから,効果を実感させるための着眼点が絞られた。実際の臨床場面における要支援・要介護者に対し,在宅運動の継続的な実践に働きかける手段の一つとして,運動効果をいかにして実感させられるか,およびHEBS得点を高めるといった働きかけが重要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究の意義は,運動効果の実感する状況場面および身体部位を特定することにより,実感を強調した介入方略の検討に視座を与えることである。また,在宅運動を自律的に実施してもらうために主観的な実感に対する評価の必要性,およびセルフ・エフィカシーの評価を絡めた指導につながることを期待する。