第50回日本理学療法学術大会

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ポスター

ポスター1

地域理学療法5

Fri. Jun 5, 2015 1:50 PM - 2:50 PM ポスター会場 (展示ホール)

[P1-B-0318] プレッシャーによる情動不安がLight Touch Contact時の姿勢動揺に与える影響

島谷康司1, 島圭介2, 田中美吏3, 関屋昂樹1, 長谷川正哉1, 森大志1 (1.県立広島大学保健福祉学部理学療法学科, 2.横浜国立大学大学院工学研究院, 3.福井大学教育地域科学部)

Keywords:情動不安, Light Touch Contact, 姿勢動揺

【はじめに,目的】
セラピストの手に軽く触れるだけで,“安心感が違う”,“杖よりも歩きやすい”などの発言が患者から聴かれる。指尖が軽く物に触れている(light touch contact;以下,LTC)だけで歩行が安定するなどの報告も多数ある。また,情動不安が姿勢動揺を増大させるとの報告もある。しかしながら,情動不安状態の時にLTCを行うことによって姿勢動揺が減少するといった報告はほとんどない。本研究の目的は,情動不安時のLTCが立位姿勢動揺に与える影響について検証することである。
【方法】
対象は,健常大学生35名(男性18名,女性17名)とした。実験手法として,心理的指標には,質問紙である新盤State-Trait Anxiety Inventory-Form JYZ(以下,STAI)ならびにVisual analogue scale(以下,VAS)を用いた。また姿勢動揺計測に同期して心電計測を行い,心拍変動解析から自律神経活動度(低周波成分/高周波成分;以下,LF/HL比)を算出した。情動不安には6名の観衆とビデオカメラ4台による撮影を用いてプレッシャーを付与した。プレッシャー下ではストレッサーや不安感情がパフォーマンスを低下させることが報告されている。また,高所条件による不安感情を付与する手法もあるが,転落リスクなどの倫理委員会倫理規定に則り,本実験ではプレッシャーを付与することとした。プレッシャーの有無に関して,被験者のうち半数には先にプレッシャーを与え,残りの半数には後にプレッシャーを与え実験条件を統制した。なお,観衆は被験者の周囲1mに配置した椅子に座らせ,観衆には物音を立てないよう指示した。姿勢動揺計測には,アニマ社製フォームラバー付き姿勢動揺計測機を使用し,LTC条件では被験者の右側に垂らしたA3用紙の紙に右指尖を軽く触れることとし,touchする高さ・体幹からの距離はすべてのLTC条件で被験者の任意とした。なお,測定肢位はLTCの有無の違い以外は,全ての条件で左上肢体側下垂位,閉脚立位とし,2m前方にある目線の高さに合わせた視標を注視した状態でアイマスク着用し,閉眼で行うものとした。計測時間は60秒間とした。統計解析は,LTCの有無と情動不安の有無の組み合わせによる4条件とし,各条件に対して対応のあるt検定を行った。なお,5%未満を有意水準とした。
【結果】
STAIの状態不安とVASの平均値を算出してプレッシャーの有無条件間で比較した結果,STAI・VASともにプレッシャー有りが有意に高値を示した(p<0.01)。また,LF/HL比についてもプレッシャー有りが有意に高値を示した(p<0.05)。姿勢動揺は,プレッシャーなし条件でNC条件とLTC条件を比較した結果,総軌跡長(p<0.05),外周面積(p<0.01),実効値面積(p<0.01)のいずれにおいても有意差が認められ,LTC条件は有意に低値を示した。また,プレッシャーあり条件でも同様に,3項目すべてにおいてLTC条件は有意に低値を示した。
【考察】
本研究の結果,実験条件を統制してプレッシャーを付与した結果,STAIとVASおよび心拍変動解析から算出したLF/HL比は有意に高値を示したことから,主観的・客観的データ共にプレッシャーが効果的に付与されたことが明らかとなり,プレッシャーによる情動コントロールは成立したと言える。この結果を基に,プレッシャーの有無からNC条件とLTC条件の姿勢動揺量を比較した結果,プレッシャー無し条件,有り条件ともにLTC条件が有意に低値を示した。以上の結果から,プレッシャーを付与した条件でもLTCによって姿勢動揺速度,姿勢動揺面積,姿勢動揺のばらつきが減少することが明らかとなった。プレッシャー下でのパフォーマンスの低下に関して田中らは,自律神経系の活動亢進の知覚(不安)などに処理資源(認知活動に関わる注意,努力,および思考などの心的な機能の総体)が配分されて,課題遂行に対して必要な注意が処理資源の容量内に不足することでパフォーマンスが低下するという注意散漫仮説を挙げている。また神崎らは,指先触覚が身体と環境との定位に関する求心性情報となり,中枢神経系を介して姿勢制御に寄与していることを報告している。つまり,LTCによって指尖への注意が向き,さらに身体定位がフィードバックされることによって姿勢動揺量が減少したと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,LTCがNCと比較してプレッシャー条件下の姿勢動揺量を減少させることが明らかとなった。情動不安が姿勢動揺を増大させるとの報告もあることから,屋内外での転倒などに不安を持つ対象者に対して物に軽く触れるなどのLTCが有効である可能性が示唆された。