[P1-B-0330] Pressure-volume loopからみた呼吸介助法の特徴について
Keywords:呼吸介助法, pressure-volume loop, lower inflection point
【はじめに,目的】呼吸介助法は,用手的に胸郭を圧迫し胸腔内圧を変化させることでより深い呼気を促進し換気量の改善を図る。その効果として機能的残機量の減少や気道内分泌物の移動などの効果が報告されているが,一方で最大呼気まで絞り出すような過度な圧迫は胸腔内圧を著しく上昇させ,気道閉塞や肺胞虚脱の原因となる危険性も指摘されている。また一回換気量が増加し,呼気終了と同時に吸気を促すこれらの手技は,吸気初期に過剰な経肺圧が生じ圧損傷を生じる可能性も考えられる。以前,我々は背臥位での呼吸介助法実施時の胸腔内圧とpressure-volume loop(P-V loop)を測定し,呼気時の圧迫により著しく胸腔内圧を上昇させ,圧迫を解放した時に吸気初期に気道閉塞の所見であるlower inflection point(LIP)が出現する場合があることを報告した。しかし,呼吸介助法の胸腔内圧の変化やP-V loopの特徴については不明な点が多い。そこで本研究の目的は,呼吸介助法実施時の胸腔内圧を測定し,LIPが出現する呼吸介助法の特徴を肺気量位の変化から捉えることとした。
【方法】対象(被術者)は,健常成人男性5名(平均年齢34.6±8.1歳),呼吸介助を行う術者は呼吸理学療法の経験年数が10年の男性理学療法士とした。呼吸介助法は背臥位による上部胸郭介助法,下部胸郭介助法,両側側臥位での下部胸郭介助法の4手技を十分な安静の後にランダムに2分間ずつ施行し,流量変化と圧変化を測定した。流量変化は,呼気ガス分析器(ミナト医科学社製AE-300-s)にて,圧変化は,胸腔内圧として食道内圧(Pes)を圧測定用のトランスデューサー(チェスト社製)を用いて食道バルーン法(長さ10cm,直径1.2cmのバルーンを直径2mmのポリエチレンチューブに付けたものを使用)にて測定した。得られた流量,Pesの変化はそれぞれサンプリング周波数100HzにてPCに取り込み,呼吸介助法施行中の3呼吸を抽出し解析を行った。流量変化からは一回換気量(TV),終末呼気肺気量位(EELV),終末吸気肺気量位(EILV)を求め,EELV,EILVについては肺活量に対する割合で算出した。Pesの変化からは,終末吸気位でのPes(終末吸気Pes),終末呼気位でのPes(終末呼気Pes)を算出した。また,得られた肺気量位とPesの変化から,P-V loopを作成した。P-V loopの解析は,吸気時の波形で吸気開始初期の傾きがフラットであり,その後の傾きが上がりだす点,つまり,吸気開始直後は,圧は変化するが肺気量位の変化がなく,その後に肺気量位が変化するポイントが介助時にあるかどうかを視覚的に判断し,その点を気道閉塞や肺胞虚脱の指標とされているLIPとし,その有無を視覚的に観察した。呼吸介助法におけるP-V loopのLIPの有無で各項目の違いを検討するために,各被験者の各呼吸介助時のデータをLIPがみられた群(LIP群)とLIPがみられなかった群(no-LIP群)の2群に分け,それぞれの項目の差について統計学的検定を行った。有意水準は5%とした。
【結果】LIP群,no-LIP群ともに10手技ずつであった。各項目の比較は,TV(LIP群:0.99±0.25L,no-LIP群:1.00±0.30Lは2群間に差は認めめず,EILV(LIP群:40.3±8.0%,no-LIP群:48.9±8.9%),EELV(LIP群:26.4±5.8%,no-LIP群:17.9±7.7%)はともにLIP群が有意(EILV:p<0.05,EELV:p<0.01)に低値であった。圧変化については,終末呼気Pes(LIP群:6.48±3.46cmH2O,no-LIP群:-1.56±2.91cmH2O),終末吸気Pes(LIP群:-0.11±3.24cmH2O,no-LIP群:-5.75±2.04 cmH2O)ともにLIP群が有意(p<0.01)に高値であった。
【考察】今回の結果から,介助時にLIPが出現する呼吸介助法は,LIPが出ない手技に比べて呼気終末,吸気終末の肺気量位がともに低い傾向にあることが分かった。このことから,呼吸介助法は呼気時の用手的な圧迫により胸腔内圧を上昇させ,呼気を促すことで換気量の増大を図るが,低い肺気量位まで介助を行うと気道閉塞,肺胞虚脱を起こしてしまう可能性があることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】呼吸介助法実施時のP-V loopを評価することで,用手的な胸郭の圧迫によるリスクや適切な方法について検討が可能である。
【方法】対象(被術者)は,健常成人男性5名(平均年齢34.6±8.1歳),呼吸介助を行う術者は呼吸理学療法の経験年数が10年の男性理学療法士とした。呼吸介助法は背臥位による上部胸郭介助法,下部胸郭介助法,両側側臥位での下部胸郭介助法の4手技を十分な安静の後にランダムに2分間ずつ施行し,流量変化と圧変化を測定した。流量変化は,呼気ガス分析器(ミナト医科学社製AE-300-s)にて,圧変化は,胸腔内圧として食道内圧(Pes)を圧測定用のトランスデューサー(チェスト社製)を用いて食道バルーン法(長さ10cm,直径1.2cmのバルーンを直径2mmのポリエチレンチューブに付けたものを使用)にて測定した。得られた流量,Pesの変化はそれぞれサンプリング周波数100HzにてPCに取り込み,呼吸介助法施行中の3呼吸を抽出し解析を行った。流量変化からは一回換気量(TV),終末呼気肺気量位(EELV),終末吸気肺気量位(EILV)を求め,EELV,EILVについては肺活量に対する割合で算出した。Pesの変化からは,終末吸気位でのPes(終末吸気Pes),終末呼気位でのPes(終末呼気Pes)を算出した。また,得られた肺気量位とPesの変化から,P-V loopを作成した。P-V loopの解析は,吸気時の波形で吸気開始初期の傾きがフラットであり,その後の傾きが上がりだす点,つまり,吸気開始直後は,圧は変化するが肺気量位の変化がなく,その後に肺気量位が変化するポイントが介助時にあるかどうかを視覚的に判断し,その点を気道閉塞や肺胞虚脱の指標とされているLIPとし,その有無を視覚的に観察した。呼吸介助法におけるP-V loopのLIPの有無で各項目の違いを検討するために,各被験者の各呼吸介助時のデータをLIPがみられた群(LIP群)とLIPがみられなかった群(no-LIP群)の2群に分け,それぞれの項目の差について統計学的検定を行った。有意水準は5%とした。
【結果】LIP群,no-LIP群ともに10手技ずつであった。各項目の比較は,TV(LIP群:0.99±0.25L,no-LIP群:1.00±0.30Lは2群間に差は認めめず,EILV(LIP群:40.3±8.0%,no-LIP群:48.9±8.9%),EELV(LIP群:26.4±5.8%,no-LIP群:17.9±7.7%)はともにLIP群が有意(EILV:p<0.05,EELV:p<0.01)に低値であった。圧変化については,終末呼気Pes(LIP群:6.48±3.46cmH2O,no-LIP群:-1.56±2.91cmH2O),終末吸気Pes(LIP群:-0.11±3.24cmH2O,no-LIP群:-5.75±2.04 cmH2O)ともにLIP群が有意(p<0.01)に高値であった。
【考察】今回の結果から,介助時にLIPが出現する呼吸介助法は,LIPが出ない手技に比べて呼気終末,吸気終末の肺気量位がともに低い傾向にあることが分かった。このことから,呼吸介助法は呼気時の用手的な圧迫により胸腔内圧を上昇させ,呼気を促すことで換気量の増大を図るが,低い肺気量位まで介助を行うと気道閉塞,肺胞虚脱を起こしてしまう可能性があることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】呼吸介助法実施時のP-V loopを評価することで,用手的な胸郭の圧迫によるリスクや適切な方法について検討が可能である。