[P1-B-0345] 慢性閉塞性肺疾患に喘息を合併すると増悪入院リスクが上がる
オーバーラップ症候群に対する理学療法学的視点から
Keywords:慢性閉塞性肺疾患, 喘息, オーバーラップ症候群
【はじめに,目的】
慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease;COPD)および喘息は,いずれも日本での罹患数は500万人以上と推定され,COPDの20~40%に喘息を合併すると報告されている。COPDと喘息の合併は重症化しやすいと報告もされており,2014年に喘息-COPDオーバーラップ症候群(Asthma-chronic obstructive pulmonary disease overlap syndrome;ACOS)ガイドラインが公示された。ガイドラインには,COPDとACOSの類似点と相違点に関して記載されているが,ACOSの病態に関する詳細は未だ明らかになっていないのが現状である。本研究の目的は,理学療法学的観点からACOSに対する標準的介入方法を確立していくための基礎として,理学療法学的評価によりACOSの特徴を明らかにし,COPDとの増悪リスクを比較することである。
【方法】
当院のCOPD外来患者53名(男性:44名,女性:7名,年齢:74.49±8.87歳)を対象とし,後方視的にデータを収集した。本研究における喘息の定義は“気流閉塞の可逆性および変動を認める”とし,COPDに喘息を合併した場合をACOSとした。評価項目として,年齢,性別,Body mass index(BMI),ideal body weight(%IBW),喫煙指数,GOLD気流閉塞による重症度分類(GOLD分類),1秒率(FEV1%),%1秒量(%FEV1),%努力性肺活量(%FVC),%最大呼気流量(%PEF),%肺拡散能力(%DLco),%DLco/肺胞換気量(%DLco/VA),force oscillation technique(FOT)の測定指標(R5,R5-R20,X5,Fres,ALX),増悪による入院経験の有無および回数,在宅酸素療法(LTOT)使用の有無,薬物治療(LAMA,LABA,ICS,LABA/ICS),the Modified British Medical Research Council(mMRC),COPD assessment test(CAT),6分間歩行試験(6MWT)中のSpO2最低値および脈拍,歩行距離(6MWD),modified Borg Scale(B.S)を設定した。除外基準は,COPDおよび喘息以外の呼吸器疾患,心疾患を有するものとした。ACOS群および喘息を合併しないCOPD群(non-ACOS群)の2群に分け,統計学的解析を行った。各変数特性に応じ,paired t-test,Mann-Whitney U test,Fisher’s exact testで2群間の差を解析した。また,急性増悪による入院の有無を目的変数とし,年齢,性別,喘息の有無およびCOPDの重症度予測であるBODE index(%FEV1,6MWD,mMRC,BMI)を説明変数としたlogistic regression analysis(変数増加法)で解析した。解析ソフトは,EZR(for Mactonish)を使用し,有意水準を5%未満とした。また,結果は(ACOS群vs non-ACOS群,95%CI,p value)と記載した。
【結果】
本研究の包含基準を満たした対象者は,51名でACOS群12名(23.53%),non-ACOS群39名(76.47%)であった。年齢,性別,BMI,%IBW,GOLD分類,mMRC,CAT,LTOT使用の有無について有意差を認めなかった。喫煙指数は,ACOS群で有意差をもって低値であった(787.50±679.61 vs 1143.95±590.05,p=0.03)。薬物治療は,LABA,ICS,ICS/LABAについてACOS群で使用率が有意に高かった(p<0.05)。呼吸機能であるFEV1%,%FEV1,%FVC,%PEF,%DLco,%DLco/VAに有意差はなかった。また,R5,R5-R20,X5,Fres,ALXについては有意差を認めなかったが,呼気相におけるR5(p=0.05),R5-R20(p=0.11),X5(p=0.05),Fres(p=0.12),ALX(p=0.09)についてACOS群で高値もしくは低値の傾向にあった。6MWT中のSpO2最低値および脈拍,6MWDに有意差はなかったが,B.Sはnon-ACOS群で有意差をもって高値であった(1.33±1.61 vs 4.41±2.72,95%CI:2.72 to 1.61,p<0.01)。増悪による入院経験あり(4/12名vs 3/39名,OR:5.72,95%CI:0.80 to 47.25,p=0.04)および入院回数(0.92±1.62回vs 0.10±0.38回,95%CI:-1.38 to -0.25,p=0.005)は,ACOS群で有意差をもって高値であった。また,増悪による入院の有無に対するlogistic regression analysisでは,喘息あり(OR:6.00,95%CI:1.11 to 32.24,p=0.03,判別的中率:86.3%)で有意差を認めた。
【考察】
本研究の結果からは,ACOS判別に関する有用な理学療法学的指標は得られなかった。しかし,ACOSは喘息を合併していないCOPDと比較し,増悪リスクが高いことが明らかになった。COPDに喘息を合併することで死亡リスクが上がり,医療費も2.5倍高額になることが報告されている。このことからも,COPDと気管支喘息のオーバーラップは重要な症候群であり,病院や在宅場面においても,包括的な連携による個別の臨床的マネジメントが必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
在宅医療への転換が図られ,今後地域包括ケアに対する理学療法士の役割が重要となってくる。入院場面のみならず,在宅場面においてもリスク管理の指標として喘息の有無を把握しアプローチすることで,患者の増悪リスクの早期発見および予防となり,医療費削減に繋がる重要な因子となる可能性がある。
慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease;COPD)および喘息は,いずれも日本での罹患数は500万人以上と推定され,COPDの20~40%に喘息を合併すると報告されている。COPDと喘息の合併は重症化しやすいと報告もされており,2014年に喘息-COPDオーバーラップ症候群(Asthma-chronic obstructive pulmonary disease overlap syndrome;ACOS)ガイドラインが公示された。ガイドラインには,COPDとACOSの類似点と相違点に関して記載されているが,ACOSの病態に関する詳細は未だ明らかになっていないのが現状である。本研究の目的は,理学療法学的観点からACOSに対する標準的介入方法を確立していくための基礎として,理学療法学的評価によりACOSの特徴を明らかにし,COPDとの増悪リスクを比較することである。
【方法】
当院のCOPD外来患者53名(男性:44名,女性:7名,年齢:74.49±8.87歳)を対象とし,後方視的にデータを収集した。本研究における喘息の定義は“気流閉塞の可逆性および変動を認める”とし,COPDに喘息を合併した場合をACOSとした。評価項目として,年齢,性別,Body mass index(BMI),ideal body weight(%IBW),喫煙指数,GOLD気流閉塞による重症度分類(GOLD分類),1秒率(FEV1%),%1秒量(%FEV1),%努力性肺活量(%FVC),%最大呼気流量(%PEF),%肺拡散能力(%DLco),%DLco/肺胞換気量(%DLco/VA),force oscillation technique(FOT)の測定指標(R5,R5-R20,X5,Fres,ALX),増悪による入院経験の有無および回数,在宅酸素療法(LTOT)使用の有無,薬物治療(LAMA,LABA,ICS,LABA/ICS),the Modified British Medical Research Council(mMRC),COPD assessment test(CAT),6分間歩行試験(6MWT)中のSpO2最低値および脈拍,歩行距離(6MWD),modified Borg Scale(B.S)を設定した。除外基準は,COPDおよび喘息以外の呼吸器疾患,心疾患を有するものとした。ACOS群および喘息を合併しないCOPD群(non-ACOS群)の2群に分け,統計学的解析を行った。各変数特性に応じ,paired t-test,Mann-Whitney U test,Fisher’s exact testで2群間の差を解析した。また,急性増悪による入院の有無を目的変数とし,年齢,性別,喘息の有無およびCOPDの重症度予測であるBODE index(%FEV1,6MWD,mMRC,BMI)を説明変数としたlogistic regression analysis(変数増加法)で解析した。解析ソフトは,EZR(for Mactonish)を使用し,有意水準を5%未満とした。また,結果は(ACOS群vs non-ACOS群,95%CI,p value)と記載した。
【結果】
本研究の包含基準を満たした対象者は,51名でACOS群12名(23.53%),non-ACOS群39名(76.47%)であった。年齢,性別,BMI,%IBW,GOLD分類,mMRC,CAT,LTOT使用の有無について有意差を認めなかった。喫煙指数は,ACOS群で有意差をもって低値であった(787.50±679.61 vs 1143.95±590.05,p=0.03)。薬物治療は,LABA,ICS,ICS/LABAについてACOS群で使用率が有意に高かった(p<0.05)。呼吸機能であるFEV1%,%FEV1,%FVC,%PEF,%DLco,%DLco/VAに有意差はなかった。また,R5,R5-R20,X5,Fres,ALXについては有意差を認めなかったが,呼気相におけるR5(p=0.05),R5-R20(p=0.11),X5(p=0.05),Fres(p=0.12),ALX(p=0.09)についてACOS群で高値もしくは低値の傾向にあった。6MWT中のSpO2最低値および脈拍,6MWDに有意差はなかったが,B.Sはnon-ACOS群で有意差をもって高値であった(1.33±1.61 vs 4.41±2.72,95%CI:2.72 to 1.61,p<0.01)。増悪による入院経験あり(4/12名vs 3/39名,OR:5.72,95%CI:0.80 to 47.25,p=0.04)および入院回数(0.92±1.62回vs 0.10±0.38回,95%CI:-1.38 to -0.25,p=0.005)は,ACOS群で有意差をもって高値であった。また,増悪による入院の有無に対するlogistic regression analysisでは,喘息あり(OR:6.00,95%CI:1.11 to 32.24,p=0.03,判別的中率:86.3%)で有意差を認めた。
【考察】
本研究の結果からは,ACOS判別に関する有用な理学療法学的指標は得られなかった。しかし,ACOSは喘息を合併していないCOPDと比較し,増悪リスクが高いことが明らかになった。COPDに喘息を合併することで死亡リスクが上がり,医療費も2.5倍高額になることが報告されている。このことからも,COPDと気管支喘息のオーバーラップは重要な症候群であり,病院や在宅場面においても,包括的な連携による個別の臨床的マネジメントが必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】
在宅医療への転換が図られ,今後地域包括ケアに対する理学療法士の役割が重要となってくる。入院場面のみならず,在宅場面においてもリスク管理の指標として喘息の有無を把握しアプローチすることで,患者の増悪リスクの早期発見および予防となり,医療費削減に繋がる重要な因子となる可能性がある。